より良い未来を目指し、未踏の領域を切り拓く

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より良い未来を目指し、未踏の領域を切り拓く

「よりよい病院」という目的地までの、着実な地図を描いて歩み続ける、長堀薫先生のストーリー

国家公務員共済組合連合会 横須賀共済病院 病院長
長堀 薫 先生

「周りの子たちと違う自分」を自覚していた子ども時代

私は、工場がたくさんあるような土地で、同級生は中学を出ると工員になるような環境で育ちました。進学塾に通うような勉強熱心な子は、ほかにいなかったと思います。

私の親は、もともと教師をしていましたが、あるとき教職を辞め、実家の家具屋を継ぐことになりました。そんな元教師で、商売人である親からは、「勉強をしっかりすること」の大切さを、身をもって教わりました。

小学4年生ごろになると、夕方4時から夜中12時まで、親がつきっきりで勉強三昧の生活に。そのため、勉強だけはできましたが、引っ込み思案で周りの子たちと交わることのできなかった子ども時代でした。日が暮れるまで縄跳び遊びをしていた下町の同級生たちと比べれば、少し毛色の違う子どもだったでしょう。「周りの子たちと違う自分」ということを、私自身も受け入れていました。

「横須賀共済病院をよりよい病院へ」という目標を掲げる

1978年、私は医学部を卒業しました。その後、さまざまな医療機関を経て、外科医としての技術を磨きました。その期間中、1年間だけ横須賀共済病院に赴任していたこともありましたが、実際に当院に腰を据えるようになったのは2001年からです。

それからは管理職も兼ねるようになりましたが、2012年にいったん辞職しています。そのときの私の役職は、副院長兼分院長でした。辞めた理由は、どうしても外科医を続けたかったから。当時の私には、副院長兼分院長の業務が山ほどありました。手術することもそこそこありましたが、「もっと技術を磨きたい」「もっと完璧を目指して外科を突き詰めたい」という思いを抑えきれなくなりました。

そこで、山梨県立中央病院に籍を移すことに決め、1年余り外科医として休む間もなく働きました。腱鞘炎になるのではないかというほどに、多忙を極めた日々でした。「このままだと体を壊すかもしれない」と不安に思った矢先、「外科医は満足した?病院長として戻ってこない?」と国家公務員共済組合連合会の本部から声がかかりました。まるで、家出した子どもを連れ戻すみたいな言い方ですよね。

当時、横須賀共済病院は、経営が悪化し、厳しい状況に陥っていました。山梨の患者さんを残して戻ることは非常に心苦しかったのですが、自分が医師として数多くの経験を積んだ横須賀共済病院をなんとかしたいと腹を括りました。

「地域の方々や職員にとって、よりよい病院にする」ことを目標に、2014年に横須賀共済病院の病院長に就任しました。

横須賀共済病院の病院長赴任後、地域医療構想を推し進める

私は、横須賀共済病院の病院長に就任後、地域医療構想を推し進めることにしました。きっかけは、「横須賀共済病院は、なかなか急患を受け入れてくれない」と地域の開業医に訴えられたことです。

当時は、当院の救急搬送受け入れのシステムがしっかりしておらず、急患の電話がかかってきても、スムーズな対応ができませんでした。そこで、急患の受け入れシステムを変えたり、看護師や事務の職員のモチベーションが上がるような研修制度を設けたりして、病院内の改革を進めました。

そして、「断らない医療」を目指し、救急搬送をできる限り受け入れるようにしたのですが、受け入れれば受け入れるほど、長くフォローが必要な患者さんでベッドが埋まり、新たな患者さんの受け入れができなくなっていきました。

この状況をどうしたらよいかと考えたときに思いついたのは、地域の医療機関で機能分化をすることです。幸いなことに、横須賀市は、糖尿病や高血圧などの慢性疾患や、がんや心臓病を対象とする医療機関、在宅医療を主に行う診療所など、良好な機能を持つ医療機関が多い地域です。当院は、地域の医療機関と協定を結び、急性期治療を終えた患者さんが、ポストアキュートの医療機関に移ったあとも引き続き必要な医療を受けられる体制を整えました。

ほかにも、電子カルテを改良して患者さんの入院期間を可視化するなど、多様な取り組みを行い、現在も地域医療構想を推し進めています。

横須賀共済病院が尽力する地域医療構想の詳しい取り組みは『日本医療マネジメント学会第18回神奈川支部学術総会「地域医療構想とポジショニング」特別講演』のレポート記事をご覧ください。

「横須賀共済病院をよりよい病院に」という目標のために、着実に地図を描く

横須賀共済病院の病院長としての今の目標は、2つあります。

1つめは、AIホスピタルを作ることです。近年、医療従事者の働き方改革が叫ばれていますが、基幹病院にかかる患者さんは増加傾向にあり、働き方改革の実施は難しい状況にあります。当院でも、どうしたら職員の負荷を減らせるか考えました。タスクシフトやタスクシェアというやり方では、負荷が人から人に代わるだけなので、全体の労働量は減りません。そこで、人からAIに仕事をシフトできないかと考えました。たとえば、看護師の業務内容をみてみると、時間内業務のうちの3割が、記録業務です。そこで、音声入力可能な電子カルテを開発し、省力化とアイコンタクトできる診察を実現したいと考え、2019年現在、実現化に向けて行政やAI開発企業と協働しています。

もう1つの目標は、日本経営品質賞を受賞することです。日本経営品質賞は、顧客の視点から経営全体を見直し、自己革新を通じて新しい価値を創出し続ける「卓越した経営の仕組み」を有する企業に対して表彰されるものです。2018年度までに45組織しか受賞していません*。「日本経営品質賞の受賞」という目標を掲げることで、いつまでに何をすべきかが具体的に見えてきます。その目標に向かう最適な道を考えて歩むことが、今の私のやるべきことです。

日本経営品質賞を受賞した組織…第一生命保険相互会社(現 第一生命保険株式会社)、トヨタ輸送株式会社、株式会社リコーなどが受賞している

「周りの子たちと違う自分」だったから、未踏の領域でも地図を描ける

病院長を囲んで新入職員と「はい、ポーズ!」

このような目標を考える病院長は、珍しいかもしれません。

けれども、周囲の子たちが縄跳びをしているなか、勉強三昧だった「周りの子たちと違う自分」があたりまえだった私は、ほかの人がやったことのない未踏の領域であっても、それが最適な道だと思えば、新しい道を切り開くことに抵抗はありません。

今の2つの目標が実現できたら、もう何も思い残すことはないでしょう。この病院をよりよいものにするために、引き続き尽力していきます。

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