概要
尿道狭窄症とは、膀胱から尿が排出される管である尿道が何らかの原因によって狭くなる病気です。
主な原因として、外傷や医療処置、尿道下裂の手術後などが挙げられます。症状の程度はさまざまで、軽度の場合は無症状のこともありますが、狭窄が進行すると尿の勢いの低下、残尿感、排尿時間の延長といった症状が現れます。重症化すると尿道が塞がって尿がほとんど出なくなることもあります。
尿道狭窄症は、主に男性にみられる病気です。これは男性と女性の尿道の構造の違いに起因します。
男性の尿道は女性と比べて長く、複雑な構造をしています。
尿の流れに沿って説明すると、男性の尿道は膀胱から始まり、膀胱頸部、前立腺部尿道、膜様部尿道、球部尿道(近位・遠位)、陰茎部尿道と続き、最終的に外尿道口(尿道の出口)で終わります。膀胱にためられた尿は、このような経路を通って体外に排出されます。
一方、女性の尿道は男性と比べて短く、比較的単純な構造をしています。
この解剖学的な違いにより、男性は尿道のさまざまな部位で外傷などの影響を受けやすく、狭窄を起こす可能性が高くなります。
尿道狭窄症では、狭くなった尿道を正常な太さに回復させる手術が必要になります。膀胱尿道内視鏡*を用いて尿道狭窄部を切開して拡張する方法(内尿道切開術)や金属製の器具(ブジー)などで尿道を広げる尿道拡張が広く行われていますが、成功率が低いことが問題です。尿道狭窄症診療ガイドライン(以下、ガイドライン)では、開放手術**により狭窄部を根本的に修復する尿道形成術が成功率の高い標準治療として推奨されています。
*膀胱尿道内視鏡:尿道や膀胱内の様子を直接観察するための医療機器。先端にカメラを内蔵した細長い管のこと。外尿道口から挿入し、尿道や膀胱内の様子を直接観察する。
**開放手術:皮膚や組織を切開して行う手術。
原因
尿道狭窄症の原因としては、主に外傷、医療行為の後遺障害(医原性)、尿道下裂の手術後などがあります。しかし、約30%は原因不明(特発性)といわれています。
外傷
外傷による尿道狭窄症には主に2つのパターンがあります。1つは股間を強打する騎乗型外傷です。具体的には、鉄棒などの遊具やガードレールに跨ったときなど固い物体に股間が強く衝突した場合、尿道が恥骨に挟まれて潰れることで狭窄が起こります。もう1つは骨盤骨折に伴うものです。交通事故や高所からの転落など、強い外力が骨盤に加わった際に発生します。骨盤のねじれにより尿道が断裂し、狭窄を引き起こします。多くは重症の骨盤骨折(不安定型骨盤骨折)に合併し、その頻度は10%程度といわれています。
医療行為の後遺障害(医原性)
尿道狭窄症は病院で行われる検査や治療などの医療行為が原因で起こることもあります。たとえば、膀胱の検査や治療のために尿道から内視鏡や尿道カテーテルを入れることがあります。決して頻度は高くありませんが、このような医療機器の挿入により尿道の内側が擦れて傷つくことがあります。尿道が傷ついた場合、体が傷を治そうとする過程で、傷ついた部分に瘢痕と呼ばれる固い組織ができ、尿道の内腔を塞ぐことで尿道狭窄を発症します。
最近増加している要因として、前立腺がんの治療に関連する尿道狭窄が挙げられます。前立腺がんに対する手術では、膀胱と尿道をつなぎ直し(吻合)ますが、数%の頻度で吻合部が狭窄することがあります。また、放射線治療も同じくらいの頻度で尿道狭窄を起こすことが知られています。
尿道下裂の手術後
尿道下裂とは、生まれつきの尿道の形態異常で、本来亀頭部の先端にあるはずの尿道の出口が陰茎の途中に開いている状態を指します。陰茎の皮(包皮)を利用して、子どものときに尿道下裂を矯正する手術を行いますが、包皮で作成した尿道はその後の二次性徴に追随して成長せずに、尿道狭窄症になることがあります。
そのほか
