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インタビュー

不妊の原因としての排卵障害―排卵障害を改善するためには?

不妊の原因としての排卵障害―排卵障害を改善するためには?
岩下 光利 先生

杏林大学医学部付属病院 病院長、杏林大学医学部産科婦人科学教室 主任教授

岩下 光利 先生

排卵障害は女性側の不妊要因としてよく知られていますが、月経不順や無月経が問題となるだけではなく、定期的に出血があっても排卵が起こっていないケースもあるといいます。排卵障害の原因や治療、改善のためにできることなどについて、杏林大学医学部付属病院産科婦人科教授・病院長の岩下光利先生にお話をうかがいました。

女性側の不妊要因のうち、原因不明のものを除いて一番多いのは卵管炎などの卵管因子であり、特に最近多いのはクラミジア感染症です。クラミジア感染症では卵管水腫や卵管の癒着などが起こり、卵子が卵管内に入らなかったり、卵管の中を卵子が運ばれないようになってしまいます。

こうした卵管障害は不妊原因の25〜35%ともっとも多く、次いで多いのが排卵障害(約20%)となっています。

不妊の原因の内訳としては、女性側単独の因子が40%、男性側単独の因子は25%です。また、男性と女性の双方に原因があって妊孕性(にんようせい・妊娠のしやすさ)が落ちているケースが40〜50%ともっとも多くなっています。つまり不妊の原因は男女両方に関係しているわけですが、排卵障害はその中でも女性側だけの因子であり、卵管因子に次いで多くみられるという位置づけです。

通常の受精の過程では、卵巣から排卵された卵子が卵管の膨大部(らんかんぼうだいぶ)というところで子宮から上ってきた精子と出会い、そこで受精が起こります。排卵が起きないということは卵子が出ないわけですから、精子が上ってきても精子と出会って受精することができません。

排卵障害の原因は、部位別に視床下部性・下垂体性・卵巣性の3つに分類されます。このうち視床下部性と下垂体性は中枢性の排卵障害とも呼ばれます。そのほかには、多嚢胞性卵巣症候群高プロラクチン血症が典型的なものとして挙げられます。

【視床下部性の排卵障害】

部位別の原因でもっとも多いのが視床下部性の排卵障害です。

排卵障害を理解するため、まずは排卵の流れをご説明しましょう。

脳の視床下部から脳下垂体を刺激するホルモンのGnRH(Gonadotropin releasing hormone; 性腺刺激ホルモン放出ホルモン)が出ます。GnRHによって脳下垂体からLH(黄体化ホルモン)、FSH卵胞刺激ホルモン)が血中に放出され、血液を介して卵巣に届きます。これらのホルモンによって卵巣内の卵子の入った袋(卵胞)が成長して、やがて卵胞がやぶけて卵子が排出されます。これが排卵です。

 

排卵の大もとであるGnRHというホルモンが出ないと、それ以降の仕組みが働かなくなります。GnRHが十分に出なくなる原因はたくさんあり、排卵障害の原因としてもっとも多いとされます。

視床下部性の排卵障害でよく知られている原因はダイエットです。1か月で2〜3kgほど痩せると月経が来なくなってしまうことがありますが、体重をもとに戻してもなかなか排卵は起こりません。排卵障害を起こさないために、過度のダイエットはしないようにしましょう。

ストレスも大きな要因のひとつです。さまざまな精神的ストレスによって月経が止まってしまうというケースが、視床下部性の排卵障害では多くみられます。

【下垂体性の排卵障害】

下垂体性の排卵障害は、割合としては視床下部性ほど多くはありません。しかし下垂体はさまざまなホルモンを出す重要な器官で、たとえばプロラクチノーマ(プロラクチンというホルモンを出す腫瘍)を手術で取り除いた後などにゴナドトロピン(FSHやLHなどの性腺刺激ホルモン)が正常に出なくなるということがあります。

下垂体性の排卵障害で代表的なのはシーハン症候群です。これは分娩後に大量出血したことで、下垂体が壊死を起こして機能を失ってしまうという疾患ですが、症例数は非常に少ない病気です。

【卵巣性の排卵障害】

卵巣性の排卵障害とは卵巣自体に卵子がない状態であり、男性でいえば無精子症に相当します。Turner症候群など先天的な性腺の形成不全で見られ、他には早発閉経といって、通常よりも早く閉経が起こることもあります(定義上は40歳未満での閉経を早発閉経と呼んでいます)。

