概要
女性不妊とは、女性に生じる不妊症のことです。日本産婦人科学会の定義では、妊娠を望む健康な男女が避妊なく性交渉を持つ生活を送っても1年以上にわたって妊娠に至らないことを“不妊症”と呼びます。妊娠は、性交によって女性の腟から子宮、卵管を泳ぐように移動した精子が卵子と出合って受精し、分裂を繰り返しながら子宮内へ移動して子宮内膜に着床することで成立します。正常に着床が生じるためには、さまざまな条件が整っている必要があり、そのうち女性側の異常によって生じる不妊症のことを女性不妊と呼ぶのです。
現在、晩婚化・晩産化の影響により、不妊に悩むカップルは増えていると考えられています。日本では、不妊の心配をした経験があるカップルは35%にも及び、何らかの不妊検査や不妊治療を受けたことがあるカップルは18.2%とのデータもあります。不妊の原因は多岐にわたり、男女どちらかに原因があるケース、男女ともに原因があるケース、検査を繰り返してもはっきりした原因が分からないケースなどさまざまです。
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原因
女性不妊は、次のような妊娠の成立に必要な女性側の要因に異常が生じることによって引き起こされます。
排卵の異常
妊娠が成立するには正常な排卵が行われることが必須です。排卵は、脳の視床下部、脳下垂体から分泌されるホルモンと、卵巣から分泌される女性ホルモンであるエストロゲンのはたらきによって引き起こされる現象であるため、これらのホルモンの分泌に異常が生じると正常な排卵が起こらなくなる可能性があります。その原因としては、極端なダイエットによる体重減少、極端な肥満、甲状腺疾患・多嚢胞性卵巣症候群など女性ホルモンの分泌に影響を与える病気などが挙げられます。
そのほか、日常生活上のストレスや疲れなども女性ホルモンバランスを乱す原因となって生理不順が続き、妊娠しやすい日が予測しにくくなるためになかなか妊娠に至らないケースも少なくありません。
卵管の異常
卵管は、精子や受精卵が移動するための通り道です。そのため、卵管が閉塞したり狭窄していたりすると妊娠が成立しなくなります。
卵管に閉塞・狭窄が生じる原因としては、クラミジア感染症などによる卵管の炎症、子宮内膜症などが挙げられます。
子宮頸管の異常
腟から子宮への接続部位でもある子宮頸部は、腟から子宮へ病原体などが侵入しにくくなるバリア機能を担っています。しかし、排卵日前後には子宮頸部からは精子の子宮内への侵入を促す性質を持つ粘液が産生されるようになります。この粘液の分泌が少ないと、精子が子宮内へ入り込めなくなるために妊娠が成立しにくくなります。
子宮の異常
子宮内へ移動した受精卵は子宮内膜に根を下ろすようにして着床します。そのため、子宮筋腫や子宮の形態異常などがあると着床が生じにくくなります。また、子宮内の炎症や過去の子宮内の手術(人工妊娠中絶など)の経験によって子宮内部にダメージが加わっていることが不妊の原因になることも少なくありません。
免疫の異常
私たちの体には体内に入り込んだ病原体などの“異物”を攻撃するしくみが備わっています。一部の女性には、体内に入り込んだ精子を“異物”と認識して攻撃するケースもあり、精子の運動性が低下~消失することで受精ができなくなることがあります。
症状
上でも述べたとおり、日本産婦人科学会の定義によれば、不妊とは“妊娠を希望する健康な男女が1年以上避妊なく定期的に性行為を行っても妊娠に至らないこと”とされています。
また、女性不妊の原因はさまざまですが、その原因によっては単に妊娠に至らないだけでなく、強い月経痛、不正出血、生理不順などの症状を伴うことも少なくありません。
検査・診断
女性不妊が疑われるときは次のような検査が行われます。
画像検査
卵巣や子宮など妊娠に関わる臓器に何らかの異常がないか調べるため画像検査が行われます。一般的には簡便に行うことができる超音波検査が実施されますが、子宮内膜症や子宮筋腫などが疑われる場合はMRI検査が行われる場合もあります。さらに卵管や卵巣などの状態を詳しく調べるために腹腔鏡検査(お腹を小さく切開してカメラを挿入し、内部の状態を観察する検査)が行われる場合もあります。
血液検査
妊娠に関連する女性ホルモンの分泌量や女性ホルモンに影響を与える甲状腺ホルモン値などを調べるために血液検査を行うのが一般的です。
子宮卵管造影検査
卵管の閉塞や狭窄、子宮内の癒着や子宮の形態異常、卵管周囲の癒着の有無を調べるために子宮内に造影剤を注入し、状態を調べる検査です。痛みを伴うことがある検査ですが、クラミジア感染症などによる卵管閉塞の有無などを調べるために必須の検査となります。
フーナーテスト
排卵直前に性交渉を持った後に子宮頸管粘液を採取し、正常に運動している精子が存在しているか調べる検査です。上で述べた免疫の異常による不妊症の場合には、精子が攻撃を受けるため正常に運動している精子が認められなくなります。
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治療
女性不妊と診断された場合には、原因によって次のような治療が行われます。
タイミング法
血液検査で女性ホルモン分泌量の変化を調べたり、超音波検査で卵子の成熟の程度などを調べたりしながら排卵日を予測し、そのタイミングに合わせて性交渉を持つことで自然な妊娠を目指す治療法です。
生理不順などでタイミングを図りにくいことによる不妊の治療に適しています。
薬物療法
女性ホルモン分泌量の異常などによって正常な排卵が生じていない場合には、ホルモンバランスを整える薬や排卵を誘発する薬などによる治療が行われます。
人工授精
精子数が少ない、精子の運動率が悪い、性交障害、フーナーテスト不良の場合などに、精液を洗浄して運動性の良好な精子を集めて子宮に注入する治療です。
体外受精・顕微授精
卵管の異常、精子の異常、免疫の異常、子宮内膜症の合併などで、通常の不妊治療で妊娠が困難な場合には体外受精や顕微授精が行われます。
精子の数や運動率が正常な場合は、採取した卵子と精子を同じ容器内で自然に受精させる体外受精が行われますが、体外受精で受精しない場合や精子の数が少なく自然な受精が困難と予測される場合は、卵子内に精子を注入する顕微授精が行われます。
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予防
女性不妊の原因は多岐にわたり、個人的な努力のみでは予防することが困難なケースも少なくありません。一方で、クラミジア感染症による卵管閉塞が原因の場合は適切な性感染症対策と早期治療によって女性不妊を予防することが可能です。
また、加齢に伴い卵子が老化し妊娠しにくくなることは明らかですので、妊娠を希望している場合には早めに妊娠をトライすることも重要です。
喫煙は男女ともに、妊娠しにくくなる原因であることが分かっており、喫煙されている方はぜひ禁煙をおすすめいたします。
また、肥満も男女ともに妊娠しにくくなる原因の1つであり、適度な運動と食事により標準的な体重を目指して減量をしたほうがよいでしょう。
そのほか、女性ホルモンバランスはストレスや疲れ、睡眠不足などの些細な原因によって乱れやすいのも特徴です。女性不妊を防ぐには規則正しく心身共に健康的な生活を送るよう心がけるようにしましょう。
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