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不妊症の治療――体外受精胚移植(IVF-ET)

不妊症の治療――体外受精胚移植(IVF-ET)
河村 寿宏 先生

田園都市レディースクリニック 理事長、田園都市レディースクリニック あざみ野本院 院長

河村 寿宏 先生

目次
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高度生殖医療(生殖補助医療)は体外受精、顕微授精、凍結胚移植の3つに大きく分かれますが、今回は体外受精について田園都市レディースクリニック理事長の河村(かわむら) 寿宏(としひろ)先生にお話しいただきました。

体外受精胚移植は代表的な高度生殖医療(生殖補助医療)です。

卵胞内卵子を採取し体外で受精させたのち、体外で分割卵、胚盤胞へと成長させてから子宮内部へ戻して着床させます。この方法では、あらかじめ採取し不純物を取り除くなどして精製した精子と媒精(ばいせい)させることで受精を試みます。卵子と精子の受精を手伝う顕微授精とは異なり、体外受精は採取した卵子と精子の出会う場所を提供する方法と考えることができます。

日本で生まれる子どものうち、高度生殖医療(体外受精、顕微授精、凍結胚移植)で生まれてくる数は増加しています。次の図のとおり、2019年は約14人に1人が高度生殖医療(生殖補助医療)により生まれた子どもで、全体の7.0%という計算になります。

体外受精で生まれてくる子ども
体外受精で生まれてくる子どもは増加している

体外受精は、一般不妊治療や外科的治療での妊娠が困難な患者さんや、高年齢や卵巣機能の低下により一般不妊治療では妊娠成績が極めて不良である患者さん、多嚢胞性卵巣症候群*で薬物療法や外科的治療が無効な患者さんなどに対して用いられます。

*多嚢胞性卵巣症候群…両側卵巣が腫大・多嚢胞化、表層は肥厚し、排卵障害、月経異常、不妊、多毛などを伴う症候群。

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一般不妊治療や外科的治療での妊娠が困難な場合とは、以下のような状態です。

卵管の閉塞(へいそく)や、卵管周囲の癒着などにより、卵子を取り込むことが困難なピックアップ障害といった卵管の異常に対し、外科的治療などを行っても妊娠が困難である場合。

精液中の精子数が少なかったり、運動率がよくなかったりするケースで、それに対する治療や人工授精を行っても妊娠が成立しない場合、あるいは人工授精を行ったとしても妊娠が不可能なほど精液所見が不良である場合。

子宮内膜が本来存在するべき子宮内腔ではなく、骨盤や腹膜に存在する病気で、これに対して薬剤投与や外科的治療、一般不妊治療を行っても妊娠に至らない場合。

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抗精子抗体とは、精子に対する抗体で、この抗体が女性の体内で作らることでより妊娠の成立が妨げられていると考えられる場合。

そのほかには、長期の原因不明の難治性不妊症なども体外受精胚移植の対象となります。

高度生殖医療(生殖補助医療)の妊娠率は女性側の年齢によって大きく異なります。一般的には30歳代半ば以降になると低下していくといえます。

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体外受精胚移植の流れ

体外受精では採卵に至るまでに排卵誘発剤を使って卵巣を刺激し、卵胞を複数発育させます。この卵胞が十分成熟したら、局所麻酔や静脈麻酔をしたうえで卵胞を穿刺(せんし)し卵胞液を吸引します。卵子はその卵胞液中に入っています。

回収された卵子を数時間培養しておき、その間に採卵日に採取された精子を洗浄・濃縮して良好運動精子を集め、卵子と一緒にします(媒精)。体外で卵子と精子を受精させることで、受精卵(胚)を作ります。これが体外受精です。

できあがった受精卵をさらに数日間培養し、その一方で患者さんは黄体ホルモンを補充し、着床に適した子宮内膜へと整えます。子宮内膜が最適な状態になったところで、初期胚、胚盤胞各々の時期に合わせて、経腟的に子宮に移植します(胚移植)。

なお、着床環境が不良な場合や卵巣過剰刺激症候群(OHSS:ovarian hyperstimulation syndrome)が懸念される場合、あるいは移植胚以外に余剰胚がある場合は、受精卵(胚)を凍結保存することもあります(詳細は後述)。

