不妊治療はご夫婦が協力し合い、一緒に行うことが理想的です。しかし、両者には体の構造や考え方の違いがあるため相互理解が難しいことも多く、それぞれに悩みや疑問を抱えこんでしまうカップルも見受けられます。
そこで今回は東邦大学医療センター大森病院リプロダクションセンター・センター長・永尾 光一先生に、旦那さん側・奥さん側、両者から寄せられた不妊治療に関する疑問の声にお答えいただきました。
以前は、男性不妊の原因となるさまざまな症状や病気の検査や治療は“泌尿器科”、女性不妊は“婦人科”というように、診療科や施設自体が分かれていました。しかし、近年では当院のリプロダクションセンターのように、ご夫婦そろって受診できる不妊治療専門の施設が急速に増えてきています。
当院のリプロダクションセンターの場合、受付は1つに集約されており、施設(病棟)自体は泌尿器科・婦人科と別棟に分かれています。そのため、2つの診療科が密に連携し、体外受精などにも迅速に努めています。患者さんも“不妊治療専門”ということで、安心感を持って来院されているようです。
なお、精液検査だけでしたら、地域の泌尿器科のほか、奥さんが通院されている婦人科でも行えます。
まずは、奥さんが率直にご自分の気持ちを伝えることをおすすめします。このとき大切なのは、落ち着いた雰囲気や口調で、決して感情的になりすぎずに思いを伝えることです。
旦那さんが病院を受診できない理由の中で、もっとも多く見受けられるのは「仕事を休めない」というものです。旦那さんにもこのように受診できない理由があるため、けんか腰になってしまうと、反発されてしまうこともあります。
素直な気持ちを伝えたにもかかわらず無視されてしまった場合を考えるとつらいでしょうが、まずは話し合わなければ次のステップへ進めません。
ただし、「まず、なぜ旦那さんが病院へ行こうとしないか」を考えねばならないケースもあります。当科の外来でも、旦那さんの話をよくよく聞いてみると、実は子どもを望んでいない(欲しくない)タイプの男性であったということがあります。
このほか、子どもは無理に作るものではなく「自然でいいじゃないか」という考えをお持ちの方もいらっしゃいます。こういった価値観のすり合わせも、ご夫婦で落ち着いて行ったほうがよいでしょう。
また、「医療機関へ行って欲しい」と伝えただけでは、旦那さん側が面倒に感じ(または忙しく)結局受診しないということもあります。ですから、奥さんが医療機関などを調べるなどし、段取りを組んであげるのもよいかと考えます。
日々不妊治療を行っていて感じるのは、男性には“理性的な人”と“情緒的な人”の2タイプの人がいるということです。論理的な考え方やエビデンス(医学的根拠)に基づいて物事を重視するタイプの方々は不妊治療への抵抗感が低いため、当科に来院される患者さんは医療従事者の方などが多い傾向にあります。科学的に考えれば検査や治療をしたほうがよいとわかっていても、精液検査の段階で抵抗を感じてしまう人は、おそらく後者の“情緒的な人”なのではないでしょうか。
精神的な抵抗感を克服するのは難しいものですが、専門施設であれば“採精室”という個室が設けられており、個人情報が守られる構造になっています。まずは、一度勇気を出してご来院いただくのがよいでしょう。
不妊治療の専門施設ではない場合は、トイレで精液を採ることもありますので、抵抗感が強い方にはあまりおすすめできません。
また、「自宅で採取したい」という方もいらっしゃいますが、これには大きな問題があります。精子は温度の変化や時間の経過、紫外線などの影響を受け、状態が悪化してしまうものです。そのため、ご自宅で採取した精液は、医療機関で採取したものより悪い結果が出ることがあるのです。
「どうしても家でなければ嫌だ」という方にのみ、可能な限り早く医療機関へ持ってきてくださいとお伝えしています。
精子の状態が悪い理由が病気などであれば、治療することが先決です。たとえば“精索静脈瘤”があれば手術をすることで、精子のDNA損傷などは改善されます。
また、一般的な話ですが、精巣の温度を上昇させないよう、サウナや長風呂などを避けることも1つの手段です。下着は、ブリーフではなくトランクスに切り替えましょう。
このほか、ストレスや肥満、体調不良などを抱えていると、精子の状態(精液所見)は悪くなってしまいます。
たとえば、精索静脈瘤を治療したにもかかわらず、精液検査の結果が悪い場合、患者さんに話を聞くと「かぜを引いていた」「前日に飲酒をした」ということがあります。このようなときは、もう一度精液検査を行うことになります。
漢方薬は、処方を希望される患者さんには出しますし、よくなる方もいらっしゃいます。しかし、漢方薬を服用した群とそうでない群を比較した研究などがなされていないため、医学的に効果があると断言することはできません。
漢方薬を処方する場合、一般的には、虚弱体質や陰萎に対する効能があるといわれる補中益気湯(ホチュウエッキトウ)をお出しします。
ただし、漢方薬やサプリメントのみで、ご自身の不妊の原因を治そうとする姿勢には問題があります。なぜなら、男性不妊は“短期間”で治さなければ、奥さんの年齢ばかりがどんどん上がってしまうからです。
“年齢”は女性不妊の1つのリスク因子ということを、ぜひ覚えていてください。
お子さんを授かるためには、薬全般はあくまでも補助的なものと考え、早い段階でメインの治療を行うことが必要です。ここでいうメインの治療とは、手術や人工授精、体外受精や顕微授精などを指します。
まず、男女ともにたばこは必ず、今すぐにやめましょう。喫煙は百害あって一利なしです。
飲酒は、精液検査の前には控えたほうがよいでしょう。これは、体調が悪いと精子の状態が悪くなるからです。
コーヒーなどのカフェインは、男性には特に影響がないとされています。このほか、薬も男性にはあまり影響しないといわれています。たとえば、抗がん剤を飲んでいても、それがダイレクトに精巣にダメージを与えるものでなければ、精子の状態に影響は現れません。ですから、薬全般に関して、男性は女性ほど気にする必要はありません。
先日拝聴した講演で、「禁欲して精液をため、タイミングを狙って射精したほうがよいのか否か」という問題が取り上げられていました。それによると、禁欲して排卵日を狙うよりも、連続して性交渉を持ったほうが、自然妊娠を希望される方にとってはよいとされていました。
奥さんの排卵日が分かれば結論は変わるかもしれませんが、「本当に○月○日に排卵したかどうか」分かる人はいないでしょう。そのため、排卵日周辺と考えられる期間は、なるべく回数を増やし、頻回に射精したほうがよいといわれているのです。
数日連続して射精することで、1回の射精における精子の量は減りますが、質は上がり、より新鮮な精子が出るようになります。
ですから、自然妊娠だけでなく、顕微授精のために“ごく少量”の精子を必要とする場合も、前日射精しておき、当日により新鮮な精子のみを集めたほうがよいと考えます。
ただし、人工授精や体外受精は、濃度も必要になるのでこの限りではありません。
そのとおりです。精子を作り出す精巣は、体温より2度ほど低い温度で活発に機能します。たとえば、男性不妊の原因として有名な精索静脈瘤は、精巣温度が高い状態が続いてしまうことが問題となる病気です。
精巣部を温め続けないよう、サウナや長風呂、ブリーフを避けるほか、“膝の上に熱をもったPCを置いて長時間作業する”といった行為も、念のため控えたほうがよいでしょう。
東邦大学 医学部教授(泌尿器科学講座)、東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター(泌尿器科)センター長
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