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根治性と安全性を追及した脳動脈瘤の外科手術 ~テクノロジーの活用による展望~

根治性と安全性を追及した脳動脈瘤の外科手術 ~テクノロジーの活用による展望~
中山 若樹 先生

社会医療法人柏葉会 札幌柏葉会病院 常務理事/副院長/高度脳血管病センター長

中山 若樹 先生

目次
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脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)の主な治療方法の1つであるクリッピング術(開頭手術)では、高い安全性と根治性が求められます。そしてその技術は次世代、次々世代と継承されていかなければなりません。そのために、札幌柏葉会(はくようかい)病院では独自の術式を追及し、AR(拡張現実)やAI(人工知能)などのテクノロジーを活用して、手術の質の向上と“見える化”に努めています。

ここでは同院 高度脳血管病センター センター長 中山 若樹(なかやま なおき)先生に、脳動脈瘤治療に用いている術式や導入しているテクノロジーの実際と、その将来展望についてお話を伺いました。

当院におけるクリッピング術の最大の特徴は、治療のゴールを“根治”に設定していることです。そのために、より安全に配慮し、再発リスクを低く抑えられるような工夫を術式に取り入れています。

従来の標準的クリッピング術では、血管分岐部(血管の枝分かれ部分)に対してクリップが平行に装用されていました。このとき、クリッピングによって分岐血管の通り道自体を細くしないような位置を狙いますが、動脈瘤は分岐血管の正常な部分を巻き込むように発生していますので、立体的に血管を見たときに一部ふさぎ切れない部分がどうしても残ってしまいます。再発例の多くは、こうした残存部分から発生しているのです。

脳動脈瘤の開頭手術には、決して再発させない、根治を得る使命があります。そこで私たちは、動脈瘤の壁を完全に消失させるために、分岐血管に対して直交向きにクリップを装用し、かつカーブのクリップを用いたり、複数のクリップを組み合わせたりすることで、血管の分岐の又を取り囲む曲線のクリップ閉鎖線を作り出すように工夫しています。

こうすることで、正常分岐血管の直径を保ちながら動脈瘤の壁が裾野まで閉鎖できて、また血管の分岐角度を鋭角に寄せるために、血管壁にかかる血流の負荷を低減することにもつながります。

先方提供
【画像出典】
・石川達哉(編著),中山若樹 (著). 新版 クリッピング・バイパス・CEAのリクツとワザ 脳血管外科の学び方・教え方.メディカ出版.2020.P81,P116.
・冨永悌二(監). 脳卒中の外科 エキスパートを目指す侍たちへ.メジカルビュー社.2019.P111,P122

この方法でクリッピングを行うためには術野(術中の視界)を広くクリアな状態にしなければなりませんし、周囲の血管が自在に動けるようにする必要がありますから、脳の皺や血管を徹底的に剥離(はくり)する技術が求められます。いかにそれを、周囲の構造を痛めることなく綺麗に仕上げるか、それが手術の“質”に大きくかかわってきます。

前項で述べたような、“質”の高い手術を習得するためには、厳しい研鑽を相当に積んでいかなくてはなりません。そこに終わりはなく、より高い“質”を追い求めるのは一生続くという意味では、芸術と同じであるように思います。一方で血管内治療は、次から次へと新しいデバイスが出現していますが、その特性や使い方を正しく理解すれば、技術的な習得は開頭手術よりもずっと早いという特性があると思います。

そのため、血管内治療の普及は非常に早く、それを中心に行う治療医は急速に増えています。そして血管内治療が選択されるケースがどんどん増えていっています。それはもちろんよいことなのだろうと思います。

ただし、血管内治療は一定の条件を満たす動脈瘤が対象になります。デバイスの発達によって対象になり得る条件は広がっているものの、全ての動脈瘤に安全に対応できるわけではありません。開頭手術でなければ治療できないもの、あるいは開頭手術のほうが望ましいものが、まだまだ多く存在するわけです(もちろん、逆もあるでしょう)。また、血管内治療が普及して相当の年数が経過した今、動脈瘤の再発を繰り返して、開頭手術で対応することになったケースが徐々に出てきています。つまり、開頭手術の必要性は決してなくならないのです。

ところが、血管内治療の比率が増えてきているということは、相対的に開頭手術の症例数が限られてくることになります。しかも開頭手術にまわるのは比較的難しい条件のものが多くなってくる。すると、ただでさえ技術の習得には長い年数を要する開頭手術は、それを目指す次世代の若手たちにとっては、ますます厳しいものになってくるわけです。ですから次世代を担う若手脳外科医たちには、数少ない症例数でも効率的に技術を習得していってもらう必要があるわけです。この次世代への技術の伝承、若手育成という面においても、私たちは重要な使命を持っていると考えています。そのために手術のノウハウを可能な限り言語化すること、そして映像化・図示、ひいては数値化を駆使して、分かりやすく指導する取り組みを行っています。