体外受精では排卵誘発剤で卵巣刺激をするため、OHSS(卵胞が多数発育しすぎてしまう状態)が、主な副作用です。

そのほか、採卵前、採卵中、妊娠後といった時系列で、それぞれに次のようなリスクが考えられます。

腟壁および腹腔内の出血が考えられます。また、非常にまれではあるものの、採卵後の腹腔内や卵巣に感染が起こる場合があります。

採卵時にも痛みが発生する可能性があります。そのため、当院では、以下のような対策を行っています。

針の太さが細く進化

採卵時の痛みのほとんどは、針で刺す穿刺の痛みです。20年前くらいまでは、16~18ゲージという太い針で採卵をしていました。そのため、痛みを訴える患者さんが多くいらっしゃいました。しかし、次第に細い針へと進化していき、当院でも当初の18ゲージから、2017年時点では21ゲージにまで細くなりました。そのため、以前に比べると痛みが軽減されています。また、鎮痛剤(坐薬)や麻酔の使用により、痛みをさらに軽減するような対策を行っています。

鎮痛剤(坐薬)

卵胞数も少なく、卵胞の場所も容易に穿刺可能な場所であれば、麻酔は必ずしも必須ではなく、鎮痛剤のみで採卵できることもあります。

麻酔

麻酔をする場合、主に使用されているものは局所麻酔です。腟の奥、子宮の入り口の周囲に局所麻酔をすることにより、採卵針で刺す部位が麻痺するため、痛みはほぼないか、ごく軽度となります。

また、静脈麻酔が使用されることもあります。静脈麻酔はあらかじめ点滴をしたうえで、眠る麻酔薬や痛みを取る麻酔薬を注入し、患者さんが眠った状態で採卵が行われます。そのため、目覚めたときには採卵は終了しています。当院では、よほど卵胞数が多くない限り、5分以内、長くても10分以内で採卵が終了します。また、上記のような鎮痛剤や麻酔も使用しますので、痛みを心配する必要はありません。

局所麻酔では、極めてまれにアレルギー反応が起きることがあります。静脈麻酔では、呼吸抑制や麻酔後の吐き気、嘔吐などが現れることがあります。

複数胚移植による多胎妊娠の可能性がありますが、2019年の全国統計では、胎嚢確認時の多胎率は約2.5%まで減少してきています。一卵性双胎は1%強に認められ、自然妊娠より多くなります。また、異所性妊娠や、胎盤の位置異常(前置胎盤)の頻度も増加すると考えられています。

胚移植を実施する際、以前までは、初期の段階の胚を患者さんの子宮内へ移植する初期胚移植という方法が主流でした。しかし、最近では、胚が初期胚から進んで胚盤胞となってから子宮に移植する胚盤胞移植という方法を選択する患者さんが増加しています。胚盤胞移植には、以下のようなメリットとデメリットが存在します。

通常の体内では、受精卵は受精後分割が進み、最終的に胚盤胞の状態になってから子宮内に着床します。しかし、受精した胚が全て胚盤胞になるとは限りません。一般的には、受精卵のうち胚盤胞に到達するのは半数程度と考えられています。つまり、胚盤胞を移植するということは、受精卵のうち胚盤胞まで到達することのできた胚を移植できるということです。このため、まだ胚盤胞に到達できるか分からない段階の初期胚を移植した場合と比較すると、胚移植あたりの妊娠率が高くなります。

また、自然妊娠においては、初期胚の段階では、まだ卵管内にあり、胚盤胞となってから子宮に入ってきて着床します。子宮内と卵管内の環境は違うといわれていますが、一般的な胚移植の場合、初期胚・胚盤胞にかかわらず子宮内に移植します。このように、胚盤胞移植のほうが自然妊娠に近い環境であるということも、妊娠において有利になる可能性が高くなります。

