概要
卵巣嚢腫とは、卵巣に発生する腫瘍の一種です。卵巣の腫瘍は、液体の入った袋のような病変が形成される”卵巣嚢腫”と、しこりのような病変を形成する”充実性腫瘍”に分けられます。卵巣嚢腫は、袋の中を満たす成分の違いによって”漿液性嚢腫”、”粘液性嚢腫”、”成熟嚢胞性奇形腫(皮様嚢胞)”、”チョコレート嚢腫”などさまざまな種類に分けられます。
卵巣嚢腫の多くは良性腫瘍であるため、急激に大きくなったり転移を生じたりすることはありません。しかし、卵巣は”沈黙の臓器”とも呼ばれ、がんになっても症状が現れにくいとされています。そのため、腫瘍が大きくなって腹囲が大きくなる、下腹部にしこりができるといった症状が現れてから初めて病院を受診する方も少なくありません。
また、卵巣嚢腫は大きくなると破裂したり、卵巣の根元が捻れて血流がストップしてしまう茎捻転などを引き起こしたりすることもあります。いずれも急な腹痛がおこり、緊急手術が必要な場合があり注意が必要です。
原因
多くの卵巣嚢腫の明確な発症メカニズムは解明されていません。
一方で、卵巣内に古い血液のような成分がたまる”チョコレート嚢胞”は、卵巣に発生する子宮内膜症によって引き起こされることが分かっています。また、卵巣の中に歯や髪の毛、脂肪組織などの成分がたまる”成熟嚢胞性奇形腫”は受精していない卵巣内の卵子が分裂し、人体の組織を作り出すことが原因と考えられています。
症状
卵巣嚢腫は、早期段階ではほとんど自覚症状はありません。しかし、徐々に時間をかけて大きくなり、下腹部の痛みや張り、性交痛などの症状を引き起こすことがあります。
また、卵巣が極端に増大すると体の外からしこりを触れるようになったり、下腹部を中心として腹囲だけが不自然に大きくなったりしていきます。
卵巣嚢腫の多くはがん化することはありませんが、大きくなったまま放置すると嚢腫が破裂したり、卵巣の付け根が捻れる”茎捻転”を引き起こしたりすることがあります。その結果、急にお腹に激痛などが生じ、早急な治療が必要となる場合もあるため注意が必要です。
検査・診断
卵巣嚢腫が疑われた場合は、次のような検査が行われます。
画像検査
卵巣嚢腫の疑いがある場合は、第一に超音波検査が行われます。超音波検査にはお腹から超音波を当てる”経腹超音波検査”と腟から当てる”経腟超音波検査”がありますが、いずれも卵巣の大きさ、充実性病変の有無などを簡易的に評価することが可能です。
一方、超音波検査で卵巣に腫瘍が発見された場合は、さらに詳しい状態を調べるためにCTやMRIなどによる精密検査を行うのが一般的な流れです。
血液検査
卵巣嚢腫のほとんどは良性腫瘍ですが、卵巣がんなどの悪性腫瘍との鑑別を行うために”腫瘍マーカー(がんを発症すると体内で作られるようになる物質)”の有無を調べることがあります。しかし、腫瘍マーカーの数値のみで良性か悪性かの診断を下すことはできず、あくまで診断のための補助的な検査と位置付けられています。
治療
卵巣嚢腫の治療方法は、腫瘍のタイプや大きさ、年齢などによって大きく異なります。
サイズが小さく悪性腫瘍を疑わせるような検査結果もなく、自覚症状がない場合は定期検査のみで治療を行わないケースがほとんどです。
しかし、何らかの自覚症状がある場合やサイズが大きくなった場合には、手術による切除が行われます。治療後に妊娠を希望する場合は、可能であれば腫瘍部分のみを切除して卵巣を残す”卵巣嚢腫摘出術”が行われますが、妊娠を望まない場合や腫瘍が大きい場合は卵巣や卵管を摘出する付属器切除術が行われます。
また、子宮内膜症が原因で発症するチョコレート嚢胞の場合は、低用量ピルや黄体ホルモンなどのホルモン治療を行って卵巣内での子宮内膜の増殖を抑えて腫瘍を縮小させる治療が行われることがあります。しかしチョコレート嚢胞はがん化することもあるため慎重な対処が必要です。
予防
卵巣嚢腫の発症原因は不明な点も多いため、現状では明確な予防方法は確立されていません。
一方で、卵巣嚢腫は発症に気付かないまま大きくなって、破裂や茎捻転を引き起こすこともあります。卵巣の病気は自覚症状が現れにくいため、定期的な婦人科健診を受けて病気の有無を確認することが大切です。また、下腹部違和感が続くなどの症状がある場合は軽く考えずに早めに病院へ行くようにしましょう。
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