概要
急性乳腺炎とは、産褥期に発生する、乳腺から分泌された乳汁が乳房内でうっ滞(流れが滞ってしまうこと)することで炎症を起こし、乳房が腫れて痛みを伴う状態です。一般に、産後2〜4日経過すると乳汁分泌が増加します。このとき乳管開口部(乳頭の内側にあり、乳汁が出てくる出口の部分)が詰まってしまうと、乳汁排泄不全を起こして乳房の内側からの圧が上がります。
この状況を放置すると、細菌感染により乳腺が炎症を起こしてしまうことがあります。乳腺炎の発症頻度は、授乳女性の1〜2%程度といわれています。
原因
急性乳腺炎は炎症の程度によって、うっ滞性乳腺炎、化膿性乳腺炎、乳腺膿瘍の大きく3種類に大別できます。
うっ滞性乳腺炎
乳汁の排泄不全による乳汁のうっ滞が原因であり、産褥3〜4日目以降に発生することが多いです。非感染性で、ほとんどの場合は片方の乳房にのみ生じます。
化膿性乳腺炎
乳汁のうっ滞をベースとして、二次的に細菌感染をおこした状態です。産褥2〜6週頃に起こりやすいです。
乳腺膿瘍
化膿性乳腺炎がさらに進行して、乳房内に膿瘍(細菌と膿のかたまり)が形成された状態です。
乳腺炎の原因は、乳頭に問題がある場合、授乳に問題がある場合、環境に問題がある場合に分けて考えられます。
乳頭に問題がある場合
乳頭が陥没していたり、乳頭に亀裂があったり、赤ちゃんの咥え方が乳頭の形状にうまくフィットしていないことがあります。
授乳に問題がある場合
赤ちゃんの抱き方が適切でない、定期的な授乳ができていない、必要以上に長時間授乳をしている、赤ちゃんの飲み残しをそのままにしていることなどが考えられます。
環境に問題がある場合
高脂肪の食事により乳頭が詰まりやすくなっている、衣服や下着(ブラジャー)の圧迫で乳房の血液循環が悪化している、十分な休息がとれていないことなどが考えられます。
症状
急性乳腺炎の症状は、うっ滞性乳腺炎、化膿性乳腺炎、乳腺膿瘍でそれぞれ異なってきます。
うっ滞性乳腺炎
痛みを伴う乳房の腫れがあり、乳汁がうっ滞している部位を触ると硬いしこりに触れます。この状態ではまだ乳汁のうっ滞のみで、強い炎症は無く、発赤や発熱はないことが一般的です。
化膿性乳腺炎
細菌感染の合併・進行により、乳房に痛みと腫れに加えて発赤と熱感を伴うようになるほか、悪寒や震え、高熱やだるさなど全身に症状がみられるようになります。このとき、症状のある乳房側の腋下のリンパ節が腫れて痛みを生じる場合もあります。
乳腺膿瘍
乳房内で細菌感染した部位に膿瘍が形成されることから、これまで述べた症状に加えて、非常に強い乳房の痛み、腫れ、色調変化(暗赤色など)が認められます。
検査・診断
急性乳腺炎は、身体診察でほとんど診断可能です。
乳房を観察して腫れや赤みを確認する視診、実際に乳房に触って痛みのある部分の腫れの程度や膿瘍の存在を確認する触診のほか、左右両方の腋で体温を測定します。
視診や触診をして化膿性乳腺炎や乳腺膿瘍可能性があると判断した場合は、血液検査により細菌感染や炎症の程度(白血球数、CRP値など)をチェックすることがあります。さらに、乳腺膿瘍を確認するために乳房の超音波検査を実施することもあります。
治療
急性乳腺炎では、うっ滞した乳汁の効果的な排泄が重要となるため、家庭での処置と病院での援助が大切です。乳汁のうっ滞を改善させるため、症状のある側の乳房で授乳を頻回に行います。痛いからといって授乳を中止してしまうと、悪化する可能性が高くなります。
乳腺炎の解消には乳房マッサージも有効です。乳腺マッサージは閉塞部位から乳頭の方向へ乳汁を排出させるように行います。適切な方法や注意点については、医療機関で教えてもらうと安心です腫れや痛みが強い場合には、消炎鎮痛剤が処方される場合もあります。また化膿性乳腺炎への進行が認められるケースでは抗菌薬が処方されることもあります。
乳腺膿瘍では薬物治療に加え、針を乳房に刺すことで内部の膿瘍を吸引除去させたり、皮膚に切開を加えて膿瘍を排出させたりする外科的治療が必要なことがあります。全身への感染による影響が大きい場合には、点滴による抗菌薬投与が行われることもあります。
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