概要
振動障害とは局所振動、すなわち工具・機械・装置などの振動が主として手・腕を通して身体に伝達されることにより生じる障害のことです。末梢循環障害、末梢神経障害、それに運動器(骨・関節系)障害の3つの障害から構成されます。一定の条件を満たせば職業病認定を受けることができます。
原因
振動障害の発症機序は複雑で十分には解明されていません。手で持つ電動工具、すなわちチェーンソー、ドリルやグラインダーなどにより伝達される繰り返しの振動は、血管の内皮細胞、大小の神経の神経細胞、骨や関節にさまざまな障害をもたらし、それらが複雑に関与しあって発症すると考えられています。
ドリルやチェーンソーなどの使用で生じる高周波の振動は、手や手指で吸収され、主に血管や神経系の障害を起こしやすいとされます。一方、低周波の振動は上肢に伝達され、骨や関節の障害の原因になります。
症状
振動障害による症状は以下のとおりです。
末梢循環障害
初期には、寒い季節の手指の冷えやしびれとして自覚します。年数が経つとレイノー現象がみられます。レイノー現象とは、さまざまな刺激(寒冷、ストレス、精神的刺激)が生じた際に、指趾細動脈の一過性収縮による皮膚の冷感と、白蝋様の蒼白化を特徴とします。
発作時には冷感、疼痛、しびれ感などを伴うことが多いです。
症状は数分~30分程度持続して回復します。レイノー現象は振動障害のみならず、膠原病や動脈の閉塞性疾患などを背景として生じることもあります。明らかな基礎疾患がない場合はレイノー病と呼ばれます。振動障害に見られるレイノー現象は、通常左右非対称性に振動刺激を最も強く受けた指から生じます。以後、他の指にも順次拡大していきますが、親指に出現することはまれです。
末梢神経障害
指のしびれや触覚、痛覚、温度覚の低下などがみられます。これらの症状は寒冷刺激で増悪することが多く、末梢神経障害と末梢血管障害は両者が同時に生じることが多いです。
手のしびれは頚椎の病気や胸郭出口症候群、糖尿病、絞扼性神経障害などの病気でも起こりうるため、診断には慎重を要します。
運動器(骨・関節)の障害
肘の疼痛、運動制限、肘の伸展制限、骨棘の形成、骨軟骨炎などが認められることがあります。振動障害として認められるのは肘関節までの障害で、肩関節は認められていません。
検査・診断
診断のためには職業歴に関する情報が欠かせません。その中で特に、振動工具の種類、振動の程度、1日の使用時間と使用年数などを詳細に聴取します。また、レイノー現象を呈する他の病気(膠原病、動脈閉塞性疾患など)を除外する必要もあります。
末梢循環障害の検査
常温下および冷水負荷時における皮膚温検査を行います。また、サーモグラフィを用いて皮膚温度分布を計測し、手指の血流低下を評価します。寒冷刺激によりレイノー現象を誘発させる場合、手指の局所的な冷却のみでは効果に乏しいことがあるため、送風などで体全体の冷却を行うこともあります。
末梢神経障害の検査
常温下および冷水負荷時における振動覚や痛覚の感覚閾値測定を行います。他には温・冷覚の感覚閾値測定や末梢神経伝導速度検査も行われます。
運動器(骨・関節)の障害の検査
握力やつまみ力の検査や、必要に応じエックス線検査により手関節や肘関節の変化の確認を行います。
治療
薬物療法、理学療法、運動療法、温泉療法などを組み合わせて行います。根本治療はなく対症療法となりす。配置転換により振動工具を用いない部署への移動など、職場における病気への理解が必要になります。振動刺激のない運動や労働は心肺機能維持・亢進のみならず、筋収縮のポンプ作用や交感神経亢進作用などを介し、症状の改善に寄与すると考えられています。
薬物療法
末梢血管拡張薬による治療が一般的です。その他には交感神経中枢抑制薬、循環ホルモン薬、ビタミン剤、筋弛緩薬、向精神薬などが用いられることもあります。
理学療法
ホットパック、パラフィン浴、運動浴などが行われます。
予防
振動障害の予防には、防寒と保温 、生活の中での振動刺激の回避、適度な体操、禁煙が重要です。日曜大工や庭の手入れで使用する工具による振動やオートバイの運転なども、ハンドルからの振動刺激の可能性があります。また、喫煙は末梢の血管収縮を引き起こし、振動障害の誘引、増悪の原因となります。
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