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卵巣嚢腫の手術——妊娠・出産を希望する場合にはタイミングが大切

卵巣嚢腫の手術——妊娠・出産を希望する場合にはタイミングが大切
大石 元 先生

国立国際医療研究センター病院 産婦人科 診療科長

大石 元 先生

目次
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卵巣に生じる良性腫瘍(りょうせいしゅよう)である卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)皮様嚢腫(ひようのうしゅ)やチョコレート嚢胞(のうほう)などさまざまな種類があり、必ずしもすぐに治療が必要なものばかりではありません。ただし、卵巣嚢腫の中には妊娠と関連があるものもあり、妊娠・出産を希望する場合には、治療法の選択や治療を受けるタイミングが大切になります。

今回は、卵巣嚢腫の治療に携わっていらっしゃる国立国際医療研究センター病院 産婦人科診療科長の大石(おおいし) (はじめ)先生に、卵巣嚢腫の手術と、妊娠・出産を希望する場合の治療のタイミングについてお話をお伺いしました。

卵巣嚢腫は良性腫瘍であるため、必ずしもすぐに治療が必要とは限りません。患者さんの状態や卵巣嚢腫の種類や大きさによっては経過観察を行うこともあります。ただし、5~6cmなど病変がある程度大きくなっている場合には自然と改善することは見込めないため、手術によって摘出するケースが多いでしょう。

また、皮様嚢腫によって卵巣全体がねじれる卵巣茎捻転(らんそうけいねんてん)が起こると強い腹痛が現れます。このような場合には、救急治療を行うこともあります。

患者さんが妊娠・出産を希望している場合には、手術のタイミングが大切になります。皮様嚢腫、漿液性嚢胞腺腫や粘液性嚢胞腺腫があるからといって必ずしも不妊につながるとは限りません。

ただし、手術による摘出を行わないまま妊娠すると、妊娠中に病変が破けたり、卵巣全体がねじれたりすることで重症化するケースもあります。このようなリスクを避けるために、妊娠前にある程度大きな卵巣嚢腫があるようなら手術によって摘出したほうがよいと考えています。

画像:Pixta
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また、チョコレート嚢胞は不妊につながると考えられており、特にある程度の大きさになると、妊娠環境を悪化させる可能性が高いといえます。ただし、チョコレート嚢胞の摘出には注意が必要です。チョコレート嚢胞は卵巣としっかりと癒着しているため、そこだけ摘出することは難しく、摘出によっていくつかの卵子も一緒になくなってしまうケースがあるからです。女性が一生のうちに排卵する卵子の数は決まっており、そこから増えることはありません。卵子が減った分だけ妊娠の可能性も低下してしまいます。

このため、チョコレート嚢胞の場合には、あえて病変を摘出しないケースもあります。排卵と月経を繰り返すことによって病変が大きくなるため、一時的に薬によって月経を止めたり、子宮内膜症を改善するような薬によって治療を行ったりすることがあります。

卵巣嚢腫の手術は、腹腔鏡を用いた腹腔鏡下手術を行うことが多いです。腹腔鏡下手術では、お腹に小さな穴を数か所あけ、そこからスコープや鉗子(かんし)(手術用具の1つ)を挿入して病変の摘出を行います。腹腔鏡下手術は手術による傷が小さく、術後の早期回復が可能になる点が特徴です。病変が大きい場合には、内容物を抜いてから摘出することもあります。

手術時間は1~2時間程です。子宮内膜症を併発しているチョコレート嚢胞で、病変と卵巣の癒着が多くみられるケースでは3時間程かかることもあります。当院では、手術の前日に入院していただき、術後4日程で退院していただいています。

悪性が疑われる場合には、腹腔鏡下手術ではなく開腹手術を行うこともあります。腹腔鏡下手術では、小さな穴から病変を取り出すことになりますが、摘出する際に病変が大きい場合にはお腹の中で破けてしまう可能性があります。悪性腫瘍が破裂してしまうと、がんを腹腔内にばらまいてしまうことになります。

このようなリスクを避けるため、悪性の可能性が高い場合には、開腹手術を行うことがあります。当院では、開腹手術の場合、2週間程の入院が必要です。

当院は、ほとんどの症例に対して腹腔鏡下手術を実施しており、できる限り患者さんの体に負担の少ない手術を行うよう努めています。細い鉗子を用いることで術後の傷が非常に小さく、手術による傷あとも目立たない点が特徴です。

当院には、妊娠・出産を希望されながら、子宮内膜症とチョコレート嚢腫を合併した不妊症の方が多くいらっしゃいます。このような患者さんの手術を行う際には、たとえば、術後に体外受精を行うために手術の前にあらかじめ卵子を採取しておくこともあります。このように、患者さんに合わせて不妊治療を考慮した治療を行っている点も特徴です。

国立国際医療研究センター病院 産婦人科のスタッフ
国立国際医療研究センター病院 産婦人科のスタッフ

卵巣嚢腫の手術後には、卵管が癒着したり閉塞(へいそく)したりすることで、不妊につながることがあります。卵子の通り道である両方の卵管が閉ざされると受精することができないため、自然妊娠が望めなくなるからです。片方の卵管のみの場合には自然妊娠の可能性は残されていますが、両方の卵管が問題なく通っている場合と比べると妊娠の確率は低くなってしまいます。

検査の結果、両方あるいは片方の卵管に癒着や閉塞が確認された場合、特に35歳以上など年齢が高い場合には自然妊娠の可能性が低いと判断し、体外受精に踏み切るケースもあります。

卵巣嚢腫は再発する可能性があります。なかでも、チョコレート嚢胞の術後、無治療の場合には3割程の患者さんが再発すると考えられます。術後にチョコレート嚢胞の再発を可能な限り避けるためには、ピルの服用が有効です。

なお、再発した場合には、腹腔鏡下手術によって病変を摘出することが多いでしょう。

卵巣嚢腫の中でも、特にチョコレート嚢胞は不妊につながることがあります。もしも毎月の生理痛が重いという方には、チョコレート嚢胞の可能性を考え、婦人科の受診をおすすめします。

また、卵巣嚢腫が発見された場合には、すぐに手術するかどうかを決めるのではなく、さまざまな選択肢をご検討いただきたいと思います。手術には手術のリスクがありますし、経過観察には経過観察のリスクがあります。妊娠・出産を希望している場合には、お話ししたように、なるべく妊娠・出産の可能性を残しておくために治療の内容や手術を受けるタイミングなどが大切になるでしょう。卵巣嚢腫の治療や不妊治療の知識のある医師とよく話し合ったうえで選択していただきたいと思います。

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