完全治癒するケースもあれば、命を落としてしまうケースもある「急性心筋炎」。急性心筋炎の予後を大きく分けるのは、病院同士の密な連携がはかれているかどうか、そして、患者に病気と闘う基礎体力があるか否かだといわれています。急性心筋炎の救命率を上げるための取り組みと、私たち一般生活者が日ごろから心掛けたい生活習慣について、東京医科大学循環器内科学分野 兼任講師の渡邉雅貴先生にお話しいただきました。
急性心筋炎の予後は良好で、後遺症もなく完全治癒される方もたくさんいらっしゃいます。しかし、これは「急性期を乗り切ることができたら」という話であり、死に至る可能性も十分にあり得ます。
急性期を乗り切ることができなかったり、重大な後遺症がのこってしまうケースの原因のひとつの可能性として、施設のマンパワー不足が考えられます。
何十人もの循環器専門医がいる大学病院と、数名で頑張っていらっしゃる一般病院とが、同じように対応することは難しいでしょう。ですから、急性心筋炎の患者さんの救命率を上げ、予後を改善するためには、やはりHigh volume centerである循環器の中核病院へのスムーズな紹介と、それを可能にする同地域内での医療連携が大切になるのです。
東京医科大学病院のような大学病院が率先して行うべき取り組みは、近隣の病院の先生が相談や紹介などをいつでもしやすい環境を作ることであると考えます。
まず、患者さんを最初に診る「一次の防波堤」として一般実地医家(開業医)・一般病院があり、心筋炎を疑わせる項目が陽性だった場合には、すみやかに大学病院のような高次機能病院に紹介する。このようなスムーズな病診連携システムが確立されることで、救命率は格段に上がるのではないでしょうか。
「大学病院にはなかなか紹介しにくい」、「疑った疾患ではなかった場合を考えるとためらってしまう」という風潮があるかと思われますが、このような風潮をなくし、コンサルテーションの垣根を低くする努力をすることは、大学病院側が地域の基幹病院として機能するための優先順位の高い課題のひとつです。
普段から病院や医師がコンサルテーションしやすい土壌づくりのために努力することが、心筋炎に関しては、患者さんの命を救うことに直結すると考えられます。
実際に、私が教えた研修医が勤務先の医療センターから心筋炎の患者さんを緊急搬送してくれ、一命を取り留めることができたという出来事もありました。その患者さんは心臓移植をする必要があるため、まだ安心できる状態とは言い切れませんが、大学病院が広く門戸を開けておくべきであると実感した経験でしたし、研修医も搬送すべき患者の状態を的確に判断し最適な時期にコンサルテーションすることができた事例でした。
心筋炎の主な原因はウイルスですが、感染したからといって全員が心筋炎になるわけではなく、メカニズムの解明にはまだ時間がかかるものと思われます。ですから、ウイルス性の疾患予防と全く同じことをしていれば予防できるというわけではありません。
ただし、心臓病全般の話になりますが、基礎体力がない方は初期を乗り切るにあたり不利になってしまう傾向があります。たとえば、若い女性の間では必要以上のダイエットが流行していますが、普段から無理をしすぎていると、いざ病気になったときに闘う体力までも削がれてしまう可能性があります。
栄養バランスのとれた食事を摂り、睡眠時間を十分に確保し、規則正しい生活を送って基礎体力をつけることは、万が一病気になったときに自分自身を守ることに繋がります。これは、循環器内科医である以前に一人の医師として、私が読者の皆様にぜひお伝えしたいことです。病気になりにくい環境を作ることの重要性は述べるまでもありませんが、心筋炎をはじめとする様々な重症心疾患と対峙する立場として、最後にお伝えしておきたいメッセージです。
みやびハート&ケアクリニック 院長、東京医科大学 循環器内科学分野 兼任講師
みやびハート&ケアクリニック 院長、東京医科大学 循環器内科学分野 兼任講師
日本内科学会 認定内科医日本循環器学会 循環器専門医日本集中治療医学会 会員日本心臓病学会 会員日本心不全学会 会員
国民病となりつつある心不全治療のスペシャリスト。劇症型心筋炎をはじめ多くの重症心不全症例の治療経験が豊富であり、東京都健康長寿医療センター循環器内科非常勤医師、ゆみのハートクリニック訪問診療部にも籍を置き、人工心臓から在宅包括心不全管理まで幅広く心不全治療の第一線にて活躍をしている。また、僻地医療にも理解が深く、定期的に離島への循環器診療応援を行っている。要請があればヘリに飛び乗り患者を迎えに行く超行動派。大学病院と在宅医療の架け橋として心不全治療の第一線で活躍する傍ら、世界各国を回り積極的な学術活動も行っている。
渡邉 雅貴 先生の所属医療機関
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