概要
尿膜管遺残とは、出生前に閉鎖されるはずの尿膜管と呼ばれる管が出生後も残ってしまう状態を指します。症状がない場合も多くありますが、ときにへそから尿が漏れることがあるほか、感染によってへそや膀胱に炎症が生じたり、頻度は低いものの、悪性化してがんが生じたりすることもあります。
尿膜管とは胎児の膀胱からへそをつないでいる管で、胎児の尿は尿膜管を通じて膀胱からへそ、そして羊水中に流れていきます。出生前に尿膜管は自然閉鎖され、膀胱とへそのつながりはヒモのような索状物(正中臍索)として残ります。しかし何らかの原因で尿膜管の内腔がうまく閉鎖されずに出生後も尿膜管が残ってしまった場合、尿膜管遺残となります。子どもに多いものの、成人の約2%に尿膜管が残っているという報告もあります。
種類
尿膜管遺残には、形態に応じて4つの種類があります。
尿膜管瘻
膀胱からへそまで尿膜管が完全に残っている状態をいいます。新生児、乳児に多く、へそから尿が出ることで診断されます。
尿膜管洞
へその中に尿膜管が一部残っている状態で、もっとも頻度が高いとされています。尿膜管から粘液などの分泌物が出るため、臍炎を引き起こす場合もあります。
尿膜管嚢胞
膀胱からへそにつながっている尿膜管の途中部分が一部残って、内部に粘液がたまっている状態です。感染を起こして膿瘍化(膿がたまること)する可能性があります。感染が起こらなければ無症状のため、検診などで偶然見つかることもあります。
尿膜管憩室
膀胱と接する形で尿膜管が一部残っている状態です。膀胱炎を引き起こしやすいほか、ごくまれに尿膜管がんを発症することがあります。
原因
通常、尿膜管は胎児が出生する前に閉鎖し、膀胱とへその物理的なつながりは索状物となります。ところが、何らかの原因で尿膜管が閉鎖せずに内腔が一部残ってしまうことがあります。
症状
尿膜管遺残は、その種類によりさまざまな形で現れます。一般的な症状として、残ってしまった尿膜管の内腔に粘液がたまり、それに伴う感染が起きることがあります。一方で、特に症状がなく検診などをきっかけに発見される方もいます。
尿膜管が完全に残っている尿膜管瘻の場合、へそから尿が漏れます。また、へその近くに尿膜管が残っている場合は、臍炎を生じやすく、へそ周辺が赤く腫れたり、強い腹痛が生じたり、発熱したりする症状がみられます。尿膜管が膀胱近くに残っている場合は、膀胱炎を繰り返す傾向にあり、症状としては下腹部の痛みや発熱が挙げられます。炎症に伴って、自然閉鎖していた部分の尿膜管が再び開いてしまう方や炎症が広がって腹膜炎になる方もいます。
検査・診断
尿膜管遺残が疑われる場合、画像検査を行います。また、尿検査や血液検査を行う場合もあります。
画像検査
尿膜管の状態を確認するため、超音波検査のほか、MRI検査、CT検査などが検討されます。へその部分に瘻孔という穴が確認できる場合は、瘻孔造影検査を行うこともあります。
尿検査や血液検査
膀胱炎の診断などのために尿検査が実施されることがあります。また、炎症の程度によっては血液検査も行われます。
治療
感染による症状がある場合には、その治療として薬物療法が行われます。尿膜管そのものを摘出する手術療法も行われますが、感染などが起こらず無症状の場合は、摘出をせずに経過観察を行うこともあります。
薬物療法
感染による臍炎や膀胱炎がある場合、まずは抗菌薬などの投与によって炎症を抑える治療を行います。臍炎で炎症が重症化し、へそに膿がたまっている場合は、必要に応じてへそを切開して膿を排出します。
なお、薬の投与のみで症状が落ち着く場合もありますが、炎症は再発する傾向にあり、根治を目指すためには手術が必要となります。手術を行う際に感染による症状がみられる場合も、薬物療法による治療が先に行われます。
手術療法
尿膜管遺残に対する手術は“尿膜管摘除術”といい、根治が期待できる治療方法です。以前は開腹手術が主流でしたが、現在は腹腔鏡を用いて行われることが多くあります。腹腔鏡を用いた尿膜管摘除術では、へそと下腹部の一部に小さな穴を開け、その穴からカメラや器具を挿入して手術を行います。モニター上で病変部とその周囲を観察しながらへそから膀胱まで続いている尿膜管を摘出するため、膀胱の一番頭側の部分も一部切除することがあります。尿膜管の摘出後は、へその再形成が行われることもあります。
なお、新生児や乳幼児に手術を行うかどうかは、炎症の頻度や正確な診断を踏まえて決定されます。
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