インタビュー

耳下腺腫瘍の検査と診断、治療方針の決定

耳下腺腫瘍の検査と診断、治療方針の決定
別府 武 先生

埼玉県立がんセンター 頭頸部外科 科長兼部長

別府 武 先生

この記事の最終更新は2016年01月20日です。

耳下腺腫瘍は非常に種類が多いことが知られています。診断のために行なわれるさまざまな検査の実際、そして診断に基づく治療方針の決定について、頭頸部外科の第一人者である埼玉県立がんセンター頭頸部外科部長の別府武先生にお話をうかがいました。

痛み・癒着(ゆちゃく)・顔面神経麻痺は悪性(がん)を疑う三兆候と呼ばれています。

  1. 痛み:耳下腺腫瘍の症状は、その大半が耳の下・耳の前の腫れやしこりなどです。痛みを伴わないものがほとんどで、痛みがある場合には悪性腫瘍が疑われます。
  2. 癒着:悪性腫瘍は周囲の組織に拡がって癒着することから、触診の際に硬く動きが悪い(可動性が乏しい)場合には悪性腫瘍が疑われます。
  3. 顔面神経麻痺:耳下腺の中に張り巡らされた顔面神経にがんが拡がり、神経を侵すことによって起こります。これも悪性腫瘍を疑う症状のひとつですが、術前から麻痺を起こす症例はそう多くありません。

このほか、腫瘍が急速に増大する場合は悪性を考えます。良性の腫瘍を長年持っていた場合でも、のちに悪性に転化する場合があります。急に大きくなってきたということがあれば注意が必要です。

超音波検査(エコー)は多くの施設で普及しており、短時間で簡便に行える検査です。患者さんの負担も少なく、悪性腫瘍(がん)であるか良性腫瘍であるかを診るためのファーストステップとして有用です。よりくわしく調べるためにはMRI(Magnetic Resonance Image:核磁気共鳴画像)を用います。腫瘍内部の性状や周囲に被膜があるかどうか、浸潤(周囲へ拡がっていること)の範囲などが把握できます。
CT(Computed Tomography:コンピューター断層撮影)検査は頸部リンパ節への転移、周囲の骨への浸潤を調べる際にも有用です。一方、シンチグラム(Tc唾液腺シンチ)はごく限られた場合にしか行いません。

採血用と同じ針を刺して腫瘍細胞を採取するもので、外来でも可能な検査です。術前に腫瘍が悪性か良性か、悪性ならその組織型は何なのかを診断する標準的な方法ですが、良性腫瘍ではその組織型を80%以上診断することが可能であるものの、悪性腫瘍の組織型診断は難しく、30〜50%程度となります。

術前に腫瘍の組織を切り取って顕微鏡で観察する組織診、いわゆる生検は播種(はしゅ・がん細胞が周囲にばら撒かれること)の危険があります。例えば、術前に組織診を得ようとするがためにできるだけ小さく皮膚を切開して、そこから深いところにある腫瘍の組織を採取するということは、顔面神経を傷つけるリスクが伴います。また、小さなT1程度のがんから検査のためだけに組織を一部採取し、組織診断がついたのちにもう一度残りのわずかながん組織をわざわざ切除しにいくということも現実的とはいえません。したがって行なうとすれば、すでに皮膚を突き破って表面に腫瘍が露出しているような場合に限られると考えてよいでしょう。

手術中に腫瘍の組織の一部を提出し、顕微鏡で観察して診断するものです。腫瘍が悪性かどうかを見分ける悪性診断率は良好との報告があり、有効な方法であると考えられます。ただし、組織型を正しく診断する組織診断においては、良性腫瘍の場合は良好であるものの、悪性腫瘍については摘出した後に注意深く診断する必要があり確定診断としてはやはり十分とは言えません。また、腫瘍を摘出する前に手術野において腫瘍の一部を切り取ることは、やはり播種の危険が完全にはぬぐえませんので注意が必要です。

耳下腺腫瘍の病理組織型を本当に正しく診断するには、摘出後に腫瘍を全割し、くまなく検鏡したうえでの病理組織検査が必要です。つまり手術してみないと完全には言い切れないのです。術前や術中の細胞診や組織診については、それぞれに意義はあるものの、いずれも100%の正診率(正しく診断すること)を得られるものではありません。

臨床的に癌であること予測するのは、前項でのべたような診察時の悪性を疑う所見、境界が不明瞭で浸潤傾向を示す画像所見からがんであることがおよそ予測できます。病理組織学的な詳細まではわからなくても、術前から明らかに悪性(がん)と予測できるような場合は、まず高悪性度がんであることがほとんどで、病理組織型ごとに手術術式が大きく変わるわけではありませんので、画像診断からがんが浸潤している範囲を正確に把握することで術式の計画を立て、それに伴う合併症や、後遺症、術後機能や生活の状態、追加治療の可能性などを患者さんに対して説明することができます。

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