概要
頸管無力症とは、妊娠中に赤ちゃんをしっかりと子宮の中に保持しておくための力が足りず、臨月を迎える前に子宮頸管が開いてきてしまう状態を指します。頸管とは子宮頸管のことを指し、子宮の入口部分のことです。通常、子宮頸管はしっかりと固く閉じていて、陣痛が始まるまで子宮内に赤ちゃんを留めています。
正確には、「妊娠16週以降に起きる習慣流産の原因のひとつと考えられていて、陣痛や性器出血のような症状がないのにもかかわらず、急に子宮頸管が開いてきてしまう状態」と、日本産婦人科学会が定義しています。日本での発生頻度は0.05~1%程度といわれており、妊娠20~22週前後にはっきりとした自覚症状なく発症することが多いとされています。
原因
頸管無力症の原因ははっきりとわかっていません 。
生まれつき子宮頸管の組織に異常があるという推測や、無症状ながら感染が起きているという説もあります2回目以降の妊娠の場合は、先回の妊娠・分娩のときに子宮頸管が弱くなってしまったのではないか、などの推測もされていますが、2018年現在、明確な研究結果は出ていません。
症状
頸管無力症は、下腹部痛や性器出血を伴わないことが特徴なので、通常自覚症状はありません。しかし、おりものの増加や、下腹部の違和感を覚えるケースもあるようです。また、子宮頸管がかなり開いてきてしまうと、赤ちゃんと羊水を包んでいる羊膜という膜が腟の方に下がってきてしまいます。この膜は非常にもろいため、物理的な刺激や、細菌による感染が原因で破水してしまうこともあります。
検査・診断
頸管無力症には定まった診断基準がなく、これを予知する確実な検査方法も現在のところありません。診断には問診による過去の妊娠時の情報や、内診による子宮頸管の開き具合が大切です。
ただし、最近では、経腟超音波検査によって妊娠16~20週で子宮頸管の長さが通常より明らかに短くなっていることがわかった場合に、頸管無力症を疑うべきだと考えられています。
治療
頸管無力症と診断された場合、大きく二通りの治療方針があります。
一つ目は慎重な経過観察です。頸管が短くなり開いてしまうことに注意しながら、経腟超音波検査により頸管の変化を頻繁に検査していきます。外来通院での経過観察もありますが、場合によっては入院したうえでの安静、経過観察が行われます。
二つ目は子宮頸管縫縮術という手術になります。これは、頸管無力症が疑われた、もしくは診断された場合に妊娠12週を過ぎてから実施されるものです。下半身に麻酔をしてから、子宮頸管を糸できつく縛ることで、物理的に子宮頸管が開いてくることを防ぎ、流産や早産を予防する目的で行われます。ただし、絨毛膜羊膜炎など子宮頸管や子宮内の感染が疑われる場合には、手術によって悪影響を与えてしまう可能性があるため、まずは感染症に対する治療が先に行われます。
手術を実施した後に経腟分娩を行う際は、子宮頸管を結んでいる糸を抜糸する必要があります。なお、子宮頸管縫縮術は有効性が明確にはなっておらず、流早産を減らすことができたという研究報告と、減らす効果はなかったという研究報告がどちらも存在し、結論が出ていない状況です。
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