以前は開腹手術による膀胱全摘が主流でしたが、近年はロボットを用いた手術も可能になりました。一方で、ロボット手術は詳細が知られていなかったり、実施できる施設が限られたりすることもあり、患者さんの選択肢に入らないことも多いといいます。そこで今回は、ロボット手術の概要やメリット・デメリット、膀胱摘出時の手術の流れなどについて、NTT東日本関東病院 泌尿器科 部長 兼 前立腺センター長である中村 真樹先生にお話を伺いました。
ロボットを用いた膀胱の摘出手術は、“ロボット支援下膀胱全摘除術”といい、当科ではda Vinci(ダヴィンチ)という手術支援ロボットを使って手術を行っています。
ロボットといっても全自動で手術をするわけではなく、操作をするのは医師です。医師は操縦席のような場所に座り、モニターを見ながらロボットのアームと連動しているハンドルを操作します。ロボット支援下膀胱全摘除術では、患者さんのお腹に6か所の小さな穴を開け、その穴にロボットのアームやカメラなどを挿入して手術を行います。
ロボット支援下膀胱全摘除術は、患者さんの負担を軽減できる低侵襲な手術として知られています。ロボット支援下膀胱全摘除術のメリットについて、以下で詳しく解説します。
ロボット支援下膀胱全摘除術は、お腹を切る開腹手術と比べて小さな傷で済むというメリットがあります。切開部位が小さいということは、その分出血量も減らせるということです。開腹手術では1L程度の出血を伴うのに対し、ロボット支援下膀胱全摘除術の場合は、おおむね100mL前後の出血で済むことが多く、輸血が必要になることも基本的にはありません。
ロボットにしかできない繊細な処置ができることにより、合併症リスクの軽減に役立ちます。ロボットのアームにはいくつもの関節があったり、アームの先が360°回転したりするため、人の手よりも細かな動きが可能です。
また、ロボット手術は3Dモニターを通して行うので、拡大視野で操作ができるというメリットもあります。人の目や手が届きにくいような場所の処置ができるのは、ロボットを使った手術ならではの強みです。
小さな傷口で済んだり、合併症のリスクが少なくなったりすることは、入院期間の短縮にもつながります。開腹手術の場合は傷口が大きい分、術後の痛みも生じやすく、社会復帰に時間がかかりがちです。一方でロボット手術の場合は傷口が小さい分、開腹手術よりも術後の痛みが軽減でき、早い段階でリハビリテーションを開始することができます。
ロボットの導入コストがかかったり、実施するための条件が設けられていたりするため、ロボット手術に対応できる施設はどうしても限られてしまいます。また、ロボットのアームには触覚がなく、体内でどこかにぶつかったとしても気付くことができないため、安全な手術を目指すためには医師の経験も重要です。
過去に腹部の手術を受けたことがあり、臓器の癒着がみられる場合はロボット手術ができないことがあります。また、ロボット手術は頭側に少し体を傾ける必要があったり、お腹の圧を上げる処置をしたりするため、それらがリスクになる方(緑内障や心疾患などを患っている方)の適応も慎重に判断する必要があります。
なお、懸念される病気の治療を先に行えば手術可能な場合もありますので、ロボット手術を検討している方は、まず医師にご相談いただくとよいでしょう。
当科では手術日の前日に入院をし、便秘薬(下剤)を2錠服用していただきます。手術当日の朝に飲み物を摂っていただき、約2時間後に手術室に入ります。手術は全身麻酔および硬膜外麻酔*を実施したうえで行います。(麻酔科標榜医:小松 孝美 先生)
かかる時間については執刀医や尿路変向術の種類、患者さんの状態によって変動しますが、回腸導管造設術の場合でおおむね5~8時間ほどです。
*硬膜外麻酔:脊髄(せきずい)の硬膜と呼ばれる部分にカテーテルを用いて麻酔薬を投与し、痛みを軽減する方法。
手術が終わった後はHCU(高度治療室)に移動し、当科では手術後3時間が経過した時点で離床を開始していただきます。入院中はリハビリテーションを行い、術後1~2週間ほどで退院となります。
退院後は3か月に1回の頻度でCT検査と尿細胞診を実施しながら経過観察を行うのが基本的な流れです。
ロボット手術は開腹手術に比べて患者さんの負担が少ない手術といわれていますが、当科では周術期管理の方法としてERAS(Enhanced Recovery After Surgery:術後早期回復プログラム)を採用し、さらなる負担の軽減に取り組んでいます。術後3時間を目安に離床を促しているのも、この取り組みの一環です。
多職種による総合的な周術期管理のことをいいます。医師だけでなく、看護師や理学療法士、管理栄養士など各分野の専門知識を持つスタッフが早期回復・合併症のリスク軽減を目指し、外来受診時から入院、退院後の生活までサポートします。
以前は術後の絶対安静が求められていましたが、研究が進んだ現在では早期に動き、生理的機能を維持するほうが合併症リスクの軽減や入院期間の短縮に有効だといわれています。
当科では、術後早期に動けるよう麻酔や鎮痛薬でしっかりと痛みを取り除き、胃管やドレーン、点滴など体の動きを制限する“管”も当日もしくは翌日に抜去します。また、術後3時間でガムの咀嚼をすることで腸の動きを促し、早い段階で飲食再開および腸管機能の回復が目指せるようにしています。
これらの取り組みと先述したICUD*の採用によって、以前は約20%の確率で起こっていた合併症(腸閉塞)を4.5%**まで減らすことができています。
*ICUD:手術の工程の全てをお腹の中で実施する手術方法。
**全症例22件のうち腸閉塞の発生1件(2021年7月~2023年3月実績)
より多くの患者さんにロボット手術という選択肢を知っていただくこと、そして若手医師の育成に努めることが当科の使命の1つだと考えています。
先述のとおりロボット手術は実施できる病院が限られます。それゆえ、ロボット手術を選択肢に入れることなく開腹手術を受けられる患者さんがいらっしゃったり、若手医師を指導できる環境が少なかったりするのが現状です。
ロボット手術を積極的に実施する中核病院の1つとして、患者さんのよりよい治療選択に貢献し続けるのはもちろんのこと、ロボット手術の普及とさらなる安全性の向上にも寄与できるような総合的に“よい環境”であり続けることが当科の目標です。
NTT東日本関東病院 泌尿器科 部長 兼 前立腺センター長
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