不妊症とは、ある一定の期間、避妊することなく性交渉を行っているにもかかわらず、1年間妊娠に至らなかった場合を指します。そして、晩婚化の影響、不妊の原因となる病気の増加、不妊治療に対する意識の変化などから、実際に不妊の検査・治療を受ける方は増加傾向にあります。
今回は、不妊症の定義と、不妊治療を受ける患者さんが増えている背景について、田園都市レディースクリニック理事長の河村寿宏先生にお話しいただきました。
2017年現在、日本産科婦人科学会は不妊症を、
「生殖年齢の男女が妊娠を希望し、ある一定期間、避妊することなく通常の性交を継続的に行っているにもかかわらず、妊娠の成立をみない場合を不妊という。その一定期間については1年というのが一般的である。なお、妊娠のために医学的介入が必要な場合は期間を問わない」
と定義しています。
「通常の性交を継続的」というと難しいのですが、これは月に一度ではなく、月に数回や、週に数回などを意味しています。
この定義は、2015年8月に改訂された新しいもので、以前までは、妊娠の成立がない期間が1年ではなく2年とされていました。
なぜ、不妊症の定義を妊娠が成立しない期間を2年から1年へと変更したのでしょうか。この理由として、以下が挙げられます。
①海外の諸機関の不妊症の定義にそろえる
②女性の晩婚化・晩産化
日本産科婦人科学会では、海外の諸機関(WHO、ICMART、ASRM、ESHRE)がinfertility(不妊)の定義を1年にしていることから、本会の用語集にある不妊症の定義も1年とすることが妥当という結論に達したと発表しています。
もう1つの理由は、日本女性のキャリア形成指向などからの晩婚化・晩産化です。30歳代後半~40歳代の女性たちにとって、2年間も妊娠を待っていると、妊娠することが非常に困難な年齢になってしまいます。そのため、1年という期間に短縮することで、より早期から適切な不妊治療を受けることにつながると、日本産科婦人科学会はコメントしています。
また、30歳代後半から40歳代の方は、1年という期間でも待っているのではなく、早いうちから不妊の検査・治療を受けることで、よい結果につながりやすいといわれています。
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また、今回の改訂で新しく追加された「なお、妊娠のために医学的介入が必要な場合は期間を問わない」という部分は非常に重要です。医学的介入が必要な場合とは、最初から妊娠の障害となる病気を持っていたり、過去に妊娠しにくくなるような既往歴があったりすることです。
月経不順や無月経など、排卵障害が疑われる場合は、早いうちから排卵誘発剤などによる治療が必要となります。また、子宮内膜症や子宮筋腫の方については必ずしも不妊になるとは限りませんが、これらの病気は閉経するまで治ることはなく、多くは時間の経過とともに進行し、妊娠するには不利な状況となってしまいます。過去に骨盤腹膜炎にかかったことがある方なども自然には妊娠しにくくなっている場合があります。
上記の病気や既往歴を持つ方が妊娠を望むのであれば、期間を問わずできるだけ早く適切な治療を受けましょう。
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WHOが不妊の原因が男女のどちらにあるのかを調査した結果、女性のみに原因があるケースは約41%、男性のみの場合は約24%、男女両方に原因がある場合は約24%、原因不明は約11%ということが判明しました。不妊の原因は、高い確率で男性にもあり、男性不妊は珍しいことではないのです。近年では、こういった情報が一般の方にも浸透しつつあります。
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妊娠を望んで性交渉を行っているにもかかわらず、1年間妊娠に至らなかった場合は、早めに不妊の検査を受けることが重要です。また、女性で35歳以上の方は、1年を待っている間にも年齢とともに妊娠率は低下していくため、もっと早くから検査を受けることをおすすめします。
検査では、超音波検査、血液検査(ホルモンや卵巣内に残っている卵子数を推定するAMH)、子宮卵管造影検査などを実施します。
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国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、2015年時点で自分たちの不妊を心配したことがある夫婦は35.0%、実際に不妊検査や不妊治療を受けたことがある夫婦は18.2%いらっしゃいます。
厚生労働省の統計調査では、2003年時点で約50万人以上が不妊治療を受けているとされています。当時から13年以上が経過し高度生殖医療(生殖補助医療)もいっそう普及してきており、その数はさらに増加しているといえるでしょう。
