腹膜炎には、突如急激な痛みに襲われる急性腹膜炎と、痛みが出たり消えたりを繰り返す慢性腹膜炎があります。そして、急性、慢性ともに、腹膜炎を発症する原因は多岐に渡ります。そのなかでも、胃、十二指腸、大腸などに穴があくことで消化管内の内容物が腹膜を刺激し、腹膜炎となるケースが多数です。
記事1『激しい腹痛が起こる腹膜炎とは 原因と症状』に引き続き、横浜市立大学附属病院消化器・腫瘍外科の秋山浩利先生に、腹膜炎の検査・診断方法と、消化管穿孔が原因となった場合の腹膜炎の治療法についてお話をうかがいました。
腹膜炎の検査・診断は、基本的に問診、身体診察とCT検査で行われます。
まず、患者さんに、何がきっかけでお腹が痛くなったのか、痛みが出たときの状況、どのような痛みなのか、今まで患ったことのある疾患などをお聞きします。腹膜炎は発症した原因により治療法が異なります。また、様々な疾患と鑑別する必要があるためです。
たとえば、過去に胃潰瘍を発症したことがある患者さんが急激に腹痛を訴えてきた場合、胃潰瘍が原因となり、胃に穿孔を起こして腹膜炎を発症したと推測します。
本人が激痛のため話ができない場合は、家族や付き添いの方にお話を聞くこともあります。
腹膜・腹腔は無菌で密閉された空間のため、通常は空気が入ることはありません。そのため、CT*を撮影した際に、本来は存在しない空気の像が映った場合は、消化管のどこかに穿孔(せんこう・穴があくこと)が起きて空気が入っている状態と判断することができます。腹腔内に空気が入った状態をフリーエアーといいます。
単純レントゲン検査でもフリーエアーの診断は可能ですが、CT検査は極少量のフリーエアーでも診断可能で、その他に腹水や腸管の浮腫みや腫瘍の診断も可能であり腹膜炎の診断に有効です。
*CT…X線を利用して体の断面図を撮影する検査
フリーエアーで穿孔が起きているとわかると、次はどこの消化管で穿孔が起きているのかを判断しなければなりません。穿孔が起こっている場所によって治療方法が変わるためです。
消化管の上部に位置している胃や十二指腸は、便がないため、バクテリアなどの菌の発生は緩徐です。穿孔し内容物が漏れて限局性腹膜炎を発症しても、すぐに手術を行わずに保存的治療だけで治癒できる可能性が高くなります。
しかし、消化管の下部にあたる大腸には便があるため、バクテリアが多数存在しています。バクテリアとは、細菌の一種であり、無菌の腹腔内で増殖すると大変危険です。そのため大腸に穿孔が起きた際には早急な治療が必要なのです。
腹膜炎の場合、痛みを訴えているからといって、類似疾患との鑑別や、穿孔の場所などを確認せずに手術に移ってしまうと、本来手術を行わなくてもよい患者さんに負担をかけてしまう可能性があります。一方、下部にできた穿孔を上部にできた穿孔と誤って判断し、保存的治療だけで穿孔を放置した場合は、24時間後の死亡率が高まります。
また、女性の場合は、子宮外妊娠や性感染症であるクラミジアが原因である、骨盤性腹膜炎の可能性もあります。そのため、急性腹膜炎の疑いで来られた女性の患者さんは、一度、婦人科の医師に診てもらってから診断し治療に入ります。
腹膜炎の治療法には、保存的治療と手術があり、症状の重症度によって判断します。
胃や十二指腸などの上部消化管の穿孔では、まず保存的治療が第一選択となります。治療方法は、鼻から管を用いて胃液を出し、胃のなかを空の状態にします。そして、2週間程度の絶食をしながら、中心静脈栄養法*と抗菌薬で治療を行います。
*中心静脈栄養法…中心静脈にカテーテルを挿入し、高カロリー栄養輸液を投与する治療法
保存的治療を数日間行っても状態が回復しない場合は、手術を行います。上部消化管の穿孔であれば、2~3日間の保存的治療で様子をみるあいだに重症化する可能性は低いため、必ずしもすぐに手術する必要はありません。
以前までは、すべての手術を開腹で行っていました。しかし、近年は、腹腔鏡を用いた手術が行われています。まず、腹腔と穿孔の状況を確認し、穴を塞いで腹腔内洗浄を行い溜まった腹水を外に出します。そして、腹腔内に漏れたバクテリアを完全に除去するには限界があるため、カテーテルを留置し、膿が溜まらないようにします。
また、消化管の穿孔の箇所が大きく、簡単な縫合だけでは対処できない場合は、穿孔している部分を切除することもあります。組織の状態が悪いまま縫合をしてしまうと、吻合不全*という合併症を発症してしまう可能性があります。そのため、一時的に人工肛門を使用し、後日、穴を塞ぐという方法もあります。
*吻合不全…縫合した箇所が接着しないこと
腹膜炎には、がんが進行して、腹膜炎を起こすケースもあります。これは、手術中でもがんが原因となっているということがわからないこともります。そのため、手術を行う際は、常に悪性腫瘍がベースになっているかもしれないということを念頭に置きながら行います。そして、一時的に腹膜炎の手術を行った後に、がんの検査を受けていただき、陽性だった場合は、がんの治療を受けていただくというケースもあります。

急激な腹痛に襲われた場合は、たとえ夜間だとしても早急に病院を受診してください。消化管下部穿孔が原因での急性腹膜炎だった場合、放置してしまうと重症化し、命にかかわります。また、微熱があり痛みが出たり消えたりするといった症状が長く続くときは、慢性腹膜炎の可能性があります。
上記のような症状が出た場合は、決して我慢をせず、速やかに病院を受診してください。
横浜市立大学附属病院 消化器・肝移植外科
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