補助循環装置など、医療機器や技術が進歩している現代においても、依然として致死率の高い「劇症型心筋炎」。この劇症型心筋炎と急性心筋炎には明確な区分は存在しておらず、心筋炎の疑いがある際には、常に劇症化のリスクを考えて治療にあたるべきであると、東京医科大学循環器内科学分野 兼任講師の渡邉雅貴先生はおっしゃいます。今回は、劇症型心筋炎に陥った場合にとられる措置や、救命のために不可欠な医療体制についてお話しいただきました。
記事1「急性心筋炎と劇症型心筋炎」の中で、「劇症型心筋炎は、非常に短い時間の中で劇的に症状が悪化し、補助循環装置などが必要になるまでに深刻化するものを指す」と述べました。
この劇症型心筋炎は、30年ほど前には救命が不可能とされていたほどに危険な心筋炎でしたが、大動脈バルーンパンピング(IABP)、経皮的心肺補助装置(percutaneous cardiopulmonary support, PCPS)、LVAS(人工心臓)などが導入されたことで、救命できる疾患になりました。
現在では、こういった補助循環装置の普及や習熟度合が一般病院でも高まっており、かつては劇症型心筋炎と呼ばれていたものが、施設によっては急性心筋炎とされることもあります。東京医科大学では、365日24時間対応するために、すべての循環器内科医師が、PCPSまでの補助循環装置を患者搬入から30分以内に確立できるようトレーニングをしています。
しかし、その名の通り劇的に病態が変わるため、このような技術とマンパワーをもって対処してもなお、死に至る可能性が高いというのが劇症型心筋炎の現状です。
劇症型心筋炎の救命率は、前項でも触れた「PCPS(経皮的心肺補助装置)」の普及により上昇しました。たとえば、致死的不整脈を起こし、循環虚脱(血液循環障害による極度の脱力状態に陥ること)をきたしている際には、抗不整脈薬や大動脈バルーンパンピングでは十分な効果が得られません。
そのため、劇症型心筋炎の治療の際には、PCPSの適正な時期の導入に重きが置かれます。心筋炎の治療は、常に「いかに心臓に負荷をかけずに急性期を乗り切ったか」ということが重要な根幹になるため、私たちは、自分たちが想像しているよりも一段階早いタイミングで、上記のような補助循環装置の導入を決断する必要がある場合があることを知っておく必要があります。
さらに、劇症型心筋炎の症状の程度によっては、植え込み型の人工心臓を移植する必要が生じることもあります。これは、全国でも限られた施設でしか行えないものであり、ここでも強固な医療連携が肝要となります。東京医科大学病院からも、昨年の1年間のあいだに2名、劇症型心筋炎の患者さんを人工心臓実施可能施設へ搬送し、無事に救命することができました。これらの経験から、高度に医療が進んでいる現代においても、医師や病院に必要とされる力とは、やはり「コミュニケーション能力」であろうと私は考えています。
これは、私たち一人ひとりの創意工夫で改善できるものですので、ぜひ多くの医師の方にアピールしたいと強く思っています。病院間だけでなく、病院内でのコミュニケーションもまた、あらゆる疾患に悩まれる患者さんをいち早く救うために有用であると考えます。
みやびハート&ケアクリニック 院長、東京医科大学 循環器内科学分野 兼任講師
みやびハート&ケアクリニック 院長、東京医科大学 循環器内科学分野 兼任講師
日本内科学会 認定内科医日本循環器学会 循環器専門医日本集中治療医学会 会員日本心臓病学会 会員日本心不全学会 会員
国民病となりつつある心不全治療のスペシャリスト。劇症型心筋炎をはじめ多くの重症心不全症例の治療経験が豊富であり、東京都健康長寿医療センター循環器内科非常勤医師、ゆみのハートクリニック訪問診療部にも籍を置き、人工心臓から在宅包括心不全管理まで幅広く心不全治療の第一線にて活躍をしている。また、僻地医療にも理解が深く、定期的に離島への循環器診療応援を行っている。要請があればヘリに飛び乗り患者を迎えに行く超行動派。大学病院と在宅医療の架け橋として心不全治療の第一線で活躍する傍ら、世界各国を回り積極的な学術活動も行っている。
渡邉 雅貴 先生の所属医療機関
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