概要

角膜上皮幹細胞疲弊症(かくまくじょうひかんさいぼうひへいしょう)とは、目の病気やけがなどによって角膜輪部(かくまくりんぶ)(黒目<角膜>と白目<結膜>の境目)にダメージが生じることで角膜上皮幹細胞が消失する病気です。

角膜は物を見るために非常に重要なはたらきをしており、目の内部に光を入れる“窓”のような役割を果たしています。厚さはわずか0.5mmですが、五つの層に分かれた複雑な構造をしており、もっとも表層に存在するのが“角膜上皮”です。角膜上皮は非常に新陳代謝が活発なのが特徴で、ダメージを受けたとしても次々と新しい細胞に入れ替わることで、正常な視覚機能を維持しています。

角膜上皮幹細胞は、このように次々と生まれ変わる角膜上皮細胞のもとになる細胞です。このため、角膜上皮幹細胞疲弊症を発症すると、角膜上皮の細胞が入れ替わることができなくなります。そして結膜の細胞が角膜に侵入して広がっていくため、透明な角膜が白い結膜で覆われるようになり著しい視力障害を引き起こすのです。

原因

角膜上皮幹細胞疲弊症は、主に黒目と白目の境目である角膜輪部に何らかのダメージが加わることによって引き起こされます。角膜上皮幹細胞は角膜輪部に存在するため、角膜輪部に大きなダメージが加わると角膜上皮幹細胞も消失してしまうためです。また、角膜上皮幹細胞が過剰に消費されることが発症の原因となることもあります。

角膜上皮幹細胞疲弊症の原因としては、主に次のようなものが挙げられます。

先天性

無虹彩症(むこうさいしょう)や強膜化角膜などの先天的な目の病気によって角膜上皮の細胞が過剰に入れ替わることで、中高年期になるにつれて角膜上幹細胞が不足して角膜上幹細胞疲弊症を発症することがあります。

外傷性

目の熱傷(やけど)、アルカリ性や酸性の物質が目に付着することによるダメージなどが原因となります。

内因性

スティーブンス・ジョンソン症候群(Stevens Johnson syndrome:SJS)や類天疱瘡(がんるいてんぽうそう)などの病気の症状のひとつとして、角膜上皮幹細胞疲弊症を発症することがあります。

特発性

角膜上皮幹細胞疲弊症のなかには、はっきりとした原因が分からないものも少なくありません。

症状

角膜上皮幹細胞疲弊症を発症すると、角膜上皮の新しい細胞が作られなくなるため、白目の表面を覆う結膜上皮の細胞が角膜に侵入するようになります。その結果、透明な角膜が結膜上皮の細胞に覆われるため角膜は強く濁り、視力の著しい低下が生じます。

また、結膜上皮の細胞に覆われた角膜は潤いを失い、炎症が起こることでまぶたと眼球が癒着する“眼球癒着”を引き起こすこともあります。これらの症状が進行すると、最終的には失明に至ることも少なくありません。

検査・診断

角膜上皮幹細胞疲弊症は、角膜に(細かい血管を伴う)結膜上皮の細胞が侵入して広がっていくのが特徴です。このため、特殊な検査をしなくても眼科の基本的な検査である細隙灯(さいげきとう)顕微鏡検査で角膜の状態を詳しく観察すると診断を下すことが可能です。

また、角膜の状態をさらに詳しく調べるため、角膜移植前の検査として角膜周囲を三次元で観察できる前眼部光干渉断層計(OCT)が行われることもあります。

そのほか、残されたほうの目の機能を評価するため、視力検査を定期的に行うのが一般的です。

治療

角膜上皮幹細胞疲弊症は薬などで治すことはできず、根本的な治療のためには角膜移植が必要となります。多くは亡くなった方から提供された角膜を使用しますが、拒絶反応が生じることも珍しくなく、さらに全国的に献体数が不足していることが大きな問題となっています。

現在、日本国内での角膜上皮幹細胞疲弊症発症者は年間1,000人程度と推定されていますが、治療を受ける機会がないまま視力の低下が進行してしまうケースも多くなっています。

そこで近年、患者自身の口の中から採取した上皮の細胞を培養したものを用いた角膜再生に応用する治療が広く行われるようになりつつあります。

さらに2019年には世界で初めてiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作成した角膜上皮細胞の膜を移植する治療が大阪大学で行われ、今後のさらなる改良と普及が期待されています。

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