概要
成熟した女性の体では、約1か月の周期で排卵や、子宮内膜の変化が起こります。排卵後、妊娠に至らなかった場合は、子宮内膜が剥離し血液などとともに排出される“月経”が起こります。通常、月経は25日~38日の周期で起きますが、月経周期がこの範囲よりも短くなったり長くなったりする状態を“月経不順”といい、一般に“生理不順”とも呼ばれます。
月経不順には、周期が通常より短くなる“頻発月経”と、長くなる“希発月経”があります。また、妊娠していないにも関わらず3か月以上月経がない状態を“無月経(続発性無月経)”と呼びます。月経不順の原因には、ストレスや過度の体重減少のほか、卵巣や子宮の病気、ホルモンを調節する脳部位の病気、薬剤の影響などがあります。
ストレスなどによる一時的な月経周期の乱れでも、放置してホルモンバランスが乱れた状態が長く続くと不妊につながることがあります。また、腫瘍などの治療が必要な病気が隠れている場合もあります。月経不順の原因は多岐にわたるため、月経周期の乱れが続くなど気になる症状がある場合は、医療機関に相談するとよいでしょう。
原因
月経不順の原因には、ホルモンバランスの乱れや卵巣の病気などが挙げられます。ホルモンバランスが乱れる原因としては、ストレスや過度なダイエット、環境の変化などがもっともよくみられます。月経不順にはさまざまな原因が考えられるため、異常を感じた場合は自己判断せず、専門医を受診するとよいでしょう。
生活習慣や環境による影響
ダイエットや肥満、ストレス、疲労、環境の変化などがホルモンバランスに影響し、短期的に月経周期が乱れることがあります。過度な体重減少や過度なストレスはホルモンを調節する“視床下部”という脳部位に影響し、卵巣機能の障害を引き起こす可能性があります。
卵巣の病気
卵巣の病気のうち、月経不順の原因として比較的多い病気としては多嚢胞性卵巣症候群が挙げられます。成熟した女性の5~8%に発症するといわれていますが、この病気自体の原因は分かっておらず、男性ホルモンの量が増えることにより排卵しにくくなり月経不順や無月経を引き起こすとされています。
そのほか、卵巣の腫瘍や、早発卵巣不全(40歳未満で閉経のような症状が起こる病気)などで卵巣機能が低下すると、月経不順になることがあります。
ほかの臓器の病気
脳下垂体は、月経に関わるホルモンを調節するはたらきをしています。脳下垂体に腫瘍ができる、またはその腫瘍を手術で取ることで、ホルモンバランスが変化して月経に影響が出ることがあります。
また、甲状腺の機能が低下した影響でプロラクチンというホルモンが増えることがあります。プロラクチンは、母乳の分泌を促したり母体への負担を減らすために出産直後の妊娠を抑えたりする作用があり、通常は妊娠中や出産後に増加します。しかし妊娠中や出産でないにもかかわらず何らかの理由でプロラクチンが高値の場合、排卵を障害して月経不順となることもあります。
薬剤や治療の影響
うつ病やパニック障害の治療のために処方される精神安定薬の影響で、プロラクチンが高まり、排卵が止まることがあります。また、抗がん薬治療や放射線治療、卵巣の手術の影響で、卵巣機能が低下して排卵が障害され月経不順となることがあります。
その他の原因
月経が止まる原因として妊娠や閉経がありますが、これらは自然な変化であり病気ではありません。また、初めての月経から数年間は排卵周期が定まらないことも多く、月経不順があっても正常な乱れの範囲内といえる場合もあります。一方、月経不順だと思っていたものが、実は月経ではなく不正出血(月経以外の性器出血)である場合もあります。不正出血では、ポリープや子宮の腫瘍、血液凝固異常などほかの病気が隠れている場合があるため、心当たりがある場合は病院で診察を受けるのがよいでしょう。
症状
月経不順では、月経周期が24日以内と通常より短くなる“頻発月経”、39日以上と長くなる“希発月経”、妊娠していないのに3か月以上月経が来ない“無月経(続発性無月経)”、といった症状がみられます。月経不順にともなって、排卵周期の乱れがあったり、排卵が止まっていたりする場合もあります。また、1回の月経の継続日数が普段より長く(あるいは短く)なることや、不正出血がみられることがあります。
頻繁な不正出血は量が多いときには貧血を引き起こすこともあります。また、ホルモンバランスの乱れによって、骨の量が減少したり、子宮体がんになる確率が高くなったりすることがあるといわれています。長期にわたって卵巣機能の低下が続くと、不妊の原因となることがあります。
多嚢胞性卵巣症候群の場合は、無月経や月経不順のほか、男性ホルモンの影響で体毛が濃い、にきびができやすい、太りやすく痩せにくい、といった症状が現れます。また、プロラクチン値が異常に高い状態(高プロラクチン血症)では、妊娠していなくても月経が止まり、少量の母乳が分泌される場合があります。
検査・診断
月経が遅れている場合には、まず、妊娠でないことを確認します。妊娠がない場合、月経不順や無月経の診断のためには、問診のほか、血中ホルモン濃度の検査や、超音波、CT、MRIなどを用いた画像診断などが行われます。必要に応じて、子宮の細胞や組織を取って検査したり、染色体検査が実施されたりすることもあります。
問診では、月経の状態、既往歴、妊娠分娩歴、体重の増減、ストレス、内服薬、家族の既往歴、月経不順以外の症状の有無などについて確認します。栄養状態や骨量の検査が行われることもあります。基礎体温は排卵の有無を確認するために有効なので、基礎体温を記録している場合は問診の際に伝えるとよいでしょう。
視診や経腟超音波検査では子宮や卵巣の状態を確認します。細胞の状態を確認したほうがよいと判断された場合は、子宮の細胞や組織を採取して検査することがあります。
ホルモンバランスの乱れについては、原因となる部位(視床下部、脳下垂体、卵巣など)と乱れのパターンを見極めるために、複数のホルモンの血中濃度を測定します。また、検査のためにいくつかのホルモンを投与し、反応としての出血の状態を確認することがあります。
治療
月経不順では、その原因と、妊娠を希望しているかどうかで治療が異なります。初経から間もない、あるいは閉経が近いと月経不順が起こりやすい状態であるため、ひどい貧血などがみられない場合には経過観察となることもあります。
原因となる病気として脳や卵巣などに腫瘍がみつかった場合は、薬物治療または手術による切除を試みることもあります。甲状腺機能低下症に対しては、甲状腺ホルモンを補充することによって排卵が正常に回復することが期待されます。また、服用中の薬剤が原因で高プロラクチン血症となっている場合は、治療中の病気との優先度を考えながら薬の減量や処方の変更を検討し、必要に応じてプロラクチンを下げる薬を使用します。
体重減少が原因である場合は、運動の制限や食事内容の調整によって適切な体重を目指します。体重やストレスのコントロールのために心理的なサポートが必要なときには、カウンセリングが行われたり、専門医へ紹介されたりすることがあります。
低用量ピルにはホルモンのバランスを整える効果が期待され、症状に応じて処方されることがあります。エストロゲンというホルモンが長期に不足している場合は骨量が減少する危険があるため、ホルモン補充に加えて、カルシウムやビタミンD3が処方されることがあります。妊娠の希望がある場合には、排卵誘発剤が使用されます。
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