生理(月経)不順とは、月経周期が短い・長いなど生理(月経)周期が不安定な状態を指します。生理周期には個人差がありますが、25~38日間であれば正常と判断されます。一方、24日以内に次の生理が来る場合を頻発月経、39日以降に次の生理が来る場合を稀発月経と呼びます。
生理不順の原因として、生活上のホルモンバランスの乱れや飲んでいる薬による影響、病気などが挙げられ、必要に応じてホルモン治療、手術治療、薬物治療などが行われます。なかでも本記事では、生理不順の治療薬として用いられる低用量ピルの効果や副作用などについて詳しく解説します。
低用量ピルとは、“エストロゲン(卵胞ホルモン)”と“プロゲステロン(黄体ホルモン)”という2つのホルモンを含んだ薬剤で、月経困難症や子宮内膜症の治療薬として処方されることで知られています。
服用を続けることによって体の中のホルモン濃度が高まり、脳が必要量のホルモンを分泌している(妊娠している)と錯覚するため、排卵が抑制されて妊娠の準備(子宮内膜が厚くなること)を抑えます。これにより妊娠する確率が低くなるほか、厚くなった子宮内膜がはがれ落ちることが抑えられるため月経の出血量が減り、生理の諸症状が軽快することが期待されます。なお、妊娠を希望する際には、再び排卵が起こるようにするため、低用量ピルの服用を中止します。
低用量ピルには、避妊目的で服用する“経口避妊薬(OC:Oral contraceptive)”と生理不順を伴う月経困難症や子宮内膜症などの病気を治療する目的で服用する“LEP製剤(Low dose estrogen-progestin)”があります。経口避妊薬は保険適用とならず自費で処方してもらう必要がありますが、LEP製剤は病気の治療薬であるため診断後に保険適用で処方されます。
生理不順の場合、低用量ピルを服用している間は生理が生じず、服用を休止している間に生理が来るという一連のサイクルが生じるため、生理不順の緩和が期待できます。具体的には、21~28日間の内服を経た後、4~7日間程度の休薬期間を設けます。この休薬期間には生理が生じることとなります。
ただし、服用開始から3か月間は生理周期が不安定になることもあるため、服薬期間中に出血が生じることもあります。基本的には出血が生じても服薬を続けて問題ありませんが、出血が長引く場合には病院の受診を検討しましょう。
受診の結果、生理不順の場合、または月経困難症が合併している場合には、低用量ピルの処方が行われることがあります。
そのほかにも卵巣機能が悪くなり、生理不順が生じるほか、さらに重症化すると閉経を引き起こす卵巣機能不全という病気の場合も、生理不順を改善する目的で処方されることがあります。ただしこの場合、薬によって生理が定期的にくるようになっても病気自体は進行し、いずれ卵巣の中の卵子がなくなってしまいます。その結果、自分の卵子では妊娠できない状態になることがあるため、注意が必要です。
低用量ピル服用時に伴う主な副作用としては、吐き気や頭痛、下腹部痛、倦怠感、不安感などが挙げられます。これらの症状は薬を飲み続けることによって次第に改善されることが一般的です。しかし、症状が続く場合には状況に応じて服用の中止や別の薬剤の使用を検討することもあります。
低用量ピルの重篤な副作用としては、血栓症が挙げられます。血栓症とは、血の塊が血管内で詰まってしまう病気のことです。血栓症は年間1万人あたり1~5人程度に起こる病気ですが、低用量ピルを服用している女性の場合、年間1万人あたり3~9人がかかるといわれており、まれな副作用ではありますが注意が必要です。血栓症の主な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
低用量ピルを服用している間にこのような症状が現れた場合は、休薬期間中であっても血栓症を疑い医療機関を受診しましょう。また、受診の際は医師に低用量ピルを服用していることを伝えましょう。
低用量ピルを服用する場合は血栓症にかかるリスクを考え、日頃から血栓症予防を心がけることが望ましいでしょう。具体的には、禁煙、こまめな水分補給、適度な運動が予防につながります。特に、オフィスなどで座ったままの姿勢を継続していると血栓症が生じやすくなります。そのため、同じ体勢でいる時間が長く続くときは定期的に立ち上がり、歩いたり、ストレッチをしたりするなどの工夫をするとよいでしょう。また、立ち上がることが難しいときは、座ったままできるマッサージや運動をするのもよいでしょう。
生理不順にはさまざまな原因が考えられるため、周期が不安定な場合、まずは医療機関を受診することを検討しましょう。
生理不順の場合、低用量ピルを服用することで生理の諸症状が和らぎ、月経周期が安定することが期待できます。ただし注意すべき副作用もあるため、服用の際には医師・薬剤師の指導を受け、不安点や疑問点があればすぐに相談するようにしましょう。
順天堂大学医学部附属順天堂医院 産科・婦人科 教授、ローズレディースクリニック 医師、国際医療福祉大学 医学部 産婦人科 教授、 国際医療福祉大学 高度生殖医療リサーチセンター センター長
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