卵巣性の排卵障害では排卵する卵子がないため、妊娠を希望する場合は他人に卵子を提供してもらうしか方法がありません。

【多嚢胞性卵巣症候群】

多嚢胞性卵巣症候群は下記の3つをすべて満たしている状態を指し、典型例では肥満や男性化兆候を伴います。

月経異常

卵巣の多嚢胞性腫大(1側卵巣に2〜9mmの卵胞が10個以上)

血中男性ホルモン(アンドロゲン)高値、またはLH高値/FSH正常

卵巣の多嚢胞とは、卵胞という卵子が入った袋が途中まで膨らんで止まってしまった、未成熟な状態です。通常は卵胞が2cm前後になると排卵が起こり、中の卵子が出てきて卵管の中に入っていくのですが、多嚢胞性卵巣症候群では卵胞の発育がその途中で止まって、排卵にまで至りません。

多嚢胞性卵巣症候群の多くの症例でインスリン抵抗性(インスリンがたくさんあっても細胞への糖の取り込みがうまくいかないこと)があるといわれています。これは高血圧脂質代謝異常糖尿病などの生活習慣病のリスクファクターとなります。

また、多嚢胞性卵巣症候群では卵巣からアンドロゲンがたくさん作られ、それが筋肉や脂肪でエストロンという弱いエストロゲン(女性ホルモン)に変わります。そうすると子宮が絶えずエストロゲンにさらされるようになり、その結果子宮体がんになりやすいと考えられています。

したがって、多嚢胞性卵巣症候群と診断された方は子宮の内腔を調べる子宮体がんの検査を受け、糖尿病や脂質代謝異常がないかといったことも調べておくことが望ましいといえます。

【高プロラクチン血症】

下垂体から出るホルモンのひとつであるプロラクチンの値が高くなる病気で、典型例では乳汁が出てきて月経不順や無月経になります。血中のプロラクチン値が100ng/ml以上ある場合は、プロラクチノーマという下垂体のプロラクチン産生腫瘍を疑います。

プロラクチンによって排卵障害が起こるメカニズムとして2つの説があります。ひとつはプロラクチンが脳の中枢に作用してGnRH以下の視床下部の働きを障害するという説で、もうひとつは卵巣自体に作用して、卵巣にある黄体機能を抑制するという説です。

通常は排卵した後、プロゲステロン(黄体ホルモン)が卵巣から出て基礎体温が高温になります。しかし、プロゲステロンが正常に分泌されないと高温期が短くなり、たとえ受精卵ができて子宮内に入っても着床(根付かせること)できません。そのため、プロラクチンの値が高いことは不妊および排卵障害の原因となります。

プロラクチン値が上昇する原因としてよくみられるのが、向精神薬です。また、消化器系の薬の一部もプロラクチンの値を上昇させます。これらを薬剤性の高プロラクチン血症といいます。

また、原発性甲状腺機能低下症といって甲状腺の機能が低下している場合、甲状腺を働かせようとして視床下部からTRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)というホルモンが分泌されます。このTRHが下垂体に働きかけるとTSH(甲状腺刺激ホルモン)が出ますが、甲状腺自身の働きが悪いとTRHの分泌が多くなります。TRHにはプロラクチンの分泌を促す作用があるため、プロラクチン値が高くなります。

排卵障害の有無を知る上でまず基本となるのは基礎体温表をつけることです。

計測には専用の基礎体温計を使う必要がありますが、基礎体温表は病院以外にも薬局などで手に入ります。

朝、起きてトイレに行くなど体を動かすと基礎体温が上がってしまうため、目が覚めたら横になったまま基礎体温計を口に入れて体温を測り、記録してから起床するようにします。少なくとも1〜2か月基礎体温表をつければ自分でも正常に排卵しているかどうか判断できますし、もし自分で判断できなければ産婦人科医のところへ持参して相談してもよいでしょう。

最近はスマートフォンやパソコンで基礎体温を管理するアプリもあり、体温を計るとデータを転送できる体温計も各社から市販されています。ただし、低温期と高温期の差は通常0.3℃以上あればよいとされているので、このわずかな変化をスマートフォンの小さなディスプレイでみるよりは、紙の基礎体温表に記録したほうがみやすいかもしれません。

排卵があればそれまで低かった基礎体温がプロゲステロンの分泌により高くなります。これを二相性といって、低温期と高温期が分かれていれば高温になったときに排卵したということがわかります。

