月経困難症の治療は薬を用いた薬物療法が中心で、主に鎮痛剤、ピル、漢方薬の3つが用いられています。ピルは、もともとは排卵を抑え避妊する目的の薬として知られていますが、月経困難症に対する有効性も認められており生理に伴うさまざまな症状の緩和が期待できます。
しかし服用に際していくつか注意点があります。そのため、月経困難症のピル治療について理解を深め、正しい方法で治療を行っていくことが大切です。
月経困難症の治療では一般的にまず鎮痛剤で痛みの軽減を図り、鎮痛剤で症状が改善しない場合や症状が重い場合にピルが検討されます。原則として生理のある女性であればピルの服用が可能ですが、40歳以降の人や喫煙者は血栓症などのリスクが高まるため注意を要します。
以前、ピルは避妊目的の使用に限られていましたが、2008年以降に月経困難症の治療薬として一部が保険適用となり、3割負担で治療を受けることができるようになりました。ピルはホルモンの含有量に応じて高用量、中用量、低用量、超低用量の4つがあり、このうち低用量と超低用量ピルが月経困難症の治療に用いられています。
月経困難症の原因の大半は、生理に伴って増加するプロスタグランジンという物質の産生量が通常よりも多いことが原因と考えられています。ピルを使用することによってプロスタグランジンの産生が抑えられ、生理に伴う不快な症状の改善が期待できます。
特にプロスタグランジンは子宮内膜に多く含まれ、生理に伴って産生量が増加し子宮筋を収縮させて血液を排出させたり、血液中に入って痛みを起こす物質を増加させたりします。そのため、プロスタグランジンが増えることで下腹部痛や腰痛(いわゆる生理痛)が強くなったり、吐き気や頭痛などさまざまな症状が現れたりするのです。
ピルは排卵を抑えると同時に、子宮内膜の増殖を抑える(内膜を厚くしない)作用を持っているため、プロスタグランジンの産生量を減らすことができます。子宮内膜が薄ければ、生理の量もそれに伴う痛みも少なくなると考えると分かりやすいでしょう。これによって生理中の種々の症状が軽減され、生理の量が減少し、排卵痛や生理前の不快な症状も軽減されます。
ピルを服用すると排卵が抑えられるものの、服用を中止すると通常の状態に戻ります。長期間の服用によって妊娠しづらくなるという印象が持たれることもありますが、長期間服用しても妊娠しづらくなるということはないとされています。また、過去に使用されていたピルでは服用すると太るといわれていたことがありますが、現在使用されている低用量ピルにおいてはそのような副作用がないことが証明されています。
月経困難症に用いるピルには、21日間服用して7日間休薬するタイプのものや、休薬期間を挟まず数か月連続して服用するタイプのものなどがあります。同じ種類のピルでも個人個人の体のリズムに合わせて休薬期間を設けるため服薬スケジュールは人それぞれですが、いずれにしても毎日一定の時刻に飲む必要があります。また、ピルの服用は長期間に及ぶため、定期的に医療機関を受診することが必要です。
体調がよくなったと自己判断して途中で服用を中止したり量を加減したりすると、月経困難症が悪化してしまう場合があるため、用量を守って飲み続けることが大切です。飲み忘れてしまった場合には、気付いた時点で前日分を飲み当日分も通常どおり飲みましょう。
どのような薬にも副作用がありますが、ピルも例外ではありません。服用を開始してからしばらくの間は吐き気や頭痛、不正出血といった症状が現れることがあります。また、ピルと併用してはいけない薬や併用に注意すべき薬もあります。
このように、ピルの服用に際してはさまざまな注意点があるため、ピルを用いた治療を行う場合は医師からの説明をよく聞き、医師の指示に従って治療を続けていくことが大切です。
ピルを服用することで排卵や子宮内膜が厚くなることを抑えられ、プロスタグランジンの量が減少し、生理痛をはじめとするさまざまな症状の軽減が期待できます。月経困難症に対する薬物療法は鎮痛剤が第一選択となりますが、症状が重い場合やその人の希望に応じてピルを選択できる場合もあります。ピルでの治療を考えるのであれば婦人科を受診し、医師に相談してみるとよいでしょう。
山王病院(東京都) 名誉病院長
堤 治 先生の所属医療機関
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