患者さんの身体と心を癒す医師でありたい

名古屋市立大学病院 病院長
小椋 祐一郎 先生

患者さんの身体と心を癒す医師でありたい

若手医師の見本としてトップに立ち続ける小椋祐一郎先生のストーリー

公開日 : 2017 年 03 月 22 日
更新日 : 2017 年 05 月 31 日

暗闇の世界に、光を取り戻す喜びを

眼科医になると決めたのは、学生時代、臨床実習で各科をローテーションしていた時に出会った眼科の教授に強烈な憧れを抱いたからです。卓越した手術手技、見た目のスマートさ、滲み出る荘厳な雰囲気、そして溢れる知性。教授とはこんなにもカッコいいのかと、全身に電気が走るような感動を覚えました。

こんな医師になりたい。その教授の姿に少しでも近づきたい私は、後日開催された眼科の入局説明会に参加し、眼科について様々なことを聞きました。そのなかで印象に残った言葉が「ハーバード大学のトップは眼科に行く」「眼科医は患者さんの喜びを実感できる」の2つです。これらの言葉で私はさらに眼科医への憧れを強めたのです。

たとえば胃がんを切除して、患者さんの身体からがんを取り除けたとしても、患者さんには治療の前後で目に見える劇的な変化がなく、病気が治ったという実感がなかなか湧きません。これとは対照的に、目の治療の効果はとても明確です。見えていなかった世界が、次の日から見えるようになる―。患者さんは目が見えるようになった喜びを通して、病気が治った事実を実感することができるのです。この点に惹かれ、私は眼科医になる決意をしました。

失明した患者さんから受けた声なき「ありがとう」

眼科医となり、今年で早37年。名古屋の地で教授になった今でも、25年以上前に担当した、ある患者さんの姿をふと思い出します。

当時は今ほど治療技術が進歩しておらず、治療不可能な眼科疾患が多くありました。眼科医として駆け出しだった30歳過ぎの頃に出会ったその患者さんは、当時の技術では治すことが難しい病気を抱えておられました。

自分ができる最大限の努力を、と私は何度もその方に手術や治療を行いましたが、治療の甲斐なく、患者さんは失明してしまったのです。自分は眼科医なのに、患者さんを治すことができなかった―。技術的な限界があったとはいえ、それは医師としての力不足を痛感した瞬間でした。

そして、無力感に苛まれながらも、患者さんの退院をお見送りすることになったのです。お別れの挨拶をする時のことです。目を閉じた患者さんは静かに胸の前で両手を合わせ、私を拝むような仕草をしました。

「小椋先生、一生懸命に治療してくれてありがとう」

声のないやりとりでしたが、私にはそう聞こえてくるようでした。

その時、治療の結果だけでなく、患者さんに満足してもらえる医療を提供する医師であろうと心に誓いました。

どんなに凄腕の医師でも、すべての病気を治すことはできません。辛い結果に終わることもあります。そんなとき、最終的に患者さんの心を決めるのは医師とのつながり、つまり心と心の対話です。医師と患者さんがしっかりとつながっていれば、患者さんの心の光まで失われることはないのだと思います。

若いうちに持つべきは、研究に没頭する時間

私が医師になってから、眼科学は著しく進歩しました。

今でこそ日帰りで可能になった白内障手術ですが、私が医学部を卒業した1980年当時、それはとても大掛かりな手術でした。角膜または強角膜を大きく切開して水晶体を取り出し、眼内レンズも入れず、今では信じられないかもしれませんが、術後は一昼夜絶対安静が強いられていたのです。

私の専門である網膜硝子体手術も白内障手術と同様、この37年の間に飛躍的に進歩しました。眼科学の進歩とともに医師としてのキャリアを重ねてこられたのは大きな喜びと言えるでしょう。

特に深く眼科学の進歩に向き合ったと感じるのは、2回にわたるアメリカ留学期間です。私は1985年からの1年間、1989年からの2年間の合計3年間留学していましたが、その期間は臨床の現場には立たず、完全に研究室のテクニシャンとして実験研究に専念しました。

留学のメリットは、臨床から一時的に離れることで時間に余裕が生まれ、気兼ねなく論文閲読や執筆、実験に没頭できることにあります。

3年間純粋に研究を続けたからこそ、眼科学の進歩がもたらした新しい技術を素直に受け入れられるのだと思いますし、今もこうして網膜の専門家として、多少なりとも網膜疾患治療の発展に貢献できているのだと思います。

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名古屋市立大学病院 病院長

小椋 祐一郎 先生

日本における黄斑疾患の名医。糖尿病網膜症や加齢黄斑変性、網膜静脈閉塞症などの網膜硝子体疾患をはじめ、白内障や緑内障などの幅広い眼疾患の治療研究に携わる。日本糖尿病眼学会の理事長も務めており、糖尿病患者の早期眼科受診の重要性を周知するために尽力している。最近の関心事はワインと料理、フライフィッシング。

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