概要
腎血管筋脂肪腫とは、主に血管や筋肉、脂肪の組織によって構成される腎臓にできる腫瘍です。約9割の方は発症原因がはっきり分かりませんが、残りの1割は遺伝性の病気である“結節性硬化症”の症状の1つとして現れることが分かっています*。
腎血管筋脂肪腫は良性腫瘍であり、臓器の境界を越えて浸潤・発育するなど、ほかの臓器に転移することは基本的にありません。
腫瘍のサイズが小さければ治療は必要ありませんが、腫瘍が大きくなると周辺の臓器を圧迫することで腹部膨満感や便秘などの症状が生じたり、腫瘍の中の血管が破れて出血を引き起こしたりすることがあります。そのため一定以上の大きさになった場合(具体的には4cmを超えたあたりから)、腫瘍を摘出する手術や腫瘍を小さくするための血管内治療などを検討することがあるため、定期的な経過観察が必要になります。
また、結節性硬化症に伴って発症した腎血管筋脂肪腫に対しては薬物療法が行われます。
*参考:『九州地方における腎血管筋脂肪腫の臨床的検討―第14回九州泌尿器科共同研究―』
原因
腎血管筋脂肪腫の約90%は遺伝などに関係なくはっきりした原因が分からずに発症し、男性よりも女性に多く見つかります。
一方、残りの10%は遺伝性の病気である“結節性硬化症”が原因で引き起こされることが分かっています。結節性硬化症は、発症率が1~3万人あたり1人と非常にまれな病気ですが、50~80%の確率で腎血管筋脂肪腫を合併するとされています。
症状
腎血管筋脂肪腫の多くは良性腫瘍です。そのため他部位への転移や、周辺の臓器を破壊しながら生育することはまずありません。
腫瘍が小さな場合は自覚症状が現れにくく、健康診断などで偶然発見されるケースもあります。一方、結節性硬化症に合併するタイプの腎血管筋脂肪腫は腫瘍が大きくなったり、腫瘍がいくつも発生したりするケースも多いとされています。このように腫瘍が大きくなるケースでは腎臓周辺の臓器を圧迫することで腹部膨満感や便秘などの症状を引き起こすだけでなく、腫瘍の内部で増大した血管が破れて出血を引き起こし、腹痛や腰痛、動悸や息切れなどの貧血症状を引き起こすことも少なくありません。
また、多くは腎血管筋脂肪腫を発症しても腎臓の機能が著しく低下することはないとされていますが、結節性硬化症に合併するタイプでは腎臓の機能が損なわれることも多く、適切な治療を行ったとしても最終的に人工透析が必要となることがあります。
検査・診断
腎血管筋脂肪腫が疑われるときは次のような検査が必要に応じて行われます。
画像検査
腫瘍の存在を確認し、腫瘍の大きさや位置などを評価するために必要な検査です。
一般的には外来などでも簡便に行うことができ、体への負担がない超音波検査が第一に行われますが、体型や腫瘍を構成する組織のタイプによっては超音波検査では見えにくいことも少なくありません。
また、腫瘍の大きさなどをより詳細に観察するにはCT検査やMRI検査などが行われます。
血液検査
主に腎臓の機能を調べる目的で血液検査が行われます。そのほか、腫瘍内の出血による貧血や炎症の程度などを評価することもできます。
尿検査
主に腎臓の機能を調べる目的で、尿中のタンパク質や血液の混在などの評価が行われます。病状を評価するための定期的な検査にも広く用いられています。
遺伝子検査
腎血管筋脂肪腫の10%は遺伝性の病気である結節性硬化症に合併することが分かっているため、結節性硬化症の合併が疑われる方には、診断を目的に遺伝子検査を行うことがあります。
治療
腎血管筋脂肪腫は自覚症状がほとんどないため、発見されたとしても治療をせずに定期的な検査をしながら経過を見ていくことも多々あります。
一方、腫瘍が大きくなって何らかの症状が現れた場合、腫瘍の大きさが4cm以上となって出血を起こすリスクが高い場合などは、積極的な治療が必要となります。
治療方法は腫瘍の大きさや全身の状態などによって異なりますが、腫瘍を摘出するための手術や、腫瘍に栄養を送る血管をカテーテルで詰める選択的動脈塞栓術などが行われます。また、近年では、結節性硬化症に合併するタイプの腎血管筋脂肪腫に対して“エベロリムス”という分子標的薬による薬物療法が行われているほか、腫瘍に細い針を刺して凍らせて小さくする治療(クライオセラピー)についても今後の臨床応用が期待されています。
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