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不妊の原因――女性・男性別の不妊要因とは?

不妊の原因――女性・男性別の不妊要因とは?
河村 寿宏 先生

田園都市レディースクリニック 理事長、田園都市レディースクリニック あざみ野本院 院長

河村 寿宏 先生

目次
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この記事の最終更新は2017年12月26日です。

不妊症となる原因は男女共にあります。女性の場合は、卵子の老化や排卵障害、卵管の異常、子宮内膜症、免疫の異常、子宮の異常、感染症などが原因となります。男性の場合は、造精機能障害、精路通過障害、性機能障害、感染症などが原因となります。

前回に引き続き、田園都市レディースクリニック理事長の河村寿宏先生に男女別の不妊症の原因についてお話しいただきました。

そもそも妊娠とはどのように成立するのでしょうか。自然に妊娠が成立するためには、

  1. 「排卵」と卵子のピックアップ
  2. 「受精」と胚の子宮への移動
  3. 「着床」

の3つのステップが必要です。

このいずれかに問題があると、妊娠できない、つまり不妊症になります。

自然妊娠の成立機序

もともと卵子は卵巣内の卵胞という袋の中に入っています。そして、脳下垂体から分泌されるホルモンの影響により、通常の場合、毎周期1個が成熟し、成熟した卵胞から卵子が排出されます。これを排卵と呼びます。

たとえば、月経周期が28日型の方だと、排卵は14日目あたりに起こることが多いです。排卵された卵子は卵管の先端部分にある卵管采から卵管に取り込まれていきます(ピックアップ)。そして、卵管膨大部という部分で精子と受精することになります。排卵された卵子の寿命は1日以内です。

排卵が近づいてくると、子宮の入り口付近から頸管粘液(けいかんねんえき)という粘液が分泌され、精子を受け入れやすくなります。腟内に射精された精子は子宮の中から卵管を通って、排卵された卵子がある卵管膨大部に到達します。

そして卵子と融合し、1つの細胞(受精卵)となります。これが受精です。女性の体内での精子の寿命は、一般的に3日程度で、長い場合は1週間ほどといわれています。

受精卵は受精後、細胞分裂を繰り返しながら、卵管内を子宮に向かって移動していきます。

受精卵は細胞分裂が進み、排卵から約5日目に胚盤胞(はいばんほう)という状態になります。一方で子宮内膜*は月経後から増殖して厚みを増し、着床期に向かって受精卵を受け入れやすい環境に変化していきます。

着床の流れ
胚の細胞分裂の経過
 

*子宮内膜:子宮の内部にある組織。妊娠しなかった場合、肥厚した組織は剥離し、月経として体外へ排出される。

排卵から7日目に胚盤胞は子宮内膜に潜り込みます。これを着床といい、またこの着床をもって妊娠が成立したとみなされます。

長年、不妊の原因は女性にあるという認識が多くの方々の中にありました。しかし、世界保健機構(WHO)の発表によると、不妊症の方のうち、不妊症の原因が女性側のみというケースは41%、男性のみは24%、男女双方は24%、原因不明は11%であり、不妊症カップルの約半数は男性にも原因があることが分かっています。

不妊原因の男女別内訳

 

このように不妊症は男女両方に原因がありますが、具体的に女性の不妊には以下のような原因が考えられます。

一方、男性の不妊原因には、

  • 造精機能障害
  • 性機能障害
  • 精路閉塞障害

などがあります。

男性不妊の理由について詳しくはこちら

加齢に伴い卵子の数が減少するだけではなく、質も低下していきます。これはごく自然な現象のため不妊の病的原因には入れない、という考えもあります。しかし、30歳代後半以降、特に40歳代の方が妊娠しにくいもっとも大きな原因が卵子の老化なのです。

卵子の質が低下するという点では、年齢が上がるとともに、卵子の染色体異常の割合が上昇することが分かっています。

卵子の老化について詳しくはこちら

卵子染色体異数性率
女性の年齢と卵子染色体異数性率
 

卵管は卵子を取り込み、精子との受精の場となり、受精卵を子宮に運ぶというはたらきをします。しかし、卵管が何らかの原因により閉塞すると、卵子と精子が出会えないため受精することができません。

また、卵管周囲の癒着などにより、卵子を取り込めないと(ピックアップ障害)、精子が卵管膨大部に届いていたとしても卵子と受精することはできません。

卵管の閉塞や癒着などによるピックアップ障害のほとんどは、後天的なものです。原因としては、クラミジアを筆頭とする感染症や、過去の腹腔内の手術(虫垂切除術など)、過去の腹膜炎子宮内膜症によるものが多くを占めています。