外科手術の世界に限らず、文化芸能やモノ作りの世界でも、「見て学べ」という教育方法は古くからありました。しかしそのやり方では、1つの物事を習得するのにおびただしい数の経験が必要になり、あまりにも効率が悪い。しかし、先輩が数多くの経験で獲得したものを、詳細に具体的に“言語化”することができれば、それを受け取った後輩はすぐに実践で反映することができるようになるはずです。言語化することは、その先輩医師にとってもさらにスキルを洗練させて向上させることにもつながることでしょう。そして、言語化しきれないところは、現場で見せて(魅せて)感じ取ってもらう。こうした努力の継続が、一人ひとりの患者さんの利益につながると考えています。

言語だけではありません。指導医が行った手術の映像をひたすら繰り返し見てもらうのとともに、自分が執刀した手術映像は、必ず当倍速で見て復習してもらっています。いかに自分が思い描いていた理想の手術と差があるか、自分の手技の改善点はどこにあるのかのイメージが高まり、不思議と手の動き方まで先輩の動きとそっくりになってくるものです。

もう1つ、手術手技の伝承のために取り組んでいるのが、ARやVRといったテクノロジーとの融合です。

現代では、術前にCTやMRIの画像データを組み合わせて実にリアルな3次元画像を作り出すことができ、より詳細で正確な術前計画をたて、イメージを高めることができます。その3次元データを使って、目の前にある世界を仮想的に拡張するAR(拡張現実)技術を用いると、患者さんの術前の画像データを半透明にして、手術顕微鏡内で重ねて映すことができます。これによって、術前と手術中の状態を同時に比べながら視点を切り替えることなく手術を進められます。また、脳内の触れてはいけない神経や血管を教えてくれたり、触れるべき神経・血管の正確な位置を示してくれたりします。

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ARを活用することで、若手医師が手術をより安全に行うためのサポートになるだけでなく、リアルの現場で学びながら経験が積めるようになります。また、若手育成のためだけではなく私たちの手術の精度を上げる目的としても活用できます。

私が最終的に目指したいのは、理想的な手技の“見える化”です。若手医師に「手の動きが硬い」「雑だ」と指摘しても、感覚的で具体性がないので理解することは難しいでしょう。理想的な手の動きは人間が感じるものであって説明がしにくいからです。そこで、手技の見える化を実現するために活用したいと考えているのが、AI(人工知能)を活用してマーカーレスでのモーションキャプチャー(人や物の動きをデジタル化する)をする技術です。

よく、スポーツや動物行動を解析するために、体の関節などにマーカーをつけてビデオ撮影するモーションキャプチャーというものを見たことがあるでしょう。しかし顕微鏡手術の世界ではそのようなマーカーは付けられません。そこで、たとえば実際の血管吻合(血管同士をつなぐこと)の記録ビデオからハサミやピンセット、針の先端をAIに覚えさせて、画面上で認識できるようにします。これを新たな手術症例のビデオに応用すると、AIはその術者の持つピンセットや手指を認識し、手技を追跡します。この技術を用いて若手医師の動きと指導医の動きを比較・解析できるようになれば、自分自身の成長を振り返り、自分と指導医の手技の違いを明確に認識することができます。

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この試みは、私たちの病院の先端医療研究センター・センター長である松澤 等(まつざわひとし)先生に進めてもらっている独創的な研究です。私が北海道大学脳神経外科に在籍していた2020年ごろから、同大学の杉山 拓(すぎやま たく)先生とともに、当時は新潟大学 脳研究所 統合脳機能研究センターにおられた松澤先生にお願いして始めてもらった研究でした。今はこうして札幌柏葉会(はくようかい)病院で、私は松澤先生と一緒に仕事をしているわけですが、先進的な研究と実臨床を直接結び付けることができるのが、当院の大きな強みです。

さらには、やがて手術中の指導もAIができるようになることを期待しています。人間は特定の範囲に意識が集中すると、別の箇所で無理な力がかかっていたりしてもなかなか気付かなかったりすることがあります。そのような際、AIが「そこは引っ張ってはいけない」「押さえる位置をもう少し上に」といったアラートを出してくれたり、次に向かうべき場所を示してくれたりと、手技を指導してくれるようになれば、これまで私たちが培ってきた技術をより確実に次の世代に受け継いでいけるのではないでしょうか。

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    中山 若樹 先生

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    日本脳神経外科学会 代議員日本脳卒中学会 代議員日本脳卒中の外科学会 技術認定委員会 委員日本脳循環代謝学会 代議員日本心血管脳卒中学会 学術評議員

    中山 若樹 先生

    技術の追及、テクノロジーとの融合。より質の高い治療を目指し続ける。

    1992年 北海道大学医学部卒業後、同大脳神経外科に入局。1995年 カリフォルニア大学デービス校・神経化学へ留学後、1996年 新潟大学脳研究所統合脳機能解析学へ。1998年 北海道大学脳神経外科にて臨床医の道に戻り、日本脳神経外科学会 脳神経外科専門医と医学博士を取得。その後、札幌麻生脳神経外科病院、旭川赤十字病院などで研鑽を積む。2005年から2021年まで北海道大学脳神経外科で助教、講師、診療准教授を歴任。2021年より柏葉脳神経外科病院(現・札幌柏葉会病院) 高度脳血管病センター・センター長に就任。手術技術の言語化を重視し、自らの技術を追及し続けるとともに、後進への伝承にも精力的に取り組んでいる。

    中山 若樹 先生の所属医療機関

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