DOCTOR’S
STORIES
“山梨から世界へ”と挑戦を続ける後藤 太一郎先生のストーリー
子どもの頃は漫画の『ブラック・ジャック』をよく読んでいました。
医師以外の道を考えたことはほとんどありません。学生時代、運動は好きでしたけれども、特別人より秀でたものは持っていなかったと思います。幼少時にヴァイオリンを習っていましたが、高校生の頃には全て忘れてしまい、絵を描くことも苦手でした。やはり、やりがいのある仕事として、外科医に対して漠然とした憧れを抱いていた気がします。
慶應義塾大学医学部を卒業後、同外科学教室に入りました。外科を選んだのは、内科には学究肌の人が行くというイメージがあり、自分には不向きと感じたからです。大学時代はアメリカンフットボール部に所属していて体力に自信があったので、どちらかといえば体育会系の人が多そうな外科のほうが自分には向いていそうだと思いました。また、技術を磨けば患者さんの役に立てるところも魅力に感じました。
3年ほど消化器外科を学んでから、現在の専門である呼吸器外科に進みました。というのも、もっとも興味を惹かれた臓器が肺だったのです。肺は人間にとって必須の臓器であり、肺炎や急性肺損傷、肺がんなどさまざまな病気を発症し得ることや、肺移植の適応といった多面性を持つ奥深さに惹きつけられたのです。このとき、母校の先輩でアメリカンフットボール部でもお世話になった
呼吸器外科の手術は難易度が高く、かつ繊細です。細かな作業を手際よくこなすことが好きな私は、地道に練習を重ねれば努力が実を結び、直接結果につながっていくところにやりがいを感じています。
医師としての転機になったのは2014年のことです。私はそれまで母校の慶應義塾大学に講師として勤めていましたが、「このまま同じ場所にとどまっていては駄目だ」と行き詰まりを感じていました。自分をもう一段階成長させるには、別の場所で勝負しなければという強い思いを持つようになったのです。
いくつかの大学病院から打診を受け、ほかの病院への転職を検討するなかで、義父と親交があった山梨県立病院機構(県立中央病院・県立北病院)理事長の
大きな挑戦となりましたが、快く引き受けて後押ししてくださった小俣先生にはその後も幅広くサポートしていただき、世界に発信していけるような高度な研究も含めて、私の目標や希望することをかなえていただいています。おかげさまで私が赴任した2014年以降、当科はさらに発展を続けてきました。
私が慶應大学を離れてからもずっと気遣ってくださっていた、名誉教授の故・
診察や治療を行うなかで嬉しく思うのは、月並みですが、手術が終わって患者さんのご家族と会い「無事に終わりましたよ」と伝えると、とても喜んでくださることです。患者さんが退院されるときも多くの方が「先生に会えてよかった」と言ってくださって、いつも励まされています。患者さんからの一言でまた頑張れるので、それが私の原動力になっているのだと思います。
日々の息抜きになっているのは家族と過ごす時間です。幼い子どもが2人いて、よく庭で遊ばせたり宿題を手伝ったりしています。最近では、子どもに教えながら自分でも勉強するのが楽しみで、難しい大学入試の数学問題を毎日1問ずつ解いてから就寝するようになりました。妻も医師で共働きなので多忙ではありますが、子どもの存在は非常に大きく、家族と過ごすことが私にとっては1番のリフレッシュ法です。
当院に勤めている若い先生方には、手術と研究にしっかりと取り組んで、定時になったら帰るようにと教えています。外来診療や手術を終えたら自分の時間も大事にできるところは、当院の特色の1つです。また、より多くの手術を経験できるよう私の監督の下で実践を繰り返してもらい、その際は細かいところまで丁寧に指示を出すことを心がけています。研究面においても、深い内容を追及したり実績を積むチャンスにしたりできるような場を提供するよう努めています。
一方で、若い先生方が挑戦せず1つの場所にとどまるのはもったいないことだと考えています。都心部や世界に飛び出して、私もそうだったように経験を積んでから地元に戻ってくるのは、地域にとってもよいことでしょう。若い先生方には、当院で研鑽を積んだ後は次のステップへ進むようにと教えています。
私は、医師として自分が診た患者さんは治したいという思いから、できるだけ多くの方を治療できるよう技術向上に努めてきました。若い頃に習得した肺移植の技術とがん治療の技術を融合することにより、通常の方法では治療できないような高難度のがん病態に対しても積極的切除を行っております。もともと独創的で斬新な術式を作り出すことが好きで、家族と過ごす以外の時間は患者さんや手術のことばかり考えているくらいです。難しい手術をどうすれば乗り越えられるだろうかと、手術の練習やイメージトレーニングも欠かさず行っています。
また、研究にも力を注いでいます。研究成果は世界へ発信していくことが重要であり、現状に満足せず世界と対等に張り合えるようなことをしていかなければ、本当に意味のある研究にはなりません。そこで、既成の枠にとらわれない研究にも積極的に取り組んでいます。 “山梨から世界へ”をモットーに、今より一段上の医療を実現することで患者さんに喜んでもらえたら嬉しく思います。
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山梨県立中央病院
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