卵管の異常は、女性の不妊原因の中でも上位の原因です。そして、卵管に異常を起こす原因としてもっとも多いものがクラミジア感染症です。クラミジア感染症とは、クラミジアトラコマティスと呼ばれる病原体に感染することで発症します。また、その他の性感染症(STD)でも、卵管性不妊の原因となることがあります。

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子宮内膜症とは、子宮内膜が子宮内腔に発生せず、卵巣や骨盤の腹膜などに入り込んでいる病気です。子宮内膜症による癒着や炎症による卵子のピックアップ障害、腹腔内の炎症性細胞の増加などが不妊の原因となることがあります。

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排卵障害とは、排卵がなかったり(無排卵)、排卵が遅延したり、まれにしか排卵がなかったりすることです。排卵が遅れる、まれにしか起きない場合は、月経不順となります。

月経不順の原因は、視床下部や脳下垂体からのホルモン分泌の異常、卵巣機能低下が関係しています。ホルモン分泌の異常で頻度の高いものに多嚢胞性卵巣症候群PCOS*があります。そのほかには、急激な体重増加や減少、精神的ストレスなども関係しています。また、卵巣機能低下は、早発卵巣不全**が関係している場合があります。

*多嚢胞性卵巣症候群(PCOS):両側卵巣が腫大・多嚢胞化・表層は肥厚し、排卵障害、月経異常、不妊、多毛などを伴う症候群。

**早発卵巣不全:40歳未満で卵巣機能が低下し、無月経となった状態。内分泌的にはFSHが高値、エストロゲン低値となる。

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子宮筋腫とは子宮の筋肉から発生する良性の腫瘍(しゅよう)です。不妊の原因として、粘膜下子宮筋腫により胚の子宮内膜への着床が妨げられることがあります。筋層内子宮筋腫でも、子宮内腔が変形するような場合などでは、着床障害の原因となり得ます。また、精子の移動や卵子のピックアップに障害が出る子宮筋腫もあります。

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子宮内膜の異常により、着床が妨げられる可能性がある代表的な疾患として、子宮内膜から子宮内腔に向かって腫瘍ができる子宮内膜ポリープがあります。他には、子宮内膜増殖症*や、子宮内腔が癒着するアッシャーマン症候群、子宮内膜が薄い場合も着床障害の原因となるケースがあります。

*子宮内膜増殖症:子宮内膜が過剰に増殖し、異常なほど厚くなってしまう病気。

先天的に子宮の形が正常でなく、妊娠しにくい方もいらっしゃいます。

排卵期に子宮の入り口付近から分泌される子宮頸管粘液の量が少なく、妊娠しにくい場合があります。初期の子宮頸がんで子宮の入り口の部分を切除(円錐切除術)している場合にも、頸管粘液の分泌が不良となり、排卵期に精子が子宮に入りにくくなることがあります。

不妊原因の免疫因子として、精子の運動を止めてしまう精子不動化抗体がある場合は、受精を妨げる原因となります。

卵巣の手術を行った場合に、卵子の数が低下することがあります。そのため、近年は、患者さんが妊娠を希望する場合、妊娠能力を極力低下させない治療法が推奨されています。たとえば以前は、卵巣嚢腫の手術の場合、腫瘍を卵巣ごと全て摘出するという方法も普通に行われていました。そのため、卵子の量が減少し、不妊に悩む患者さんもいらっしゃいました。しかし近年は、術後に妊娠を希望されている方については、腫瘍のみを摘出し、なるべく卵巣の正常部分を温存する術式が多く採用されています。

また、良性腫瘍であれば、先に妊娠・出産をしていただき、後ほど様子をみながら手術を行う方法や、手術の前に卵子を採卵し、受精卵にしたものを凍結しておくということも行われています。

不妊と喫煙

日常生活の中で、妊娠が成立する可能性を下げてしまうものとして、特に注意すべきものは、喫煙と受動喫煙です。喫煙ががんの原因となるという事実は多くの方が認識しています。

しかし、たばこの毒性物質は、卵巣や精巣にも集積されます。そして、卵子・精子の遺伝子異常、染色体異常を引き起こし、受精率と妊娠率の低下、流産率の上昇につながるという事実はまだあまり知られていません。また、胎児にも悪影響を与えます。

たばこの有害物質により、卵子の数は減少します。そのため、喫煙を長期的に続けた女性の卵子は早く枯渇し、閉経年齢も早くなります。また、喫煙でのダメージと老化による卵子の数の減少、質の低下が加わることによって、不妊治療を実施した場合でも、非喫煙者との妊娠成績に差が生じることがあります。

喫煙の影響について詳しくはこちら

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