前回記事「精索静脈瘤の腹腔鏡下手術とは(1)」に引き続き、今回の記事でも腹腔鏡下手術について詳しく説明します。日本で50人弱しかいない泌尿器科生殖医療専門医の一人であり、男性不妊の啓蒙につとめる湯村寧先生にお話をうかがいました。
精索静脈瘤の腹腔鏡下手術は、単孔式ではうまくいかない場合があります。具体的には以下2つの理由が考えられます。
この場合にはまず、お腹にもうひとつ5mm程度の穴を開け、操作鉗子をあらたに挿入します。それでも対応困難な場合には、開腹手術に切り替えるか、手術を中止する場合もあります。
クリップをかける血管のすぐ近くには大腸・小腸・足に行く動脈などが見られます。ゆえに、癒着や出血などにより視野が悪化して、これらの臓器・血管を傷つけてしまう場合があります。損傷が確認された場合は直ちに開腹し、損傷部位の修復を行います。
また、腹腔鏡手術の場合(開腹手術でもありえます)、後から損傷が判明する場合もあります。その場合も判明した時点で開腹手術になります。
例えば手術後、手術中に何も問題がなかったにもかかわらず発熱や強い腹痛があった場合、安全確保のため、症状が落ち着くまで(もしくは安全が担保できるまで)入院していただくこともあります。
術中はしっかり止血していると確認できたとしても、後から出血する場合もあります。これは腹腔鏡手術に限ったことではありませんが、出血がひどい場合には再度開腹して止血を行う事があります。
これは一時的なものといえるでしょう。腹腔鏡手術では視野を確保するため、お腹の中にCO2を入れて手術を行うため、以下のことが起きる可能性があります。
皮下気腫:CO2が皮膚と筋肉の間に入り込んで起こります。皮下組織がはがれてしまう症状で、患者さんによっては「肉離れを起こした」感覚になるようです。ただし、CO2はいずれ体内に吸収されて行くので自然に回復するため、大きな心配は不要です。
腸の動きが悪くなる:CO2の刺激により、腸が動きづらくなります。通常は手術後の夕方から食事・飲水を開始しますが、このために気持ち悪くて食事が取れないという方もいらっしゃいます。この症状も通常は1-2日でよくなります。
肩の痛み:術後肩の痛みを訴える方が時々いらっしゃいます。この症状も、多くの場合は1-2日で治まります。
陰嚢内に水がたまってふくれてくる病気です。これは、リンパ管も一緒にクリップをかけることで発症します。腹腔鏡の静脈瘤手術は低位結紮術と比べ、この発生率が多いと言われていますが、実際にはそれほどの差はないでしょう。
陰嚢水腫の合併症が起きた場合、多くは経過観察だけで済みますが、たくさん水がたまって陰嚢がふくれて見栄えが悪い場合・こすれて痛い場合などは陰嚢に針を刺して水を抜いたり、手術で水のたまる袋だけ取ってしまうこともあります(精巣は残します)。
クリップをかける血管の外側に太ももの知覚神経が存在し、これを損傷すると同部位の知覚が消失します。とはいえ歩けなくなる心配はなく、多くの場合3ヶ月くらいで徐々に知覚はもどってきます。
臍に感染することがあります。多くは抗生剤の内服や抗生剤軟膏で改善します。
残念ながら手術した患者さん全員の精液が正常化し自然妊娠できるまで回復するわけではありません。しかし、6-70%の患者さんには精液所見の改善が見られています。具体的には、早い人で術後1ヶ月くらいから、遅くても3-6ヶ月で治療効果が表れてくるといえるでしょう。
また、静脈瘤を有している患者さんの場合、精液所見が正常なので体外受精を行ったが、受精卵の発育が悪く妊娠に至らなかったということもありますが、手術を受けた後受精卵の発育が改善し、妊娠に至ったというケースもあります。横浜市立大学附属市民総合医療センターのデータでは、自然妊娠ではなくても、手術を受けた方の半数近くはタイミング・人工授精・体外受精で妊娠に至っています。
腹腔鏡下手術はまだ歴史も浅く、低位結紮術などに比べて手術を受けた患者さんもまだ少ないですが、横浜市立大学附属市民総合医療センターでの結果を見る限りでは低位結紮術と大きな差はない印象です。合併症は前述のとおりですが、それほど高い確率ではありません。
また、腹腔鏡下手術は動脈損傷による精巣萎縮の可能性がきわめて低い分、不妊治療には有効と思われます。ちなみに、この手術は、不妊の専門家でなくても泌尿器科の腹腔鏡専門医がいる施設であれば可能です(その場合は単孔式では無く3カ所の穴を空けることが多いです)。
なお、横浜市立大学附属市民総合医療センターでは、手術予定の合わない患者さんに対して、手術だけは一般の泌尿器科の病院でお願いし、精液検査のフォローなどは我々生殖医療センターで行うといった体制も取っております。
横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター 泌尿器科部長・准教授、田園都市レディースクリニック 臨時職員
横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター 泌尿器科部長・准教授、田園都市レディースクリニック 臨時職員
日本泌尿器科学会 泌尿器科専門医・泌尿器科指導医日本生殖医学会 生殖医療専門医日本癌治療学会 会員日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
日本生殖医学会認定 生殖医療専門医(泌尿器科)の一人であり、男性不妊治療の専門家。横浜市の不妊相談などを担当し、男性不妊の啓発活動に努めている。また、横浜市立大学附属市民総合医療センターの生殖医療センター部長を務める。同センターは泌尿器科、婦人科に日本生殖医学会認定 生殖医療専門医(泌尿器科)が在籍しており、パートナーと一緒に治療を受けられる神奈川県内の施設である。
湯村 寧 先生の所属医療機関
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