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無精子症や乏精子症による男性不妊の手術治療-日帰り精巣内精子採取術
男性不妊の原因として、無精子症や乏精子症、精子無力症という言葉を耳にしたことがある人も多いでしょう。これらは、噛み砕いて説明すると「精液の中の精子が不足している状態」のことを指します。そのため、...
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無精子症や乏精子症による男性不妊の手術治療-日帰り精巣内精子採取術

公開日 2016 年 05 月 09 日 | 更新日 2017 年 05 月 08 日

無精子症や乏精子症による男性不妊の手術治療-日帰り精巣内精子採取術
永尾 光一 先生

東邦大学医学部教授(泌尿器科学講座)/東邦大学医療センター大森病院リプロダクションセンター(泌尿器科)センター長

永尾 光一 先生

男性不妊の原因として、無精子症や乏精子症、精子無力症という言葉を耳にしたことがある人も多いでしょう。これらは、噛み砕いて説明すると「精液の中の精子が不足している状態」のことを指します。そのため、精液検査の結果はよくはなかったとしても、精巣の中には質の高い精子が十分に存在している可能性があり、精巣内から精子を採り出す手術を受けることでお子さんを授かることも大いに期待できます。

本記事では日帰りでできる2つの精巣内精子採取術、TESEとMicro-TESEの具体的な方法と、術後の経過や合併症、(ご夫婦の)妊娠の可能性について、東邦大学医療センター大森病院リプロダクションセンターのセンター長・永尾光一先生にお伺いしました。

精巣内精子採取術とは? 顕微授精を目的に精巣内から精子を採る

男性不妊の原因として、無精子症や高度乏精子症、精子無力症(精巣の中の精子の総運動率が低い病態)など、精液の中に精子が十分に存在しない病態が挙げられます。本記事でご説明する「精巣内精子採取術」とは、上記に該当し、更に精路再建手術の適応ではないときに、「顕微授精」を行うことを目的として精子を採取する手術のことを指します。

精巣内の精子の採取方法-「精巣内精子採取術」を行う場合とは?

精巣を刺激するFSH(卵胞刺激ホルモン)が正常で、精子を作り出す「造精機能」がある程度保たれている場合には、次の2つの方法で精子を採取することができます。※例外もあります。

●FNS:針を用いて精巣から精子が作られる部分である「精細管」を吸引する方法

●精巣内精子採取術(TESEもしくはSimple-TESEと呼びます。):小さなメスを用い、陰嚢を0.5cmから1㎝程度切開して、精細管を採取する方法

造精機能がある程度保たれている場合は、これらの手術を行うことで、約90%の確率で精子を採取できると考えていただいてよいでしょう。

一方、FSHが高値など、造精機能が障害されている場合は、顕微鏡下で精子を探し出す「顕微鏡下精巣内精子採取術」を行うこととなります。

顕微鏡下精巣内精子採取術とはどのような手術? 写真でみる不妊治療手術の実際

顕微鏡下精巣内精子採取術(MDTESEもしくはMicro-TESEと呼びます。)は、精巣を切り開き、精巣内全体を顕微鏡で観察して、精子がありそうな精細管を探し出す手術です。

顕微鏡下精巣内精子採取術(写真提供永尾光一先生)
顕微鏡下精巣内精子採取術 手術中の様子(写真提供:永尾光一先生より)

Micro-TESEは、Simple-TESEとは異なり、精巣を皮膚から出し、二つに切り開くようにして行う手術です。具体的には、精巣を横切開し(縦切開する施設もあります。)、精子が詰まっていると考えられる太く白い精細管を探して採取します。

顕微鏡下精巣内精子採取術(MDTESE;Micro-TESE)
顕微鏡下精巣内精子採取術(MDTESE;Micro-TESE)の手術 (写真提供:永尾光一先生より)

当科ではSimple-TESEもMicro-TESEも局所麻酔を使用するため、両手術とも日帰りで行うことができます。

手術後の痛みはどのように抑えるのか-形成外科医時代の経験を活かした局所麻酔の使用

Micro-TESEは、多くの施設で全身麻酔を使用して行われており、東邦大学リプロダクションセンターでもかつては全身麻酔を用いていました。しかし、全身麻酔には「(麻酔が)切れるとすぐに痛みが現れる」という難点があります。そこで私は、手術後も長時間作用する局所麻酔薬(アナペイン)と、すぐに効力を発揮する局所麻酔薬(キシロカイン)を混ぜた特殊な麻酔薬を使用してMicro-TESEを行っています。

長時間(約4~5時間)作用する局所麻酔薬を術前にしっかりと打っておくことで、術後少なくともご自宅に戻られるまでに痛みが現れてしまうことはなくなります。

このような麻酔の使い方は、かつて自身が形成外科医として指を繋ぐ長時間の手術を行っていたときの技法を応用したものです。

術後合併症を防ぐために-永尾光一先生の信念

Micro-TESEを行う際には、麻酔で可能な限り長時間痛みを抑えることのほか、「術後合併症」(内出血、感染症など)を防ぐことにも注力しています。というのも、Micro-TESEを受けられる患者さんの場合、顕微鏡で精巣内を隈なく観察した場合でも6割の方は精子を採取することができないからです。

