国際医療福祉大学医学部産婦人科 教授を務める河村和弘先生は、早発閉経の患者さんご自身の卵子を使った新しい治療法「卵胞活性化療法」を開発し、2013年に世界で初めて妊娠・分娩に成功しました。40歳未満で無月経となる「早発閉経」に悩む世界中の患者さんから注目を集めている「卵胞活性化療法」とは、どのような治療法なのでしょうか。
早発閉経とは、何らかの原因により卵巣内の原始卵胞(卵子のもととなる細胞)が減少し、40歳未満で無月経となる病気を指します。早発閉経は不妊の原因の中でも比較的多く、女性の100人に1人が発症するともいわれています。
かつては早発閉経の患者さんはご自身の卵子で妊娠することは非常に困難で、若い女性から提供された卵子を用いた体外受精を行うほかによい選択肢はありませんでした。
しかし、早発閉経の患者さんであっても、卵巣の中には未熟な卵胞である原始卵胞が残っていることがあります。この休眠状態にある原始卵胞を特殊な薬を用いて刺激し(活性化し)、成熟させて体外受精を行い、患者さんの体内に戻す治療法を「卵胞活性化療法」といいます。
私たちは米国スタンフォード大学と共同開発した卵胞活性化療法を用い、2013年に世界で初めて早発閉経の方の妊娠・分娩に成功しました。卵胞活性化療法の開発により、早発閉経の患者さんであってもご自身の卵子によって妊娠し、お子さんを得ることが可能になったのです。
まず、腹腔鏡を用いて片方の卵巣を取り出し、卵巣内にどの程度の卵胞が残っているかを確認します。このとき使用する卵巣組織は最小量のものであり、その他の卵巣組織は将来(※2回目、3回目以降)の卵胞活性化療法に備えて凍結保存します。
卵巣の状態によっては、卵巣組織を凍結保存せずすぐに培養し、2日後に移植することも可能です。
卵巣組織に休眠状態の卵胞が残っていることが確認できた場合は、一部の卵巣組織を断片化し、卵胞活性化療法のための溶液に2日間浸して卵胞を目覚めさせ、再び腹腔鏡を用いて卵管付近へと戻します。
その後は1~2週間に1度、超音波検査と血液中のホルモン濃度測定によって卵胞が育っているかどうかを確認し、成熟した卵胞にまで成長した段階で、通常の体外受精と同様に膣から採卵して旦那さんの精子と体外受精させます。
体外受精により受精卵を得ることができたら、数日間培養液の中で受精卵を育て、一旦凍結保存をします。この間にホルモン剤などを用いて患者さんの子宮を着床しやすい状態に整え、受精卵を子宮へと戻します。
尚、凍結保存している卵巣の機能は半永久的に保存されるため、患者さんのタイミングや意思により体内へと移植することができます。
近年の研究によって、初期の早発閉経や、早発閉経よりも軽症の段階(年に何回か生理がきている、など)にある患者さんに対しても卵胞活性化療法を行える可能性があることが徐々にわかってきました。この場合には、卵巣を取り出して細かく断片化し、すぐに卵管付近へと戻す流れで治療ができ、手術が1回で済みます。このような軽症のケースに対する卵胞活性化療法は、海外の研究で実際に妊娠例が出ています。
この研究が進展することの意味は大きいと考えています。なぜなら、従来よりも簡便で侵襲性の低い(身体的な負担が少ない)方法で、より多くの方を対象に治療できるようになる可能性があるからです。
先述の通り卵胞活性化療法は2013年に開発された比較的新しい治療法であり、統計学的な成功率は現在のところ算出されていません。参考値として、実際に卵胞活性化療法を実施した早発閉経の患者さんの治療成績を記します。
したがって、早発閉経の患者さん全体のうち約25%の方は、成熟した卵子を得られる可能性があるという計算になります。
尚、卵胞の数は時間と共に減るため、卵胞活性化療法も一般的な不妊治療と同様に治療開始が早いほど効果が期待できます。また、月経が止まって無月経となった期間が短いほど、卵胞が残っている確率が高くなります。
早発閉経の患者さんの中には、「卵子自体の状態がよくないから、妊娠しにくい」と誤解されている方がいらっしゃいますが、実際にはそうではありません。ですから、卵胞活性化療法によって卵胞を育てることができれば、患者さんの年相応の確率で妊娠できる可能性があることを知っていただきたいです。
早発閉経の初期症状として、月経不順があらわれることがあります。
月経不順そのものは健康な女性であっても起こることがあり、「そのうち治るだろう」と軽く考えてしまう方が多いのですが、ただ、その中には、早発閉経など重大な病気の初期症状としてあらわれているものがある、ということです。このような重大な病気のサインを見逃さず、きちんと病院を受診していただくことが、早期診断・早期治療につながります。
月経のタイミングがいつもより1か月ずれたり、1週間のずれが何回も続いたりするとき、あるいは母親や姉妹の閉経が早かった、という家族歴があるうえで月経不順がみられる場合には、病院を受診することをおすすめします。
しかしながら、いきなり産婦人科へ行って内診を受けることに抵抗を感じる方もいることと思います。そのような場合、早発閉経のリスクを調べるために、AMH検査を受けることをひとつの選択肢として考えていただきたいです。
AMH検査では、記事2『不妊症を疑うとき、どのような検査を行うの?一般的な検査を解説』でご説明したように、採血でAMH(抗ミュラー管ホルモン)という卵胞から分泌されるホルモンの値を測定し、卵巣内に残っている卵胞の数の目安を調べます。自費診療(一般的には1回7,000〜10,000円ほど)で受けていただくことになりますが、月経周期による変動がなく、また、採血で行うため患者さんの心理的なハードルも低いというメリットがあります。
発症する前に早発閉経のリスクが高いことがわかれば、卵子を凍結保存する、あるいは将来の卵胞活性化療法に備えて卵巣を凍結保存する、といったオプションを検討することができます。これがAMH検査の大きな価値ではないでしょうか。
私は、このように価値のあるAMH検査が、近い将来、保険適応になることを期待しています。
順天堂大学医学部附属順天堂医院 産科・婦人科 教授、ローズレディースクリニック 医師、国際医療福祉大学 医学部 産婦人科 教授、 国際医療福祉大学 高度生殖医療リサーチセンター センター長
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