20〜30年前までは、特殊な治療と思われていた体外受精ですが、今や国内出生児の19.7人に1人が体外受精での妊娠・分娩となっているのです。
不妊治療を行う患者さんが増えた背景には、
といった理由が考えられます。
不妊治療に注目が集まり、実際に不妊検査・治療をする方々が増加した大きな要因の1つは晩婚化です。厚生労働白書によると、2012年の段階で女性の平均初産年齢は、30歳を超えていることが分かっています。晩婚化により、赤ちゃんを持つ年齢は自然と上昇します。
その結果、自然妊娠が難しくなり、不妊治療に取り組む方が増えています。もちろん、男性の年齢も上昇することによって、精液所見が低下していくため、男性の晩婚化も不妊症患者数の増加に関係しています。
子宮内膜症や感染症などの増加も不妊症が増えた理由の1つと考えられます。子宮内膜とは、本来子宮の内側にある組織です。しかし、子宮内膜組織が子宮の内側以外の場所に発生してしまう病気を子宮内膜症といいます。
数十年前と比較して初潮年齢は低下し、近年は初婚年齢が上昇しています。また、妊娠分娩回数の減少により、分娩後のトータルの授乳期間も短縮しています。そのため、月経の回数は明らかに増加傾向にあります。このことが子宮内膜症患者数増加の一因と考えられます。
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そして、クラミジア感染症を筆頭とした、性感染症も増加しています。一部の性感染症は不妊の原因となるため、不妊症患者さんも増加しているのです。
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以前の日本では、「生理がある間ならいつでも妊娠可能」という間違った認識をお持ちの方も多数いらっしゃったと思います。しかし、近年、高齢に伴う卵子の老化で、妊娠が難しくなるという情報がマスコミなどのメディアを通して、一般の方々に浸透しつつあります。
そのため、30歳代後半から40歳代の方はもちろん、もっと若い年齢の方々でも、早めに不妊検査・治療を受けるようになったということも、患者数の増加につながっています。
また、著名人の方々が、不妊治療により妊娠をしたことなどを公表するケースも多くなりました。そのことにより、以前よりも不妊治療に対しての抵抗が少なくなり、病院に通いやすくなったという影響も考えられます。
不妊検査・治療を実際に行う方が多くなった理由として、体外受精をはじめとする生殖補助医療(高度生殖医療)に対して、国や自治体から助成金が支給されるようになったということも大きな要因です。今までなら不妊治療、特に生殖補助医療を行いたくても経済的な問題から受けられなかった方たちが、助成金を受け取ることで治療ができるようになったと考えられます。
また、自治体によっては、生殖補助医療以外の不妊治療に対しても、助成金を支給しているところも出てきています。
所得や年齢制限などは設けられていますが、多くの患者さんが助成金制度を活用されながら治療を受けています。
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(実際に高等学校で配布されている教科書の表紙。中身は文部科学省のホームページで閲覧できる〈画像引用:文部科学省のホームページ〉)
これまでの日本の教育では、避妊や性感染症などについては学校の保健体育で教育がされているものの、男女の加齢により妊娠しにくくなることなどについては教えられていませんでした。
だからこそ、私たち医師は、前述した妊孕性*に関する知識が十分ではない状態であり、2017年現在、不妊で悩まれている患者さんがこんなにも多いのだと実感しています。
*妊孕性…妊娠する力。
こういった状況から「学生の頃から知識さえあれば、手遅れにならずに済む方がいるかもしれない」と考えた関係団体は、厚生労働省に直接現状を訴えて、学校で妊娠時期の教育を施すようはたらきかけました。
その結果、2015年から、高等学校で用いられる副教材の中に、男女の加齢により妊娠しにくくなること、卵子の特徴(精子と異なり出生後は作られず自然と減少する)、母体の加齢に伴う妊娠・出産に関わるリスクの上昇などが記載されるようになりました。現在の高校生からは、妊孕性の知識を身につける機会が生まれたことになります。
知識を得て、実際に妊娠しやすい年齢で妊娠を実践できるかどうかはまだ分かりませんが、事実をまったく知らされていないのと知っているのとではご本人の気持ちが大きく異なってきます。私としては、念願の教育開始でした。不妊が増加傾向にある現在、こういった不妊に関する知識を教育していくことは、今後ますます重要になってくると考えています。
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田園都市レディースクリニック 理事長、田園都市レディースクリニック あざみ野本院 院長
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