そのほかに硬化性苔癬、感染症なども尿道狭窄の原因になり得ます。
症状
尿道狭窄症の主たる症状は尿道が狭くなることによる尿の勢いの悪化です。また、排尿に時間がかかったり、排尿後も尿を出し切れていない感覚が残ったりすること(残尿感)があります。一度にきちんと排尿しきれないので、何度もトイレに行きたくなる(頻尿)のもよくみられる症状です。狭窄が進行すると、自力で排尿できなくなる可能性もあります。
尿道狭窄症を放置すると、尿路の炎症、尿道周囲膿瘍、尿道皮膚瘻、尿道憩室、膀胱結石、腎機能障害などの合併症のリスクが高まります。
検査・診断
尿道狭窄症のスクリーニングには尿流量測定が有用です。この検査で尿の勢いが弱いことが判明した場合、画像検査を追加して詳しく調べ、診断を行います。
尿流量測定
膀胱に尿がたまった状態で測定機器に向けて排尿してもらい、尿の勢い(1秒あたりの排尿量)・排尿量・排尿にかかる時間などを測定します。
画像検査
尿道狭窄症の診断に役立つ画像検査として、尿道造影、膀胱尿道内視鏡検査、MRI検査などがあります。尿道造影は逆行性尿道造影、排尿時膀胱尿道造影に分類されます。逆行性尿道造影では、体を斜めにしながら尿道口から造影剤を注入してX線撮影を行い、狭窄部の位置や長さを確認します。ただし、逆行性尿道造影だけでは狭窄部より奥の情報が得られないため、排尿しながら撮影する排尿時膀胱尿道造影を併用することが望ましいです。膀胱尿道内視鏡検査は、尿道狭窄の有無を直接観察できるため、尿道狭窄をもっとも確実に診断できます。しかし、狭窄部より奥を観察することができないので、尿道造影を併用する必要があります。尿道造影や尿道膀胱内視鏡は尿道外の情報を得ることができません。外傷による尿道狭窄症においては尿道外の損傷を把握する必要があるため、MRI検査が有用です。
治療
尿路狭窄症の治療には大きく分けて、経尿道的治療と尿道形成術があります。
経尿道的治療
経尿道的治療とは外尿道口からアプローチして行う治療のことです。皮膚を切開する必要がなく低侵襲で手技も簡便です。内尿道切開術と尿道拡張の選択があります。両者の治療効果は同等です。
この治療法は広く普及していますが、成功率が低いため、ガイドラインでは以下の条件を全て満たすごく軽症の狭窄にのみ適応が推奨されています。
- 狭窄が球部尿道に限局していること
- 外傷による狭窄でないこと
- 前治療歴がないこと
- 狭窄が2cm以下であること
- 単発であること
ガイドラインでは、これらの条件を満たさない症例への実施や、むやみに適応したり繰り返したりすることは推奨されていません。
尿道拡張
ブジーや風船(バルーン)がついたカテーテルを使用して尿道を拡張します。
内尿道切開術
内尿道切開術は、狭くなっている部分を内視鏡で観察しながら、レーザーやメスで切開して尿道を広げる方法です。
尿道形成術
尿道形成術は狭くなった部分を根本的に再建する手術です。軽症例を除く、大多数の尿道狭窄は尿道形成術により治療する必要があります。尿道形成術は尿道吻合術と代用組織を利用した尿道形成術に分類され、狭窄部位や狭窄の長さにより適切な術式が決められます。
尿道吻合術
狭窄部を切除し、残った正常な尿道同士をつなぎ直す方法です。
切除した部分を尿道の伸縮性で補う必要があるため、適応は限定的です。具体的には、伸縮性がよく、陰茎の型に影響しない部位、つまり2cm以下の短い球部尿道狭窄に適応が限られます。
代用組織による尿道形成術
狭窄部の尿道内腔を口腔粘膜や陰茎包皮などの尿道の代わりになる組織で補い、尿道内腔を拡張する方法です。
この方法は、尿道吻合術が適応できない例、つまり狭窄が長い例や陰茎部尿道に狭窄がある例に適応となります。
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