概要
類上皮肉腫は、主に手足など四肢の末梢に発生することの多い軟部腫瘍の一種です。軟部腫瘍とは、筋肉や脂肪など体の軟部組織に発生する腫瘍の総称で、良性のもの(良性軟部腫瘍)と転移や再発を生じる悪性のもの(悪性軟部腫瘍)に分けられます。類上皮肉腫は悪性軟部腫瘍のひとつです。
悪性軟部腫瘍全体の約1%、1年間で新たに発症するのは100万人あたり0.4人ほどと非常にまれな悪性腫瘍(希少がん)です。年齢は10~30歳代に多く、性別は男性に多いことが知られています。最初は皮下の小さなしこりや治りづらい“かさぶた”のような症状を呈し、次第に大きくなり、リンパ節や肺に転移して命を脅かすようになります。一見、皮膚の傷や“おでき”のように見え悪性腫瘍には見えないため、不適切な初期治療が行われやすく、再発や転移を繰り返して5年生存率は60%に満たないとの報告もあります。
原因
現在のところ、どのようなメカニズムで類上皮肉腫が発症するのかは明らかではありません。しかし、近年類上皮肉腫の80%以上の症例で、22番染色体の長腕に存在するがん抑制遺伝子“SMARCB1・INI1遺伝子”の異常が報告され、SMARCB1・INI1たんぱく質が欠失していることが明らかになってきました。このがん抑制遺伝子の機能が失われることによって類上皮肉腫が発症するのではないかと考えられています。
症状
類上皮肉腫の約70%は手や指、足など四肢の末梢の浅い部分に発生し、遠位型(古典型)と呼ばれます。残りの約30%は鼠径部など体の中心に近い深い部分に発生し、近位型と呼ばれます。遠位型は、早期は皮下のやや硬めのしこりや治りづらい“かさぶた”のような症状として発症することが典型的です(図)。通常は痛みもないため、治りづらい“おでき”として放置され、診断や治療が遅れるケースがしばしば見られます。近位型は鼠径部や陰部などのやや深い場所に発生することが多く、5cmほどに大きくなってから発見される傾向があります。いずれも進行すると神経や筋肉を侵して痛みや動きづらさを生じたり、リンパ節(手であれば腋の下のリンパ節、足であれば鼠径部のリンパ節)への転移を生じたりします。さらに進行すると、肺や内臓に転移し命を脅かします。
検査・診断
類上皮肉腫では次のような検査が行われます。
画像検査
病変の部位や大きさ、周辺の神経や筋肉などへの進展の有無を調べるための検査です。一般的に行われるのは、X線検査、CT検査、MRI検査で、中でもMRI検査は軟部組織の状態を詳しく描出することができるため、もっとも診断に有用とされています。PET検査もリンパ節への転移の評価などに用いられます。外来でしこりの性状を簡易的に調べるため、超音波検査を行うこともあります。
血液検査
体内の炎症反応の有無を調べ、貧血など体の状況を知る目的で血液検査が行われます。
病理検査
病変から組織の一部を採取し、顕微鏡で組織のタイプを詳しく調べる検査です。類上皮肉腫の診断を確定するためには必須の検査であり、針で組織を採取する針生検と小手術で組織を採取する切開生検の2通りの方法があります。通常のヘマトキシリン・エオジン染色に加えて免疫染色でケラチンなどの上皮性マーカーが陽性になること、SMARCB1・INI1たんぱく質が欠失していることが重要な判断材料になります。さらに最近では蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)検査によって、遺伝子異常を蛍光顕微鏡で直接観察する方法も用いられ、正確な診断をするために役立っています。
治療
類上皮肉腫のもっとも大切な治療は原発巣の手術です。この病気は再発を繰り返しやすいため、手術は目に見える病変部だけを切除するのではなく、周囲の顕微鏡的な病変も含めて周辺組織も一塊として広範囲に切除する手術(広範切除)が必要です。病変が広がっている場合は、残念ながら切断を考慮しなければならないことも少なくありません。また、類上皮肉腫はリンパ節に転移しやすいため、上肢であれば腋の下のリンパ節、下肢であれば鼠径部のリンパ節の切除も考慮する必要があります。一方、全身状態が悪く手術ができない場合や再発や転移を生じた場合には、抗がん剤治療や放射線治療が考慮されます。
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