インタビュー

意外と多い! 男性不妊症の原因とリスクとは

意外と多い! 男性不妊症の原因とリスクとは
湯村  寧 先生

横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター 泌尿器科部長・准教授、田園都市レディ...

湯村 寧 先生

この記事の最終更新は2015年03月06日です。

不妊症の定義は「正常な性生活を2年続けても妊娠しない状態」を言います。男女ともに正常なカップルが性生活を1年間続けると85%が妊娠するとされており、残りは15%になります。現在日本では夫婦の6~10組に1組が不妊症であると言われています。

不妊症と言えば、女性のことを思い浮かべる方が多いと思います。しかし、実際はそうではありません。男性が原因である場合も多くあります。不妊症は女性だけ、男性だけの問題ではなく夫婦、カップルの病気なのです。WHOによれば、48%の不妊症カップルが男性にも原因があるとされています。つまり、不妊症の半分には男性が関わっていると言えるのです。

医療機関でとったデータによると、2600組の不妊症カップルのうち、本来1300人近くいて良いはずの男性受診者数が、246人しか受診していなかったという結果でした。このデータは、男性不妊がいかに知られていないか、いかに男性が受診していないかという現状を示しています。

男性不妊症の認識がなく、女性のことだと思い受診が遅れてしまうと、大切な「時間」を失うことになります。当然のことですが、カップルが年齢を重ねるほど不妊症の治療の成功率は下がってしまうのです。そのため、少しでも早い受診・治療が必要と考えています。

男性不妊症の原因疾患を以下に示します。データは平成10年のものです。

造精機能障害とは、精子を造っている精巣の障害で、精液中の精子の数が少なかったり、精子の動きが悪くなったりする病気です。これが男性不妊の原因のうち最多となっています。

このうち約半数は原因不明で、約35%は精索静脈瘤(精巣から出てくる静脈の一部がこぶ状に膨れる病気)が原因です。

その他の原因として、ホルモン異常、薬剤性、おたふくかぜ後の精巣炎、停留精巣(精巣が陰嚢のふくろの中ではなく、下腹部などに留まっている状態。治療していても造精機能障害の原因となる)、染色体異常などが挙げられます。

精路通過障害とは、精巣で造られた精子が尿道を通って出て行くまでの通路に問題がある病気で、射精の時に精子が外に出て行けなくなります。

精路通過障害の原因として、パイプカット後(42%)、小児期の鼠径ヘルニア術後、(25%)、炎症による後遺症(9%)が挙げられます。その他、原因不明のものが24%を占めます。

男性の性欲や勃起、射精に問題があることで、正常に膣内に射精ができない(性機能障害)と男性不妊の原因の一つとなります。性機能障害は近年増加中で、不妊外来でもEDの診察は重要なウェイトを占めています。

上記1~3以外の原因として、精巣以外で精子の運動に影響する部分(前立腺や精嚢など)の障害(副性器障害、例えば前立腺炎など)があります。その他、遺伝性の病気で精子の運動に障害が起きるKartagener症候群なども男性不妊の原因となります。

おたふくかぜ(流行性耳下腺炎・ムンプス)や抗がん剤、放射線治療はリスクになりうるとされています。また、高齢になればなるほど精子の運動率が減り、精子数が減ります。喫煙との関係はまだはっきりとしたデータはありませんが現在、酸化ストレスと男性不妊との関連が指摘されており、喫煙は酸化ストレスの原因になります。

酸化ストレスとは「酸素がきちんと体内で使われず、活性酸素(フリーラジカル)という産業廃棄物のようなものができる」ことを言います。この活性酸素が精子の細胞膜に悪影響を及ぼすことが知られており、活性酸素が多いほど精子の運動率も濃度も低下するというデータが出ています。

まずは女性の病気ではなく夫婦の病気と考えることから始めましょう。そもそも不妊が女性の病気と考えてしまうことが、男性の受診を遅らせている原因と考えます。

まずはじめに男性不妊も対象としている不妊のクリニックで診察や精液検査を受けてみましょう。泌尿器科医(とくに生殖医療専門医)がいるクリニックがベターです。泌尿器科医がいないクリニックでも、精液検査で異常がある場合は泌尿器科への紹介を希望された方がよいかと思います。また、自治体によっては「不妊相談」を開設しているところもありますのでそこでアドバイスをもらう方法もあります。横浜市は不妊相談コーナーを開設しており私もお手伝いをしています。
神奈川県では2015年2月現在、8名の泌尿器科生殖医療専門医がおります。横浜市立大学附属市民総合医療センターの生殖医療センターは泌尿器科に3名、婦人科に1名の生殖医療専門医がおり、夫婦一緒に治療を受けられる県内唯一の施設です。

必ずしも治るわけではありません。しかし、精索静脈瘤の場合は手術で治療できる場合があり、その他にも内服薬で効果がある場合があります。治療により精液の所見がよくなる可能性があるため一度は受診を検討して下さい。

また、精液所見が改善することにより、不妊治療の負担が軽減できる場合があります。ひとつの例としては、体外受精と人工授精です。体外受精をしなければいけなかったカップルが治療を受けることで精液検査所見が改善して人工授精で済む可能性もあり、精神的・経済的な負担が減ることがあります(体外受精の方がより大変な治療になります)。だからこそ不妊は夫婦の病気と言われているのです。

 

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  • 横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター 泌尿器科部長・准教授、田園都市レディースクリニック 臨時職員

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