概要
遺伝性血管性浮腫(HAE)とは、腫れやむくみが全身のさまざまな部位に繰り返し発生する病気です。主に遺伝子の異常によって、C1インヒビターと呼ばれるタンパク質が減少したり、機能異常をきたしたりすることで、最終的にブラジキニンの産生を亢進させることにより発症します。
症状は手足やまぶたなどの皮膚に現れることが多く、粘膜にみられることもあります。まれに腫れが喉に発生する場合があり、気道を塞ぐと命に危険を及ぼすこともあります。
遺伝性血管性浮腫(HAE)の発症率は5万人に1人との報告が多く、遺伝子の病気ではあるものの全体の約25%は家族に同じ病気の人がいない孤発例であるといわれています。
発作が発生したときの治療に加え、発作が起こるきっかけに対する発作予防による症状のコントロールが重要となります。
原因
遺伝性血管性浮腫(HAE)の原因はC1インヒビターの減少や機能異常です。C1インヒビターの遺伝子の異常によるものであることが多く、まれに遺伝子異常によらないものもあります。
C1インヒビターはC1と呼ばれる補体*のはたらきを抑える効果がありますが、C1インヒビターの機能が不十分だとC1が過度に活性化してしまい、発作的な腫れやむくみが起こるようになります。
発作はきっかけなく突然現れる場合もありますが、けがや抜歯、外科手術などの何らかのストレスがきっかけとなることが多いといわれています。
*補体:血液中に存在し、体の防御機構に関わる成分。
症状
遺伝性血管性浮腫(HAE)の症状は、発作的に繰り返し生じる腫れ、むくみです。赤みやかゆみはなく、突然現れて通常は1~3日程で治まります。
腫れが生じる部位は手、足、腕、脚、まぶた、くちびる、口の中、舌、喉など全身に及び、人によって異なります。腫れが喉に生じた場合は気道が塞がるため息ができなくなり、命に危険を及ぼすこともあります。また、消化管に腫れが生じた場合、腹痛、嘔吐、下痢などの症状が現れることもあります。
発作の頻度は個人差があり、多くの人が1か月に1回以上の発作が起こります。なかには週に1~2回と高い頻度で起こる人もいます。
検査・診断
遺伝性血管性浮腫(HAE)の診断は、自覚症状、家族歴、血液検査、遺伝子検査などに基づいて行われます。
腫れやむくみなどの実際の症状は重要な診断材料となりますが、診断時に症状が現れていないと判断が難しいため、写真を撮って記録しておくことも有用です。
遺伝性血管性浮腫(HAE)の患者の多くは血縁者にも同じ病気の人がいるといわれているため、家族歴の確認も行われます。
血液検査では、病気の発生に関わるC1インヒビターの活性やC4タンパク質量などを調べます。また、病型の判断のため、C1インヒビターの量や第XII因子と呼ばれる物質の状態を調べることもあります。
治療
遺伝性血管性浮腫(HAE)の治療には、発作時の治療、短期予防、長期予防の3つの目的があります。
発作時の治療
腫れやむくみなどの症状が現れているときに症状を抑えるための治療です。
保険診療では、C1インヒビター製剤、ブラジキニン受容体拮抗薬と呼ばれる治療薬が主に用いられます。C1インヒビター製剤は点滴・注射によって投与する必要があるため、治療には医療機関の受診が必要です。一方、ブラジキニン受容体拮抗薬は皮下注射する治療薬で、事前に医療機関でのトレーニングを受けていれば、自身で注射を打つこともできます。発作の部位によっては経過観察を行うこともあります。
喉に発作が現れた場合は呼吸困難をきたすことがあるため、ICUで気管内挿管、気管切開などの緊急治療が必要になることもあります。
短期予防
遺伝性血管性浮腫(HAE)の発作は歯科治療や外科手術などのストレスがきっかけで発生することが多いため、ストレスの原因となる予定がある場合は、あらかじめC1インヒビターを補充する治療が行われることがあります。
長期予防
発作の頻度が高い場合(1か月に1回以上など)、1回あたりの発作の期間が長い場合(1か月に5日以上など)、発作が喉に発生したことがある場合などは、発作を予防するために長期的な治療を行うことがあります。
長期予防としては、トラネキサム酸、ダナゾール、ラナデルマブといった薬の継続的な投与が検討されます。ただし、トラネキサム酸、ダナゾールは保険適用ではなく、トラネキサム酸では効果が限定的であること、ダナゾールでは肝障害や高血糖などさまざまな副作用がみられることにも注意が必要です。
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