DOCTOR’S
STORIES
臨床遺伝専門医として力を尽くす飯塚 美徳先生のストーリー
2004年より千葉市立海浜病院に入職し、現在産科・婦人科の統括部長を務めています。
千葉市立海浜病院は2010年5月に地域周産期母子医療センターの認定を受け、新生児科と産科の連携体制による周産期医療*を提供していることが特徴です。NICU(新生児集中治療室)は2022年2月現在で21床あり、産科では新生児科と協力しながら多胎妊娠、合併症、胎児の異常などのハイリスク妊娠で早産児や低出生体重児の出生が予測される妊婦さん、胎児に問題があると考えられる妊婦さんを重点的に診療しています。婦人科は、月経に関すること、更年期から老年期にかけての体の変化に伴う病気など、良性疾患を中心に治療を行っています。
ハイリスク妊娠を多く診療する当院に限ってではありませんが、産科は考えなしに「おめでとうございます」と言える、常にハッピーな現場というわけではありません。妊娠や出産後にさまざまな問題が起こることもあります。その問題に直面する患者さんとそれぞれどう向き合い、この先どのような医療を提供していくのかまで、しっかりと考えることが大切だと日々感じています。
また2021年から“遺伝カウンセリング外来”を本格的にスタートさせ、事前カウンセリングのもとで出生前診断を行っています。私自身は2004年の秋に日本遺伝カウンセリング学会認定の臨床遺伝専門医の資格を取得しました。
*周産期医療:妊娠22週から出生後7日未満までの期間、産科・小児科などが連携して母児双方を総合的に診る診療体制のこと
私は子どもの頃はパイロットになることを夢見ていました。しかし成長するにつれパイロットは不向きかもしれないと感じていたところ、『ブラック・ジャック』の影響もあり、医師が憧れの職業へと変わっていきました。そして医学部に入学し、お世話になっていた剣道部の先輩にすすめられ産婦人科の領域を選びました。大学院では分子生物学の基礎研究に携わり、その後留学を経験しました。
臨床遺伝専門医の資格を取得するきっかけは、分子生物学の研究でDNAなどを扱っていたため、臨床遺伝学のアプローチが新鮮で興味を引かれたこともあったと思いますが、研究の世界から臨床の現場へと戻ったころ、ある妊婦さんの出産に携わった経験にあります。
その方は遺伝性の病気をお持ちで、出生前診断を希望され、検査の後に元気なお子さんを出産されました。しかし出産後に「実は、出生前診断でこの子が病気だったら妊娠を中断していたし、こんな罪深いことをしたのなら今後妊娠は絶対しないと決めていた」と、その時抱えていらっしゃった思いを話されたのです。私は「検査をして、元気で生まれてよかった」と思っていたのですが、病気を持ちながら出産される妊婦さんのお気持ちを事前にしっかりと伺えていれば、という思いでした。
その経験から、出生前診断をする方の中でもそれぞれいろいろな思いを抱えていらっしゃること、そして事前のカウンセリングがいかに大切であるかを強く感じ続けています。
千葉市立海浜病院では羊水染色体検査や妊娠中期母体血清マーカー検査などの出生前診断を、遺伝カウンセリング外来での事前カウンセリングのうえで行っています。
出生前診断では患者さんご本人が望む結果を必ず得られるとは限りません。また、ご本人が予想しているものとは別の項目で異常が発見される場合もあります。検査結果により患者さんの負担が大きくなる場合は、妊娠中断という選択肢もやむを得ない場合があります。まれにですが、未認可の施設が患者さんに事前の適切な説明のないまま出生前診断を行い、トラブルとなったケースも報告されているようです。出生前診断は、お子さんが生まれた後の生活まで含めたあらゆる事態を想定し、また患者さん一人ひとりの体質なども鑑みて、カウンセリングのうえで選択する必要があるのです。
当院で実施している遺伝カウンセリングと出生前診断の詳細は以下のとおりです(保険適用外となります)。
羊水染色体検査は染色体疾患の確定検査で、染色体疾患は出生児の疾患の一部にすぎず、羊水染色体検査で全ての疾患が診断できるわけではありません。出生児の3~5%は何らかの治療が必要な症状が認められるといわれています。また、羊水染色体検査は侵襲的な検査のため、検査後に流産する場合があります。
母体血清マーカー検査は採血により3つの疾患に対して確率を算出する検査であり、陽性判断基準より確率が高いと検査陽性の結果になります。偽陽性の可能性がある非確定検査であるため、確定するためには羊水染色体検査などの確定検査が必要となります。
