千葉大学医学部にて小児科研修開始後、小児循環器を専門として選択しました。小児期に適切な医療を行うことで命を助けることができ、患者さんにその先の長い人生を送っていただくことができる、医師として非常にやりがいのある分野だと感じたからです。そして、東京女子医科大学病院循環器内科にて不整脈の研修を2年間行った後、不整脈診療以外に虚血性心疾患や心臓弁膜症、心筋症など、成人期の循環器疾患にも関わりました。
その後、千葉県循環器病センターにおいて小児循環器の診療、小児不整脈治療だけではなく、
一般的に移行期医療とは、慢性疾患をもつ小児の患者さんが成人になっても引き続き診療が必要になる場合、小児期医療から成人期医療へスムーズな橋渡しを行う医療のことです。小児の慢性疾患である喘息や糖尿病などは、成人の分野でもよくみられる病気のため小児期医療から成人期医療への移行がスムーズにできるのですが、先天性心疾患は成人後の診療体制がまだ整っていないのが現状です。
先天性心疾患とは、生まれたときから心臓に異常がある病気ですが、医療体制が不十分であった時代は、重症の先天性心疾患患者さんが成人に達することが難しく、成人の患者さんはほとんどみられませんでした。しかし現在では、医療体制の整備や外科手術の技術向上により成人を迎えることが可能になり、成人先天性心疾患患者さんの人数は1年で9,000人ずつ増加する傾向にあります。1990年くらいから心臓手術の成績が安定したため、40歳以上の重症の先天性心疾患患者さんは現在非常に少ないのですが、今後はどんどん増えていくと考えられます。
たとえば心室中隔欠損症や心房中隔欠損症などがあり、手術により回復された軽症の患者さんの場合、合併症がなければ成人に心臓の管理は不要となり、定期的受診を終了することとなります。しかし、ファロー四徴症などで心臓に穴が開いていて、なおかつ肺動脈が狭いといった中等度以上の先天性心疾患の患者さんは、生まれてから亡くなるまで心臓病と付き合っていかなければなりません。私たち医師は生涯にわたって注意深い観察や場合によっては治療を行う必要があります。
成人先天性心疾患の患者さんに必要なのは身体的な支援だけではありません。就学や就労などの社会生活、社会保障などの社会的問題や、精神心理的問題も出てくる場合があります。
たとえば、就職されるときは患者さんの負担にならない仕事を選ぶ必要があるでしょう。肉体的な労働が難しい場合もあるので、身体障害者手帳を取得いただくなど適切に制度を使っていただくように案内することもあります。就職してからも、周囲とのコミュニケーションの問題が起こることがあります。そのような悩みに対しては臨床心理士や精神科の医師と連携をとりながらサポートを行うことも大切です。また、お子さんを希望される患者さんには、妊娠、出産のリスクについて説明をして、サポートしていく必要があります。
病院で受ける医療というと、スポットで病気を治療して終わりという形が多いのですが、私たちの分野はそうではありません。病気は精神的な発達に強く関わり、患者さんのさまざまな場面に影響を及ぼしています。一般的に移行期医療といわれるのは小児期医療から成人期医療への移行のことであり、“患者さんの自立”と“成人診療科への転科”の2つを指します。ですが、成人してからもさまざまなライフステージがあり、老年期、終末医療への移行の問題もあります。
成人期への移行のみで完結するのではなく生涯医療として位置づけ、適切な支援を行う必要があると思います。そして我々医療者は、家族、友人、教育関係者、福祉関係者と共に患者さんを支援するチームの一員であると認識する必要があると考えます。
心臓を専門とする医師として、超音波検査、CT、MRI検査、カテーテル検査などの画像診断技術を持つことは必須です。さらに、治療手技として、心不全や不整脈の薬物治療・非薬物治療、カテーテル治療などが求められます。非薬物治療に関してはそれぞれ専門の医師として修練をするか、専門とする医師と連携することになります。診療の基本としては、症状が出る前から将来の罹病を予測して対応する必要があります。特に生まれつき体調の悪い患者さんの場合には、自覚症状がないことも少なくないからです。
先述のように、成人期の先天性心疾患の問題は多岐にわたります。米国では2015年にAmerican Board of Medicineのサブスペシャリティとして専門医制度が開始されました。本邦においては日本成人先天性心疾患学会において、2019年より前提専門医制度を開始、認定施設においての修練が開始、2022年度より正式な専門医制度が開始される予定です。