そのほかにも、採卵を行ってから、胚盤胞になるくらいの時期のほうが、子宮の収縮運動が低下しているため、着床しやすいともいわれています。

メリットでご説明したとおり、受精卵が必ず胚盤胞まで到達するとは限りません。そのため、受精卵が1個も胚盤胞にならなかった場合は、その周期での胚移植や胚凍結保存がキャンセルとなります。また、胚盤胞まで培養する場合は、一般的に追加のコストが発生します。そして、胚を体外で胚盤胞になるまで培養する(5日間以上培養する)ことにより、胚への影響がまったくないと証明されているわけではありません。そのほかには、胚盤胞移植が行われるようになってから、まだ二十数年のため、次世代への影響など、長期的なデータは存在しません。ですが、胚盤胞移植と初期胚移植で先天性異常の数に差が生じるという報告はありません。また、一部の論文には、胚盤胞移植では、初期胚移植に比して一卵性双胎の発生頻度が上昇すると述べられているものもあります。しかし、当院では、一卵性双胎の発生頻度は、新鮮胚移植において、初期胚移植:1.21%(4/330)、胚盤胞移植:1.62%(6/371)、凍結胚移植において、初期胚移植:0%(0/25)、胚盤胞移植:1.40%(34/2,424)と、いずれも有意差は出ておりません(生殖補助医療において一卵性双胎を増加させる要因の検討:日本受精着床学会雑誌 31巻2号 P.191-195<2014.07>)。

胚にはいくつかの「グレード」が存在します。グレードとは、顕微鏡下で観察された胚の状態を分類したものです。しかしながら、一般的に用いられている胚のグレード評価は、あくまで顕微鏡下での「見た目の評価」です。そのため、胚の中身(染色体が正常であるかなど)は分かりません。グレードが高い胚のほうが低い胚よりも妊娠率が高くなりますが、グレードが高いから必ず妊娠するというわけではまったくありません。

最近、胚盤胞のグレードと染色体の正常性、着床率について調査した論文が発表されました。論文の内容には、胚盤胞のグレードが高いものほど正常な染色体である確率が高いものの、染色体が正常であれば胚のグレードにかかわらず着床率は変わらないということが示されています。胚の成長率でも同様です。正常な染色体であれば、胚盤胞到達までが遅い胚でも着床率は変化しません。このことは、グレード(見た目)がよい胚盤胞でも染色体異常があれば妊娠せず、グレードがあまり良好でなく胚盤胞到達までに時間がかかっても、染色体が正常であれば妊娠する可能性が高いことを示しているのです。つまり、グレードという見た目だけでは、妊娠率が高そうなのか低そうなのかという推測はできても、完全には胚の良し悪しは判断できないということになります。

なお、胚の染色体異常の有無を事前に検査すること(着床前診断)は2020年1月から日本産科婦人科学会の特別臨床研究(着床前胚染色体異数性検査=PGT-A)として、開始されました。当院も研究分担施設として認定され、PGT-Aを実施しています。2017年から2018年にかけて実施された、日本産科婦人科学会のパイロット試験(日本産科婦人科学会PGS特別臨床研究)の結果では、正常な染色体本数を持つ胚を移植した場合には、PGT-Aを実施していない従来からの方法で移植した場合に比して、約2倍の妊娠率となっています。

ほとんどの胚移植のケースでは、あらかじめ胚を吸い込んでおいたカテーテルを子宮頸管から経腟的に挿入し、子宮の体部に移植します。カテーテルは細くて非常に柔らかいため痛みを感じることは少なく、胚移植の際に麻酔をする必要はありません。また、胚移植に要する時間は1分程度です。

通常どおり生活していただいて問題ありません。しかし、激しい運動はおすすめしません。

体外受精は内容や施設により金額が異なります。当院における体外受精の費用の目安は以下のとおりです。

  • 完全自然周期体外受精……160,000円/回
  • 刺激周期体外受精……210,000円/回
  • 胚移植……60,000円/回
  • 顕微授精……60,000円/回
  • タイムラプス……20,000円/回
  • 胚凍結保存……50,000円/回
  • 凍結胚融解……50,000円/回

(いずれも自由診療、税別)

上記の体外受精の費用には採卵、精子処理、媒精、培養、胚移植等に必要な材料費が含まれます。なお、体外受精の費用は、3回目の採卵からは40,000円減額、5回目からはさらに40,000円減額となります(完全自然周期では、3回目から20,000円減額、5回目からはさらに20,000円減額)。

採卵に至るまでに、通常、検査費用(超音波検査、ホルモン検査)として、30,000〜50,000円程度、注射の排卵誘発剤使用の場合の薬剤費用として50,000~100,000円程度が、上記費用に加算となります。

また、体外受精などの高度生殖医療(生殖補助医療)には公的な助成制度である「特定不妊治療費助成制度」があります。金額等は各自治体によって異なりますので、ご自身が居住されている自治体に確認しましょう。

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