概要
脊髄刺激療法(SCS:spinal cord stimulation)とは、微弱な電流を脊髄に与えて痛みを和らげる治療です。鎮痛薬などを使っても鎮痛効果を十分に得られない、慢性の難治性疼痛の治療として行うことがあります。
痛みは、痛みの電気信号が末梢神経を通じて脊髄から脳へと伝えられることで初めて認識されます。脊髄刺激療法では、脊髄に刺激を与えることで脳へ伝わる痛みの電気信号を妨げ、痛みを感じにくくすることが期待できます。日本では1万人以上が脊髄刺激療法を受けているといわれています。
目的・効果
脊髄刺激療法は、鎮痛薬や神経ブロック*などによっても十分な鎮痛効果が得られない、慢性の難治性疼痛を和らげるために行われます。
具体的には神経障害による痛みと末梢血管障害などによる痛みに効果が期待されます。
*神経ブロック:末梢神経やその周辺に局所麻酔薬を投与したり高周波熱凝固などを施したりすることで、神経を麻痺させて痛みを軽減させる治療法。
治療詳細
脊髄刺激療法では、脊髄に刺激を与えるための刺激装置を体内に植込みます。刺激装置の大きさは種類によって異なりますが、およそ5.5cm前後で、腹部や腰回りなど目立ちにくいところに植込みます。
事前に“リード”と呼ばれる電極を、脊髄を保護する硬膜外腔という部分に挿入し、リードから電流を流して鎮痛効果が認められてから刺激装置を挿入する手術を行います。その後は患者本人が“プログラマ”というリモコンのような機器を操作することで、痛みに合わせて刺激の大きさを調整します。
目的(メリット)
個人差はあるものの、脊髄刺激療法によってこれまで感じていた痛みが半分程度に和らぐといわれています。痛みが和らぐことで日常生活上の苦痛が軽減し、生活がしやすくなって活動の幅が広がるなどの効果が期待できます。
リスク
脊髄刺激療法では、脊髄に刺激を与える刺激装置を体内に植込むため、家電の取り扱いや医療機器の使用などによって装置の破損ややけどなどのリスクがあります。
“ジアテルミー(温熱療法)”は併用できないほか、CTスキャン、MRI検査、高周波アブレーション、結石破砕装置、電気メス、心臓ペースメーカー、植込み型および体外式除細動などの検査・治療を受ける場合には注意が必要なため、主治医に確認しましょう。
また、空港や店舗に設置されている金属探知機や盗難防止装置などに近付くことで刺激を強く感じることがあるため、これらに近付く際は一時的に電源を切る必要があります。
このほか、強い電磁波を受けると刺激を強く感じたり、刺激装置の電源が切り替わったりする可能性があります。そのため、電気工具やIH調理器などはできる限り刺激装置から離して使用する必要があります。
適応
脊髄刺激療法によって鎮痛効果が期待できる痛みは限られ、主に以下のような病気が適応になります。
- 複合性局所疼痛症候群(CRPS)
- 帯状疱疹後神経痛
- 末梢血管障害(レイノー症候群、バージャー病、閉塞性動脈硬化症など)
- 脊椎・脊髄疾患
- 脊椎手術後の疼痛
など
治療の経過
脊髄刺激療法では、試験的に脊髄に刺激を与える“試験刺激”を行い、効果があった場合に刺激装置の植込みを行います。全ての治療にかかる入院期間は3週間程度です。
試験刺激では、脊髄を覆う脊髄硬膜外腔という部分にリードを挿入し、試験的に脊髄に刺激を与えて鎮痛効果が現れるかを確認します。試験刺激で鎮痛効果が認められ、脊髄刺激療法を希望する場合は、腹部などの目立たない部位に刺激装置を植込む手術を行います。刺激装置を植込んだ後は患者自身がプログラマを操作し、刺激装置のオン・オフや刺激の調整を行います。
治療(退院)後に気を付けること
刺激装置を植込んだ後、2〜3か月程度は日常生活で以下のような注意が必要です。
- リードの位置がずれないよう、体の向きを変えるときは肩と腰を同時に動かす
- うつ伏せ寝をしない
- 過度に体を曲げ伸ばしたりひねったりしない
- 階段の昇り降りや長時間座ることは極力避ける
- 疲労を感じたら休息を取る
術後2〜3か月経過した後は軽い運動から再開でき、通常どおりの日常生活が送れるようになります。しかし、それ以降も激しい運動を行う場合や整体などを受ける際は主治医に確認し、刺激装置が正常に作動しないなどの異常を認める場合にも診察を受ける必要があります。
このほか、術後は安全情報などの提供のため、患者の同意を得たうえで個人情報などを記載した手帳が発行されます。外出時や旅行の際は手帳を携帯し、空港で金属探知機のゲートを通過しなければならない場合などは手帳を提示して、ほかの手段で検査を受けるようにしましょう。
費用の目安
脊髄刺激療法の費用は国民健康保険の一部負担金です。負担割合は70歳未満で3割、70歳以上で1割(現役並みの所得者は3割)です。また、高額療養費制度を利用する場合、支払い額は年齢や所得に応じた自己負担限度額までになります。
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