千葉市立海浜病院は日本成人先天性心疾患学会認定の成人先天性心疾患専門医の修練施設として医療トレーニングや人材育成に力を入れています。また、地域社会で移行期医療の理解がより深まるよう、地域の開業医が参加いただけるようなカンファレンスや講演などを行っています。
成人先天性心疾患は単独の診療科として患者さんの症状に対応することはできません。心臓血管外科などの医師や看護師、臨床工学技士、超音波検査士など、複数の科や医師とさまざまな場面で相談しながら、チームとして診療していく体制が基本となります。
産婦人科や新生児科との連携が必要になる場合もありますし、患者さんの日常生活をサポートするために、精神科の医師、臨床心理士、ケースワーカーなど、複数の診療科や医療スタッフと関わりをもつことも必要となります。その中で私たちは患者さんの医療面のマネージャーのような役割が求められます。
同じ目的で同じ方向を向きながら、チームとして仕事をしていくことはとても楽しく、やりがいを感じます。ときには医師やスタッフ間で意見が食い違うこともありますが、さまざまな視点から検討して意見をまとめていくため、よりよい方向に向かうことが多いです。
話し合いの際には、医療倫理の四原則を念頭において検討しています。医学的適応だけではなく、患者さんご本人の意向、QOL(生活の質)に及ぼす影響、家族や経済的社会的状況などの患者さんの周囲の状況も考慮しなければなりません。これは緩和医療と同じ考えではありますが、成人先天性心疾患のチーム医療ではなおかつ、患者さんの一生涯にわたって続くことが特徴ではないかと思います。
移行期医療を行う医師は、さまざまな医師や医療関係者と連携したうえで、患者さんのご意向をふまえ、不本意な理由から診療が中断されることがないよう、チームの中心的なマネージャーとして診療体制を整えていくことが期待されます。
移行期医療に携わることは、小児循環器医として胎児期から成人期、終末期に至るまで、人生の全てのステージに関われる喜びがあります。
現行の移行期医療はホームドクターのような役割を担う場合も多く、進学、就労、出産、成人期の病気(がん、脳卒中、虚血性心疾患、糖尿病、生活習慣病など)や終末期まで、さまざまな人生のイベントを患者さんと共有します。悩むこともあれば、共に喜んだりすることも多くあります。患者さんにもよっては、診療を通して仕事から趣味のことまでお話を伺うこともあります。さらには、患者さんご本人だけでなく、親御さんやお子さんなどご家族とも関わることになります。パートナーを紹介していただいたり、お子さんと一緒に来ていただいたりする機会も多く、治療だけでなく患者さんの人生の身近な存在として寄り添っていくことができる楽しさも感じています。
近年は若いうちから移行期医療に関わる医師が増え、年齢の幅が広がってきたと感じます。
循環器疾患の移行期医療は2面性があり、さまざまな経験を積むことのできる分野であると思います。心臓という臓器を扱うため緊急の対応を求められることもあり、適切なエコー診断やカテーテル治療などの技術は最低限必要となります。そして、そのようなダイナミックな医療を行いながらも、人として患者さんと向き合いながら精神面のケアや生活のサポートを行い、窓口としてさまざまな医療関係者を束ねていくマネジメント力も大切となるのです。
若い医師が移行期医療に取り組んでいくことは、患者さん一人ひとりの長い人生をサポートしていくうえで必要なことです。意欲ある医師がますます増えていくことを期待しています。
この記事を見て受診される場合、
是非メディカルノートを見たとお伝えください!
千葉市立海浜病院
うさぴょんこどもクリニック 院長、千葉市立海浜病院 小児科 非常勤医師
橋本 祐至 先生
千葉市立海浜病院 小児科 、千葉市病院 前事業管理者
寺井 勝 先生
千葉市立海浜病院 循環器内科
丹羽 公一郎 先生
千葉市立海浜病院 副院長、救急科統括部長
織田 成人 先生
千葉市立海浜病院 診療局長(外科)
吉岡 茂 先生
千葉大学医学部 臨床教授、千葉市立海浜病院 診療局長
齋藤 博文 先生
千葉市立海浜病院 産科・婦人科 統括部長
飯塚 美徳 先生
千葉市立海浜病院 小児外科 統括部長
光永 哲也 先生
千葉市立海浜病院 乳腺外科 乳腺外科統括部長
三好 哲太郎 先生
千葉市立海浜病院 循環器内科 統括部長
宮原 啓史 先生
千葉市立海浜病院 耳鼻いんこう科 統括部長
大塚 雄一郎 先生
千葉市立海浜病院 脳神経外科 科長
吉田 陽一 先生
千葉市立海浜病院 小児科 部長
小野 真 先生
千葉市立海浜病院 新生児科 統括部長
岩松 利至 先生
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