札幌柏葉会(はくようかい)病院は、札幌市豊平区に位置する、脳疾患を専門とする病院です。脳卒中をはじめ、頭痛、脳腫瘍、頭部外傷などの治療を行っています。さらに、脳疾患の治療後のリハビリテーションやケアが可能な体制を整え、救急治療から介護まで患者さんをサポートしています。また、札幌圏に医師が集中するなか、医師数が少ない地域の医療にも貢献するため、テクノロジーを活用したさまざまな取り組みを行っています。
同院のあゆみや、提供する医療、独自の取り組みなどについて、理事長・院長である寺坂俊介先生に伺いました。
札幌柏葉会(はくようかい)病院は、創設者である故・柏葉武名誉理事長によって1971年に開設され、2019年で48周年を迎えます。
開設した当時、当院が位置する豊平区の東月寒地区には農地が広がっていましたが、それにもかかわらず病院を建設した背景に、交通事故の多発がありました。事故に遭った患者さんを救うため、国道沿いに“柏葉脳神経外科医院”を開き、わずか19床でスタートしました。
当初は外傷を中心に診療していましたが、徐々に脳卒中の患者さんを診療することが増え、脳卒中救急に対応する病院へと体制が変わっていきました。それとともに、病床数を増やし、2019年現在は144床という規模になっています。開設当初からの“地元の救急医療を担う”という方針は今も変わりません。24時間365日、救急車の受け入れを行っています。
当院には、脳血管の病気のなかでも、とくに救急治療を必要とする患者さんが多くいらっしゃいます。そのため、脳卒中で脳の血管が詰まった患者さんに対する“t-PA”という薬剤を用いて行う血栓溶解療法や、血管の中にカテーテルを入れて血の塊を吸引する血栓回収療法などを行っています。
脳外科の病院は、一般的に、頭だけではなく脊髄の病気を扱うこともあります。しかし、当院で行っている手術のほとんどが、頭部に対する手術です。2018年度の手術件数は367件でした。
脳の病気の救急患者さんは、何らかの後遺症を残すことがあるため、リハビリテーションが重要です。そこで、当院は、回復期リハビリテーション病棟を有し、生活動作能力を改善するための訓練を行う環境を整えています。患者さん一人ひとりに合わせて、QOL(生活の質)を大切にするリハビリテーションを提供しています。
2019年10月1日には、“デイケアセンター 笑るむ”を開設しました。ご自宅に戻った患者さんにも当院を利用していただきたいという思いから、“患者でなかった昨日に、患者でない明日を”という言葉をキャッチコピーとし、リハビリテーションを終えたあとのフォローに力を注いでいます。
“笑るむ”という名前は、職員から募って決定しました。創設者の故・柏葉武名誉理事長が、笑うことをとても大事にしていたことに由来します。また、“エルム”は北海道になじみ深い樹木の名前です。急性期医療だけでなく介護事業も含め、地元に恩返しをしたいという思いが込められています。
予防医学の重要性を考え、当院は、脳ドック(脳神経の精密健康診断)にも力を入れています。地域柄、近隣に働き盛りの世代が多く住んでいることもあって、地域の方々の受け皿となることを目指し、個人および企業における脳ドックを実施しています。北海道大学病院の放射線診断科と協力し、より正確な診断とレポートの作成に努めています。
北海道大学大学院保健科学研究院 高次脳機能創発分野の寳金清博先生と連携して、“もの忘れ外来”を開設しています。主に、もの忘れの原因が認知症であるかどうかを診断する外来です。当院には、脳血流を測る“SPECT”という装置があり、認知症の診断に役立てることができます。ほかの医療機関でも、ぜひ当院のSPECTを有効利用していただきたいと考えており、他院の医師が当院における脳SPECT検査を活用できる体制を整えています。
当院の外来を通して、北海道大学における研究内容を患者さんに還元し、認知症の進行の抑制や改善に関わる医療にも寄与できればと考えています。
当院では、脳神経内科の医師を中心に、認知症を予防するための研究を行っています。対象となるのはMCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)の患者さんです。
MCIのなかには、さまざまな病気が含まれます。たとえば、正常圧水頭症は、脳の中を循環している髄液の流れが悪くなって、認知症の症状が現れてくる病気です。こうした病気の患者さんも、もの忘れ外来を受診することを想定して、患者さんに向けたセミナーの実施にも取り組んでいます。
北海道には、脳卒中の専門的な治療ができる医師の少ない地域があります。北海道のように土地が広く、とくに人口の少ない地域では、専門性の高い医療を提供する医師が常駐することは、有効とはいえないからです。なかでも日高地方は、台風で日高本線が廃線となった影響もあり、沿線で暮らす地域の方々の病院へのアクセスが困難になっています。患者さんにとっては、薬をもらうだけでも半日がかりの移動が必要となるため、医師も搬送の判断に迷う状況にあるようです。そこで私は、地域医療こそICTを使って解決すべきだと考えました。
具体的には、日高郡新ひだか町に位置する町立静内病院のサーバーと、当院のサーバーをダイレクトにつなぐことで、静内町立病院に搬送された患者さんの診断や治療の指示が可能なシステムを構築する予定です(2019年12月2日開始)。
2018年4月、iPadやPCをつないで患者さんと話せるオンライン診療が、保険適用されました。それを受けて、当院でも、オンライン診療を導入することが2019年9月に決定しました。
今後、テクノロジーはまだまだ進歩していくでしょう。たとえば、テレビをつけたら診療ができるというようなイメージが浸透すれば、オンライン診療はさらに有効活用されていくはずです。当院でオンライン診療を実施することを決定したのも、新しい診療方法をどのように採用すべきか検討するという目的があります。介護事業、ICT医療、オンライン診療など、さまざまな取り組みを実施することで、当院の根幹にある脳卒中救急を支えていきたいと考えています。
脳卒中で搬送されてきた患者さんは、つい昨日まで普通の生活をされていた方がほとんどです。私たち医師は、患者さんの“元気だった昨日”を想像しながら治療するべきだと思います。たとえば、ベッドで寝ている高齢の男性患者さんに対し、「おじいちゃん」と呼びたくなることもあるかもしれません。しかし、患者さんは、つい昨日まで立派に仕事をされていた方や、素晴らしい哲学をもって生きていらっしゃる方なのです。敬意をもって接することを忘れないでください。そして、患者さんが病気ではなかったときの状態に少しでも近づけるよう、考えながら治療にあたってください。
救急の現場では、こうしたことを忘れがちになりますが、患者さんのことは「〇〇さん」と呼び、昨日まで元気だったということを念頭に置いて、治療したいものです。私自身、日頃からそのように考えていますし、若い先生方にも忘れないでほしいと思います。
当院は、開設当初から“地域の脳疾患に貢献する”というポリシーで医療を提供しており、今後もその本筋は変わりません。これからも、地域の皆さんに信頼される病院でありたいと考えています。
また、私が若い医師によく話すことですが、“Think globally , Act locally(地球規模で考え、地域で行動しよう)”という言葉があります。世界でどういった治療が行われているかを考え、地域に対して行動すべきだ、ということです。私たちは、地域で提供する医療でも世界水準を目指す必要があると考え、グローバルに見る目を養うことを大切にしています。
最近では、インドのバンガロールにあるSAKRA World Hospital(サクラ・ワールド病院)と、密に交流を行っています。私も過去に2回、その病院に招聘されて、講演や手術を担当しました。文化背景が異なる外国の医師と交流することは重要だと考えています。若い医師にも世界水準を見る機会を与え、今後もよりよい医療の提供に努めてまいります。
札幌柏葉会病院 理事長・院長
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現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。