最近は、妊娠や出産に関する情報がインターネット上にあふれ、情報過多になっている方も多くいらっしゃるのではないかと思います。出生前診断は事前に、患者さんが知りたいこと、知りたくないことについて、さらに知りたいことはどこまで知りたいのかなどについて、患者さんの意見を丁寧に聞いて尊重し、適切な説明を行うことが大切です。それは医師として時間的にも気持ちのうえでも、妊婦健診の片手間などで行うことは難しいものです。
千葉市立海浜病院は遺伝カウンセリング外来を創設し、週に1日、私を含めた臨床遺伝専門医の資格を持つ医師のもと、遺伝カウンセリングを受診できる環境を整えています(毎週水曜午後、予約制)。まず患者さんのお気持ちを受け止めたうえで、料金を含め検査の内容を丁寧にご説明、ご提案させていただき、検査を行う場合は患者さんが自立性をもって内容を選んでいただけるように努めています。
出産に立ち会い、「おめでとうございます」と伝えられる喜びは産科の医師としてかけがえのないものです。私の所で1人目のお子さんを出産し、2人目の出産にも来ていただいた患者さんには、うれしく思うと同時にさらによりよい出産をサポートして差し上げたい、と気持ちが引き締まります。
出産に関してのお考えは、お一人おひとり違います。患者さんに寄り添った医療を今後も目指して参ります。
また、社会の移り変わりもあってハイリスクな出産が増えているため、周産期医療の現場は夜間の勤務が多くなったり、肉体的にハードな部分もあったりします。出産や生活スタイルの変化によって現場を離れる女性スタッフもいます。だからこそ、私は医師の働き方改革を目指し、私自身、当直明けはすぐ帰宅して半日休むようにし、医師やスタッフにもそうするように伝えています。
私のチームには女性の医師やスタッフたちが多く在籍していますが、ご家族の協力のもと、日々熱心に診療に取り組んでいます。ダラダラ働くのではなく、働くときは働き、休むときはきちんと休む。オン・オフをつけ、きちんとリセットすることが医師のモチベーションにつながり、患者さんに対してもよい影響を与えられると考えています。
臨床遺伝学はこれからますます医療で重要なポジションになり、“プレシジョン・メディシン”が求められる時代になるでしょう。産婦人科でいうと周産期医療で当然必要ですが、
また、英語を習得しておくこともおすすめします。私も経験がありますが、留学時に必要なのはもちろん、医師として海外の資料を読んだり書いたりするとき、苦労をする場面もあると思います。
そして、医師として患者さんに優しくあることは何より大事なことです。患者さんは妊娠、出産においてさまざまな悩みを抱えていらっしゃいます。話しやすい雰囲気が感じられないと心を閉ざしてしまうこともあるでしょう。患者さんの声を傾聴すること、医師が一方的に話すのではなく、まず患者さんのお話を聞いて心の中の訴えを引き出すことがとても大切です。
社会の変容に伴い、臨床の現場は今後さらに変化していくかもしれません。その中でも患者さんに寄り添った医療を提供できるよう、ぜひ努力を重ねてください。千葉市立海浜病院の産科・婦人科も、医師の働き方を含め、柔軟に体制を強化していくつもりです。
この記事を見て受診される場合、
是非メディカルノートを見たとお伝えください!
千葉市立海浜病院
うさぴょんこどもクリニック 院長、千葉市立海浜病院 小児科 非常勤医師
橋本 祐至 先生
千葉市立海浜病院 小児科 、千葉市病院 前事業管理者
寺井 勝 先生
千葉市立海浜病院 循環器内科
丹羽 公一郎 先生
千葉市立海浜病院 副院長、救急科統括部長
織田 成人 先生
千葉市立海浜病院 診療局長(外科)
吉岡 茂 先生
千葉大学医学部 臨床教授、千葉市立海浜病院 診療局長
齋藤 博文 先生
千葉市立海浜病院 小児科 成人先天性心疾患診療部 部長
立野 滋 先生
千葉市立海浜病院 小児外科 統括部長
光永 哲也 先生
千葉市立海浜病院 乳腺外科 乳腺外科統括部長
三好 哲太郎 先生
千葉市立海浜病院 循環器内科 統括部長
宮原 啓史 先生
千葉市立海浜病院 耳鼻いんこう科 統括部長
大塚 雄一郎 先生
千葉市立海浜病院 脳神経外科 科長
吉田 陽一 先生
千葉市立海浜病院 小児科 部長
小野 真 先生
千葉市立海浜病院 新生児科 統括部長
岩松 利至 先生
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まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。