※採取できる4割の方の場合は、精子の詰まっている精細管をみつけることができます。

精子採取がかなわず、更に術後合併症を発症してしまったとなると、患者さんの精神的負担は非常に大きなものとなるでしょう。ですから、私は開いた精巣を縫合する際にも、元通りのきれいな皮膚状態に仕上げられるよう顕微鏡を用い、皮下出血を起こさないよう慎重かつ細やかに縫い合わせることに、強いこだわりを持っています。

奥さんと並行して治療を行う際には両側の精巣を手術することもある

片方の精巣を観察しても精子が詰まっていると考えられる精細管がみつからなかった場合、もう片方の精巣を開いたとしても、精子を採取できる確率は約5%程度と低いものです。しかし、顕微授精を目的とし、同日に奥さんの卵子を採卵している場合は、その日のうちに精子を採取する必要があるため、両側のMicro-TESEを行います。

ほとんどの方は精子が採取できないため、同日に両側の精巣の手術を行うことは「賭け」に近いものがあります。精子が採取できたとしたら、それは非常に運がよいケースと言っても過言ではないでしょう。

しかし、Micro-TESEの適応となる患者さんの精子は質が高いとはいえず、脆弱であることも多いため凍結保存には向きません。ですから、顕微授精の成功率を高めるためには、奥さんの採卵とMicro-TESEを同日に行って新鮮精巣内精子を使用したほうがよいのです。

尚、Simple-TESEで採取できた精巣内精子は、多くの場合凍結保存して後日使用することが可能です。

後日、片側の精巣から精子採取を試みることもある

また、一般的ではありませんが、片側のMicro-TESEを行い精子が採れなかったときに、病理組織をみて再度もう片方の精巣内から精子を採取できないか検討することもあります。採取した精細管組織を病理検査に出すと、「ジョンソンスコア」という、精巣組織や造精機能のレベルを評価するスコアを割り出すことができます。この評価が悪くなかった患者さんに対し、一定期間ホルモン治療を行い、再度片側でMicro-TESEを行うことも稀にあります。ただし、この方法は「チャレンジ」というニュアンスに近いものであり、必ず精巣内精子を採取できるわけではありません。

日帰り精巣内精子採取術、術後の経過-翌日から仕事復帰も可能

前述の通り、当科では長時間効果が持続する特殊な局所麻酔を使用するため、手術当日に歩いて帰宅することも可能です。ただし、Micro-TESEを受けられた患者さんの場合、麻酔が切れると記事1で述べた精索静脈瘤の手術後などよりも強い痛みが現れるため、手術後数日は鎮痛作用のある内服薬と座薬を使用して痛みを抑えます。

手術を受けた翌日から、事務作業程度ならば仕事に復帰することが可能です。

神経が位置する腹部に痛みが現れることも

ただし、全ての患者さんに対し、あらかじめ「術後しばらくは、傷口のほか、お腹が痛くなる可能性がある」ということはお伝えしています。これは精巣にメスを入れることで痛みを感じる神経が腹部にあるからです。お腹がなぜ痛くなるのだろうかと心配される方もいますが、精巣内精子採取術後の腹痛は、決して異常な反応ではないのです。

顕微鏡下精巣内精子採取術の術後の経過や合併症

起こり得る合併症には、痛みや内出血、そして感染症があります。特に内出血した方は感染症を起こしやすいので、術後も注意が必要です。

精巣内精子採取術によりどの程度お子さんを期待できるのか?

Micro-TESEでは、精子が採取できた場合でも、その質の問題から、お子さんを得るに至る割合はそう高くはないのが現状です。

しかし、Simple-TESEの適応となる患者さんの場合は、精液の中の精子が不足していても、精巣内には沢山の精子がいることがほとんどです。たとえば、閉塞性無精子症(OA)の方などがこのケースに該当します。

閉塞性無精子症とは、精子が精巣内で作られているにも関わらず、精管が閉塞しているために射出精液には精子が含まれていない病態のことをいいます。このような方の精子は通常状態がよいため、凍結保存して後日顕微授精を行っても基本的によい成績が得られます。実際にSimple-TESEを受けた後、お子さんをもうけるに至ったご夫婦は沢山いらっしゃいます。冒頭でも触れましたが、FSHの値が正常であれば(高値でなければ)、約9割は精巣内精子を採取できると考えていただいて差し支えありません。

男性不妊手術(永尾光一先生)の連載記事

昭和大学にて形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻し、形成外科・泌尿器科両方の診療科部長を経験する(2つの基本領域専門医を取得)。得意分野はマイクロサージャリーをはじめとする生殖医学領域(主に陰茎・陰嚢)の形成外科的手術。泌尿器科医の枠を超えた細やかな手術手技と丁寧な診察で、男性不妊症をはじめとする様々な悩みを抱える患者さんから高い信頼と評価を得ている。

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