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体への負担が少なく根治性の高い治療が登場――胸腔鏡やロボットによる肺がん手術

体への負担が少なく根治性の高い治療が登場――胸腔鏡やロボットによる肺がん手術
長野 匡晃 先生

国立健康危機管理研究機構 国立国際医療センター 胸部外科 診療科長

長野 匡晃 先生

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肺がん治療の3本柱の1つである手術は、がんを根本的に取り除く治療法として重要な選択肢です。近年では技術の進歩により、胸腔鏡やロボットによる体への負担が少ない“低侵襲手術(ていしんしゅうしゅじゅつ)”が主流になりつつあります。今回は、どのような場合に手術が適応となるのか、そして傷が小さく回復も早いロボット支援下手術の特徴や、肺の機能を温存する新しい術式について、国立国際医療センター 呼吸器外科 診療科長の長野 匡晃(ながの まさあき)先生に詳しく解説していただきました。

肺がんの手術は基本的に、ステージがIとIIまたはⅢの一部で、かつ患者さんの体力(呼吸機能、心機能など)が手術に耐えられると判断された場合に行います。手術に耐えられるかどうかの目安として、私は“ご自身の足で外来に歩いて来られるか”という点が一つの指標になるのではないかと思っています。

当院では手術前に採血とX線、心電図検査のほか、肺活量などを調べる呼吸機能検査を必ず行っています。手術で肺を切除した際にどのくらい肺活量が残せるのか、術後の生活に支障が生じないかなどを慎重に検討しています。狭心症などの心疾患がある場合には、循環器内科など他科の医師と連携してカテーテル治療などを先に行うことで、より安全に肺がんの手術に臨めるように準備することもあります。

人によって考えはさまざまだと思いますが、やはり私が第一に考えているのは“安全性”です。手術でがんを取りきれたとしても、手術が原因で亡くなってしまったり、重い合併症で動けなくなったりしてしまうと何のために手術をしたのか分からなくなってしまいます。そのようなことが起きないように、術前の検査結果などを基にしっかりとシミュレーションと評価を行い、安全性に配慮した手術計画を立てることが大切です。

安全性を考えるうえでは、どのような手術が可能であるかの検討も必要です。その際に不可欠なのが、がんを取り残さない“根治性”です。この2つは切っても切れない関係にあるといえます。まずはがんの根治性が確保できる術式を考え、それが安全に行えるかどうかを慎重に検討していきます。そして最後に、可能であれば体の負担がなるべく少なく済む“低侵襲性”を追求します。安全性と根治性を考慮したうえで低侵襲手術ができるのであればそちらを選びますが、難しいと判断すれば、ためらわずに開胸手術を選択することもあります。

手術前の禁煙は、できる限り早めに行っていただきたいです。手術後の肺炎などのリスクを低減するためにも禁煙期間は「長ければ長いほどよい」とお伝えしています。近年は電子たばこの普及が進んでいますが、電子たばこであっても手術の際のリスクが減るわけではないので注意が必要です。また喫煙は手術後に痰が出しにくくなって肺炎につながります。入院期間が長くなり、結果的に苦しい思いをしてしまうのは患者さんご自身になります。よりよい予後のためにもぜひ一緒に頑張っていきましょう。

現在の肺がん手術のアプローチには、大きく“開胸手術”と、胸腔鏡やロボットを用いた“低侵襲手術”があります。

開胸手術は昔ながらの方法で、筋肉を切り、肋骨の間を器械で大きく広げて行います。場合によっては肋骨を切断することもあります。傷が大きく術後の回復に時間がかかる傾向がありますが、進行したがんなど低侵襲手術が難しい場合に選択されます。

胸腔鏡下手術とロボット支援下手術は、数か所の小さな穴からカメラや器具を挿入して行う手術です。開胸手術と比べて肋骨を切らず、筋肉へのダメージも少ないため、痛みが少なく回復が早いのが大きなメリットです。