一方、基礎体温の低い状態だけがずっと続いていることを一相性といって、出血が定期的にある場合と出血による月経がまったくない場合があります。定期的に出血がある場合は無排卵周期症といいます。したがって、月経があるから必ず排卵があるとは限りません。

月経が非常に短い、あるいは周期のばらつきが大きいといった場合にはまず基礎体温表をつけます。

正常な月経の周期と月経不順の定義は以下の通りです。

  • 正常月経周期:月経が始まってから次の月経が始まるまで25〜38日(変動は6日以内、期間は3〜7日)
  • 希発月経:月経が始まってから次の月経が始まるまで39日以上
  • 頻発月経:月経が始まってから次の月経が始まるまで24日以内
  • 過短月経:期間が2日以内
  • 過長月経:期間が8日以上

月経が1〜2日しかない過短月経の場合には、排卵障害の可能性を考えます。過長月経の場合には子宮筋腫や子宮内膜ポリープなど器質的な原因が考えられますし、まれに血液凝固系の異常による場合もあります。

基礎体温表をつければ排卵があるかどうかがわかるだけでなく、排卵した後の高温期が短すぎないかといったこともわかります。

高温期が10〜12日以下の場合には、黄体機能不全(黄体ホルモンが十分に出ていない)の証拠になります。この場合、受精卵が子宮内に入ってきてもうまく着床できません。

また、正常な場合は月経が始まって2週間ほどで高温期に移りますが、それが3〜4週間経ってようやく高温期になるようであれば、排卵回数が少ないということになります。

基礎体温の計測で、こうしたさまざまな排卵周期の異常に気づくことができるのです。

このデータは、病院にかかる場合にも必要です。ですから、排卵障害や月経不順で来られる患者さんにはまず基礎体温をつけていただくように指導して、基礎体温表をお渡ししています。それを再び病院に持ってきていただいてもいいですし、ご自分で判断することもできます。

【血液検査】

排卵障害の検査では、採血して血中に含まれるさまざまなホルモンの値を測定します。

検査項目でもっとも重要なのは、下垂体から分泌されるLH(黄体化ホルモン)とFSH(卵胞刺激ホルモン)、そしてプロラクチンです。また卵巣から分泌される女性ホルモン(エストロゲン)の中ではE2(エストラジオール)を測定します。

この他、甲状腺の機能が正常か異常かということを知るために、下垂体から分泌されるTSH(甲状腺刺激ホルモン)を測定することもあります。

AMH(抗ミュラー管ホルモン)は卵巣の予備能をみる指標として最近注目されています。AMHの値が低い場合、排卵誘発剤を使っても卵胞がたくさん育たないことがあるため、不妊治療専門のクリニックなどではこの検査がよく行われています。

ただし、AMHは年齢とともに減少しますが個人差が大きく、多嚢胞性卵巣症候群の場合には高い値を示すことがわかっています。したがって、AMHの値が低いからといって一概に卵巣の機能が悪いとはいえません。

【ゲスターゲン負荷試験】

排卵障害の重症度を判定する検査です。ゲスターゲンという黄体ホルモン製剤(プロゲステロン)を注射して出血があれば、卵巣からある程度女性ホルモンが出ているものの排卵に至っていない状態であることがわかります。これを第1度無月経といいます。

それでも出血がなく、女性ホルモンと黄体ホルモンの両方を注射して初めて出血がみられる場合には、卵巣から女性ホルモンが十分出ていないため子宮も反応していなかったことがわかります。これを第2度無月経といいます。

第2度無月経のほうが第1度無月経より重症で、排卵を起こすのも難しくなります。

【GnRH負荷試験】

LHとFSHの値が低い場合には、GnRHが十分分泌されていないのか(視床下部性)、下垂体自身が悪いのか(下垂体性)を判別するため、GnRHを注射して下垂体からLHとFSHが出るかどうかを調べます。

排卵障害の原因が卵巣性の場合には、卵巣の中に排卵すべき卵子の元となるものがないので妊娠は難しいということになりますが、視床下部性や下垂体性の場合には、薬物治療によって排卵を促すことができます。ただし未婚であるなど、その時点で妊娠を希望しない場合には負担の大きな治療は行いません。

