卵巣腫瘍は、子宮の左右に1つずつある卵巣に発生した腫瘍のことです。卵巣腫瘍は良性、悪性(卵巣がん)、その間である境界悪性の3種類に大別されるため、卵巣腫瘍と診断されたからといって悪性(がん)とは限りません。治療は原則手術によって行いますが、良性なのか悪性なのか、妊娠の希望はあるのかなどによって方法も異なります。
卵巣腫瘍の治療は、手術が行われることが一般的です。また、良性か悪性かどうかを含めた卵巣腫瘍の診断は内診、経腟超音波検査(腟から器具を入れて超音波検査を行う方法)、CT検査やMRI検査によって行われます。内診では卵巣の大きさや形、癒着しているかどうかを、超音波検査では卵巣の大きさや腫瘍の内部の状態などを、CT検査やMRI検査では腫瘍の内部の状態や、子宮や膀胱などの周囲の臓器との関係、転移の有無など病変の広がりを調べ、良性、境界悪性、悪性を総合的に判断します。
ただし、これらの検査を全て行っても、確実に良性か悪性かを見分けることは難しいことも少なくありません。最終的には、手術で摘出した腫瘍を顕微鏡で調べることで、診断を確定することができます。
全ての卵巣腫瘍のうち、9割は良性腫瘍です。良性腫瘍であっても自然に治ることはないので、原則は手術での摘出がすすめられます。
症状がない小さい腫瘍では、しばらく経過観察とする場合もありますが、腫瘍が4~5cm以上の大きさであったり、痛みなどの症状があったりする場合は、手術を考えることになります。
また4~5cm以上の大きさになると、時に卵巣腫瘍茎捻転や卵巣腫瘍破裂をきたすことがあります。これらは、下腹部に急激な痛みを生じて緊急手術が必要となるため、このような事態にならないためにも、ある程度の大きさの腫瘍では積極的に手術を考えることになります。
手術方法は、正常な卵巣は残して腫瘍だけを摘出する“腫瘍摘出術”と、腫瘍ごと卵巣と卵管を全て摘出する“付属器摘出術”があります。若年で、これから妊娠・出産を希望している場合や、術前検査で良性腫瘍と考えられる場合などは、前者を選択することが一般的です。
一方、比較的高齢の場合や、良性腫瘍であっても再発の可能性が懸念される場合などは、後者が選択されます。卵巣は、片方が残っていれば妊娠も可能ですし、更年期障害なども起こりません。近年は、術前検査で境界悪性や悪性の疑いがなければ、腹腔鏡下手術(腹部の小さな傷からカメラと器具を入れて手術する方法)で行うことがほとんどです。
卵巣腫瘍の残りの1割が、悪性腫瘍になります。術前検査で悪性の可能性がある場合は、腹腔鏡下手術ではなく、開腹手術によって腫瘍を摘出します。そして、手術中に顕微鏡でおおよその悪性度を診断する検査(迅速病理診断)を行って、その場で手術の方法を決めていきます。
たとえば迅速病理診断の結果、境界悪性の場合は、子宮、両側の卵巣と卵管、胃と大腸の間から垂れてお腹を覆っている大網という膜を切除するところまでが基本術式になります。悪性の場合は、それらに加えて骨盤および傍大動脈リンパ節郭清を追加します。
また、腫瘍が種を播いたようにお腹の中に広がっている播種病変が認められた場合、病変と一緒に腹膜や腸管を切除することもあります。お腹の中全体を観察して、病気の広がり具合や患者さんの全身状態などから総合的に判断して、術式を決めることになります。
また悪性の場合、術後には抗がん剤を投与する化学療法を行うことがあります。我が国の卵巣がんの治療の基準となる“卵巣がん治療ガイドライン”においても、ステージIAまたはIB期以外のがんは、術後に化学療法を行うことがすすめられており、ほとんどの場合は再発リスクを低減させるため、または残った病変を縮小させるために、化学療法を行っています。
繰り返しになりますが、卵巣腫瘍の治療は手術での摘出が原則になります。薬などで治すことができないことと、顕微鏡による病理診断も摘出しなければできないことがその理由です。そして悪性度によって手術方法は異なり、良性の場合は腫瘍摘出または付属器摘出術まで、境界悪性の場合は子宮摘出、両側付属器切除、大網切除を行い、悪性の場合は、さらに骨盤および傍大動脈リンパ節郭清を追加します。
妊娠を希望されている場合、悪性度が高いほど子宮と両側の卵巣・卵管を切除することとなるため、妊孕性の温存は難しくなります。ただし病状によっては、子宮やどちらかの卵巣・卵管を残すことで妊孕性の温存が可能な場合もあります。さらに、術前に卵子や受精卵を凍結しておくことができる場合もあります。まずは医師に相談するとよいでしょう。そのほかにも不明点がある場合は、できる限り納得したうえで治療が受けられるよう、遠慮なく医師に相談しましょう。
国立国際医療研究センター病院 第二婦人科 医長
冨尾 賢介 先生の所属医療機関
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