染色体とは、細胞が分裂する際に遺伝子が記録されているDNAとタンパク質が凝集して出現するもので、分かりやすく例えるならば遺伝子が入っている箱のようなものです。私たちヒトは通常46本の染色体を持っており、そのうち44本は常染色体と呼ばれ、2本は性染色体と呼ばれます。
性染色体にはX染色体とY染色体があり、生まれてくるときの性別決定に関連しています。通常、男性はX染色体とY染色体を1本ずつ持ち、女性はX染色体を2本持っています。これらの染色体に異常がないかどうか調べるのが染色体検査で、採血をすることで調べることができます。
男性不妊症の人のうち、染色体に異常がある人の割合は3.6~12.6%と言われています。生殖医療センター泌尿器科のデータでも、男性470名のうち19名(4.0%)に染色体異常が見つかっており、決して珍しい病気というわけではありません。そのため、診察して染色体異常の可能性があると判断できる場合、また高度乏精子症や無精子症が見られる場合、原則として染色体検査を行います。
染色体の数や形態に異常があるかどうかが分かります。数が多かったり少なかったり(異数体)、染色体が途中で切れていたり(欠失)、別の場所へ移っていたり(転座)、入れ替わっていたり(相互転座)と様々な種類の異常があり、それらが男性不妊症の原因となっていることがあります。
性染色体の異常はクラインフェルター症候群、XX male、46,XYq-、リングY染色体などの原因となり、常染色体の異常はロバートソン転座、常-常染色体相互転座、Y-常染色体相互転座、などの原因となります。いずれの病気も、無精子症や高度乏精子症となり男性不妊症を引き起こす可能性があります。
以前は染色体異常があると子供を授かることは難しいと考えられていました。
しかし、生殖補助医療技術(Assisted reproduction technology: ART)の進歩、とくに精巣内精子回収術(Testicular sperm extraction: TESE)や顕微授精(Intracytoplasmic sperm injection: ICSI)の技術発達によって、現在は一部を除く多くの染色体異常では子供を授かることができる可能性があります。
ただし病気によっては子供に染色体異常が受け継がれるリスクもあり、両親は治療について十分な説明を受ける必要があります。また染色体異常があった場合、子供を作れる可能性はありますが、染色体異常そのものを根本的に治療することは、基本的にはできません。検査を受ける場合はその意義や予想される結果、異常があった場合どうするかなどについて、専門医によるカウンセリングを受けることが望ましいでしょう。
横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター 泌尿器科部長・准教授、田園都市レディースクリニック 臨時職員
黒田 晋之介 先生の所属医療機関
横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター 泌尿器科部長・准教授、田園都市レディースクリニック 臨時職員
日本泌尿器科学会 泌尿器科専門医・泌尿器科指導医日本生殖医学会 生殖医療専門医日本癌治療学会 会員日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
日本生殖医学会認定 生殖医療専門医(泌尿器科)の一人であり、男性不妊治療の専門家。横浜市の不妊相談などを担当し、男性不妊の啓発活動に努めている。また、横浜市立大学附属市民総合医療センターの生殖医療センター部長を務める。同センターは泌尿器科、婦人科に日本生殖医学会認定 生殖医療専門医(泌尿器科)が在籍しており、パートナーと一緒に治療を受けられる神奈川県内の施設である。
湯村 寧 先生の所属医療機関
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