DOCTOR’S
STORIES
経営者として、外科医として、現場に立ち続ける寺坂俊介先生のストーリー
私が脳外科医になることを決めたのは、北海道大学脳神経外科の医局長と出会ったことがきっかけでした。学生時代からラグビーを続けていた私を、「脳神経外科に入局したらラグビーができる。土日は試合に行っていいぞ」と誘ってくださったのです。医局長は社会人ラグビーのチームに所属しており、遠征にも連れていってもらったので、喜んで入局を決めました。実際には、試合に出られるような余裕は研修医にはありませんでしたが、そのまま脳神経外科に在籍していました。
ターニングポイントになったのは、脳神経外科医の福島孝徳先生との出会いです。1995年に米国に留学した際、米国の学会で初めてお会いしました。福島先生は、ペンシルベニア州にあるピッツバーグの病院に移籍してこないかと声をかけてくださり、異動することを決めました。
異動先の病院では、臨床外科解剖を徹底的に教え込まれ、道具の使い方をはじめとしたあらゆることを矯正される日々でした。脳の構造、血管の走行、神経の位置などを頭に叩き込み、毎日トレーニングに励んだことを覚えています。今から約25年前、人種差別が残る米国において、福島先生といえども我々日本人が手術室を使えるのはいつも、白人医師の手術が終わったあとでした。しかし、そのことに不平を漏らすことなく粛々と手術をする福島先生の姿が印象的でした。福島先生のもとで学んだ1年間の経験が、私の基礎となりました。
2006年に北海道大学脳神経外科に戻り、2016年には診療教授・診療科長に就任しました。その後も脳外科医として手術を続けていましたが、やがて委員会や学会に関わる業務が重なり、電話や来客の応対にも追われて、手術前の検討のための時間が取れなくなっていきました。私は、術前に1時間はイメージトレーニングを行うことを大切にしていたので、その時間を確保できないことに大きな不安を感じました。
あるとき、十分に手術のシミュレーションができないまま手術室に入ってしまったことがあります。幸い大きなトラブルにはつながらなかったものの、「このままではいつか医療事故を起こすのではないか」と不安になりました。
手術は失敗すると、その結果を自分ではなく患者さんが負うことになります。手術したことで患者さんに後遺症を負わせてしまうかもしれない、このまま外科医を続けたら患者さんを傷つけてしまうかもしれない、という思いから、「大学に残るならメスを置くしかない」と考えるようになったのです。
大学に残るか退任して臨床の場に戻るかどうか悩み、当時の教授である寳金清博先生(現・北海道大学大学院保健科学研究院 高次脳機能創発分野 特任教授)に相談しました。寳金先生は、「このまま教授になれば、やはり手術はできないよ。しかし、手術以外の道もあるのだから、大学に勤め続けるのもわるくないぞ」と話してくださいました。私は、「手術が長時間に及ぶことの多い脳外科は、自分の体力を考えたら、あと10年くらいしか続けられないと思います。その時間のほとんどを大学で費やしたら、外科医でいられる時間はあと少ししかありません。この選択を許してください」と伝え、北海道大学を退職することを決めました。そして、2018年、柏葉脳神経外科病院(現・札幌柏葉会病院)の院長に就任することとなりました。
これまでに診療した患者さんのことで思い出すのは、納得のいく治療ができなかったときのことばかりです。北海道大学に勤めていた頃は特に、子どもの脳腫瘍を治療することが多く、力及ばず再発してしまったお子さんもいらっしゃいました。「アイドルのコンサートを見たい」という再発のお子さんをコンサート会場の札幌ドームに送り出したことや、お葬式に参列させていただいたときのことなど、今でも忘れられません。
脳神経外科の手術はとても難しく、最適な治療だったと言い切れることはありません。それでも手術を極めたいという気持ちがあるからこそ、「あのとき、こうすればよかったのに」と思うことがあります。課題を一つひとつ克服することで、同じ病気の患者さんにきちんと還元していきたいと考えています。
しかしまだ、最初から最後まで自分のイメージした通り、患者さんに寄与できるような100%の手術をしたことはないと思っています。患者さんに「これが最善でした」と自信を持って言えるような手術をするために、私は、手術が終わったあとに必ずスケッチをしています。術中の様子を録画した動画を見ながら、手術を振り返るのです。スケッチしていると、「ここはこうすべきだったな」というものが見えてきます。
最近では、患者さんからお手紙をいただくことがあり、とてもありがたく読んでいます。全て保管してあり、私自身の支えとなっていますし、また頑張ろうという力が湧いてきます。
長時間にわたる手術を無事に終えるためには、医師自身の体力が重要だと考えています。体力が衰えると、疲れて集中力が落ちてきてしまうからです。そこで私は、体力を維持するために、食事に気を遣って体によいものをとったり、1日休みができたときは、近くの山に登って全身運動をしたりしています。私が医療に貢献できる間は、引き続き頑張っていきたいと思います。
もちろんメスを置いても、医師はさまざまな形で世の中に貢献することができます。私の場合、外来診療などで、患者さんを診療してきた経験を活かすことができると思います。経営者としても、地域に貢献することができるでしょう。とくに、経営者であるとともに現場に立ち続けることは、職員の考えや困っていること、どのように対応すれば病院全体の状態がよくなるかなど、さまざまなものを見ることにつながると思います。
私は今でも、希望して当直を担当しています。当直というのは興味深い業務で、夜勤の看護師、警備員、清掃員、看護助手などの頑張る姿が、人数が少ないからこそ、ぐっと浮き上がって見えてきます。多くのスタッフが夜を徹して働いている様子を見るたび、さまざまな職種の方に支えられて病院を運営していけるのだと、いつも感謝しています。体の許す限り、現場に立つことを続けていくつもりです。
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札幌柏葉会病院
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