精索静脈瘤の記事では、男性不妊症患者の約40%にみられるこの病気がどのようなものかについてご説明しました。今回と次回の記事では、この病気の有効な治療法のである腹腔鏡下手術について、さらに詳しく説明します。泌尿器科生殖医療専門医の一人であり、男性不妊の啓蒙につとめる湯村寧先生にお話をうかがいました。
精索静脈瘤における治療の主体は外科手術です。もちろん「手術したくない」という患者さんには薬物療法を行うこともありますが、薬物療法は全員に効果があるわけではありません。
外科手術では、精巣に行く静脈を遮断します。この手術により、あらたな血行路(血液の流れ)が形成され、血流を改善し静脈瘤が消滅するというメカニズムです。
遮断する部位は術式で分けると主に2つ、高位結紮術並びに腹腔鏡下手術と低位結紮術です。
高位結紮術(こういけっさつじゅつ)ならびに腹腔鏡手術は、内精巣静脈が骨盤内から陰嚢に向かう手前で遮断を行います。
一方、低位結紮術(ていいけっさつじゅつ)という術式では骨盤から静脈が出てきた部分を遮断します。
横浜市立大学附属市民総合医療センターでは腹腔鏡下手術と低位結紮術の両方を行っていますが、今回は腹腔鏡下手術の説明を中心にしていきます。
腹腔鏡下手術は通常、創(傷跡)が小さく、患者さんにとって術後の痛みが少ない・傷の治りが早いというメリットがあり、現在多くの科で主流となりつつある術式です。
腹腔鏡下手術では、おなかに何カ所か穴を空け、外部からスコープや鉗子を入れられる筒(ポートといいます)を挿入し、スコープでの観察を行いながら鉗子で必要部位を切除して行きます。
精索静脈瘤に腹腔鏡下手術を応用することのメリットは、前述したとおり創が小さいことです。ただし、低位結紮術の場合もそれほど大きな創にはなりませんので、これは腹腔鏡下手術のみのメリットではありません。
低位結紮手術では動脈損傷による精巣萎縮の可能性がありますが、腹腔鏡下手術ではそのリスクは殆どありません。また低位結紮手術は動脈・リンパ管を温存したまま手術を行うため時間が多少かかります(1.5〜2時間)が、腹腔鏡手術では片側で1時間弱・両側を行っても1.5時間程度で終了します。
また、一見難しそうな術式に聞こえるため、手術費用が気になるかもしれませんが、腹腔鏡手術は保険診療で行われます(横浜市立大学附属市民総合医療センターは、保険診療を行っていないこともある低位結紮術でも保険診療で扱います)。施設によっても差はありますが、腹腔鏡下手術は横浜市立大学附属市民総合医療センターの場合、入院費込みで約20万円程度です。
泌尿器科・腎移植科では腹腔鏡下手術に「単孔式」を採用しています。「単孔式」とはお腹にひとつだけ穴をあける、という意味です。
なお、切開部位はおへその脇です。この部位に長さ2cm程度の切開をおき、穴を開けます。
ちなみに、おへその脇を切開する理由は、おへそのすぐ下には腹直筋(腹筋)がないため、やせている人も太っている人も距離的にほとんど変わりがないからです。また、腹筋を傷つけもしないので、術後の体動時の痛みも軽くて済みます。
ここからは具体的な術式について説明します。おへそに穴をあけた後は、5mmのスコープと、5mmの鉗子を2本挿入し、骨盤の壁に付着している内精索静脈を結紮(遮断)します。結紮には金属(チタン製)のクリップ・医療用のプラスチッククリップ・最近では術後体に吸収される「溶けるクリップ」なども使用して血管を遮断し、その後切断します。
その後、出血・内臓の損傷がないことを確認し、スコープを抜いてからおへそを縫って閉じます。ちなみに、この場合も吸収糸(溶ける糸)で縫いますので抜糸は不要です。また、術後は3〜4時間で歩行可能、食事は夕方から開始できます。
退院日は傷からの出血をみて詳しく決めますが、翌日朝としています。つまり、総合すると正味入院期間は二泊三日で済みます。
合併症や治療成績については、「精索静脈瘤の腹腔鏡下手術とは(2)」で引き続きご説明します。
横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター 泌尿器科部長・准教授、田園都市レディースクリニック 臨時職員
横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター 泌尿器科部長・准教授、田園都市レディースクリニック 臨時職員
日本泌尿器科学会 泌尿器科専門医・泌尿器科指導医日本生殖医学会 生殖医療専門医日本癌治療学会 会員日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
日本生殖医学会認定 生殖医療専門医(泌尿器科)の一人であり、男性不妊治療の専門家。横浜市の不妊相談などを担当し、男性不妊の啓発活動に努めている。また、横浜市立大学附属市民総合医療センターの生殖医療センター部長を務める。同センターは泌尿器科、婦人科に日本生殖医学会認定 生殖医療専門医(泌尿器科)が在籍しており、パートナーと一緒に治療を受けられる神奈川県内の施設である。
湯村 寧 先生の所属医療機関
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