【Kaufmann(カウフマン)療法】

第2度無月経で妊娠を希望しない場合に女性ホルモンと黄体ホルモンを定期的に投与し、定期的な子宮からの出血を起こします。

【ホルムストルム療法】

第1度無月経、もしくは無排卵周期症の場合に黄体ホルモンだけを定期的に投与します。

これらの治療では一定のサイクルで月経は起こりますが、排卵が起こらないため妊娠はできません。妊娠を希望する場合には排卵を起こす必要があるため、次の2つの治療法を検討します。

【クロミフェンによる排卵誘発】

クロミフェンという排卵誘発薬は視床下部に作用し、GnRHの分泌を促進して、下垂体から出たLH、FSHが卵巣からの排卵を促します。ただし、効果は確実なものではなく、服用しても排卵が起こらないこともあります。特にダイエットによる視床下部性無月経ではあまり効果がありません。

この治療が有効かどうかを見極めるためには、前項で述べたゲスターゲン負荷試験を行います。第2度無月経の場合にはクロミフェンを服用しても効果が期待できないため、次に述べるゴナドトロピン療法を行います。

【ゴナドトロピン療法】

ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン・LHとFSHの作用を持ったホルモン製剤を指す)を定期的に投与します。ほぼ毎日、定期的に病院で注射をする必要がありますが、最近では数日間自宅で自己注射する方法も行われています。

最初にFSH(卵胞刺激ホルモン)製剤を投与し、卵胞がある程度大きくなったところでLH(黄体化ホルモン)の作用をもつhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン製剤)を注射すると排卵が起こります。この治療はかなり強力な排卵誘発効果があるので、卵巣性無月経以外の視床下部性や下垂体性の無月経、多嚢胞性卵巣症候群であれば、ほぼ排卵を起こすことができます。

ゴナドトロピン療法で注意しなければならない合併症として、多胎と卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の2つがあります。

多数の卵胞が育って排卵されることにより、双子や三つ子などの多胎となる確率が約20%に増加します。また、OHSSでは卵巣が腫大し、重症化すると腹水や胸水がたまり、血管内に血の塊(血栓)ができると命にかかわることもあります。

ゴナドトロピン療法で注射するFSH製剤には、FSHに少しのLHが含まれるものがありますが、多嚢胞性卵巣症候群ではOHSS発症のリスクが高く、OHSSを起こさないようにするためにLHを含まないpure FSH製剤の投与が推奨されます。

重症例では卵巣が腫れるだけではなく血栓症を起こして命にかかわるケースもあるため、治療中に卵胞がたくさん育ってしまっている場合には治療を中止するよう勧告も出ています。

排卵障害を改善するには、十分な睡眠をとるなど生活のリズムを整え、規則正しい生活をすることが重要です。職業柄、夜勤が多い看護師や航空機の客室乗務員(CA)などの職種では排卵障害の方が多いといわれています。仕事上やむをえない部分はあるにせよ、少なくとも食事制限を伴う過度のダイエットは控えるべきですし、逆に太りすぎや過食もよくありません。

肥満はインスリン抵抗性を助長しますが、そのことが直ちに月経不順につながるわけではありません。ただし、多嚢胞性卵巣症候群の場合には肥満を伴う症例が多いため、医療機関ではまず肥満を解消して標準体重に戻すような指導を行っています。

その一方、日本産科婦人科学会で行った調査では、スポーツに取り組む女子選手に骨折や無月経の割合が多いことが報告されています。これは2020年の東京五輪に向けて、東京医科歯科大学大学院(当時。現在は国家公務員共済組合連合会東京共済病院 院長)の久保田俊郎教授が文部科学省の依頼で実施したものです。(『女性アスリートを対象としたアンケート調査』2015:9より)

調査結果では日本代表や全国大会レベルのトップアスリートだけでなく、地方大会レベルや大会出場なしの女性選手も約2割が疲労骨折を経験しており、無月経の割合も一般女性より明らかに多いことがわかっています。

参考「女性アスリートを対象としたアンケート調査」(日本産科婦人科学会Webサイト)

女性アスリートの無月経では栄養因子が大きな要因となります。特に陸上競技や体操競技などの場合、太ると記録や成績に影響するという理由から、指導者や選手自身が食事制限をしてしまう傾向があるとみられます。排卵障害は、そのような体重制限を課した中で過度のトレーニングを行うことによって起こりやすくなります。

いずれにせよ、基本的にはご自身で基礎体温表をつけましょう。その上で月経期間が短い、あるいは月経がなかなか来ないといったことがあれば、基礎体温表を持って病院を受診することをおすすめします。

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