当院のロボット支援下手術は、肺がんの標準治療である肺葉切除とより小さい部分を切除する区域切除の場合、胸部の側面に8mmの傷を3か所、12mmの傷を2か所(計5か所)おいて行います。肺の切除後は12mmの傷1か所を2~3cmほどに延長して摘出し、全ての傷を基本的に抜糸の必要がない吸収糸で縫い閉じます。

左図:肺がんに対するロボット手術(肺葉切除、区域切除)の傷(術直後、左側)
右図:肺がんに対するロボット手術(肺葉切除、区域切除)の傷(1か月後、左側)

胸腔鏡下手術も肺葉切除ないし区域切除の場合、5mmの傷2か所と12mmの傷2か所(計4か所)で行っており、肺の切除後は12mmの傷1か所を2~3cmほどに延長して摘出します。ロボット支援下手術と同様に全ての傷は吸収糸を使用しています。

この2つの低侵襲手術のどちらがよいかは、施設の習熟度や執刀医がどちらに慣れているかによるところが大きくなります。病院の実績などをよく確認し、医師が最もパフォーマンスを発揮できる方法で手術を受けるのがよいでしょう。

ロボット支援下手術について、数年前は患者さんから時々「ロボットが自動で手術するのですか?」と聞かれることがありました。そうではなく、ロボット“支援下”の手術なので、ヒューマンエラーが起こらないように補助してくれるようなロボットとなっています。当院では“ダヴィンチXi”という機種を2台導入しています。

ロボット支援下手術の最大のメリットは、非常に精密な手術が可能になることです。搭載されている高画質の3Dカメラにより、術者はまるで自分が小さくなって体の中に入り込んだかのような、奥行きのある立体的な3D映像を見ながら手術ができます。胸腔鏡ではカメラの映像は平面的になりますが、ロボットの映像は2つのカメラがあることで立体的になるので距離感や奥行きが掴みやすく、ストレスなく操作ができます。

多関節機能を持つアームは人間の手首よりも広い可動域を持ち、狭い空間でも複雑な動きが可能です。術者の手の動きを違和感なく、かつ精密に再現してくれます。人間の手の微細な震えをシステムが自動で補正してくれる手ぶれ補正機能もあり、繊細な操作が可能です。

肺がんの治療において、最も根治性が高いのは手術による肺切除です。標準術式は、がんのある肺葉(右肺は3つ、左肺は2つ)を1つ丸ごと切除する“肺葉切除術”です。しかし、最近は、検診によって2cm以下の小さな早期がんの発見が増えてきたことから、肺の機能をより多く温存できる“区域切除”(肺葉をさらに細分化した区域単位での切除)も選択されるようになってきました。

イラスト:PIXTA 加工:メディカルノート

切除範囲は小さければ小さいほど体への負担は少なく、回復も早くなります。特にご高齢の方や肺機能が低い方にとっては、肺葉を1つ取ってしまうというのは大きなダメージになります。そうした患者さんにとっては区域切除や部分切除といった縮小手術は大きなメリットがある術式といえるでしょう。ただし、縮小手術はがんの再発リスクが高まる可能性があります。再発リスクとのバランスを慎重に見極める必要があるため、誰にでも適応となるわけではないことに注意が必要です。

ロボットや胸腔鏡による低侵襲手術の場合、痛みは内服薬でコントロールできるレベルの方がほとんどです。当院では術後3時間ほどで水が飲めるようになり、翌朝からは食事を開始し、病棟を歩くことができる方がほとんどです。順調であれば、術後5〜7日程度で退院となります。退院後1か月程度は重いものを持つことや過度な運動、飛行機の利用は極力避けていただいています。特別なリハビリテーションは必要なく、「日常生活をしっかり送り、早く社会復帰するのが一番のリハビリです」とお伝えしています。

  • 国立健康危機管理研究機構 国立国際医療センター 胸部外科 診療科長

    日本外科学会 外科専門医・指導医日本呼吸器外科学会 呼吸器外科専門医・評議員・胸腔鏡安全技術認定医・認定ロボット支援手術プロクター(手術指導医)日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医・評議員日本内視鏡外科学会 技術認定取得者(呼吸器外科領域)

    長野 匡晃 先生

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