安全を目指し患者さんも医師も大切にする環境づくりを

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安全を目指し患者さんも医師も大切にする環境づくりを

日々の積み重ねから医療の発展を目指す大塚 雄一郎先生のストーリー

千葉市立海浜病院 耳鼻いんこう科 統括部長
大塚 雄一郎 先生

内科・外科の両面を持つ耳鼻咽喉科の魅力

小学生から高校生くらいまで喘息(ぜんそく)を患っていたため病院によく通っており、いろいろな先生と接する機会がありました。そのような経験もあって、一生をかけてスキルアップし学んでいけると感じた医学の道を志しました。

初期研修の際に、内科の病気であっても診断や治療には外科的処置が不可欠であるという現場での経験から、手技の重要性を感じました。とはいえ、もともとは診断や鑑別に関心があったものですから、内科的な診断の要素もあり手技も必要とされる耳鼻咽喉科(じびいんこうか)に進むことを考えました。

耳鼻咽喉科は耳、鼻、のど、頸部のさまざまな病気を扱うため診察範囲が広く、対象年齢も新生児から高齢者までと幅が広いです。しかし私が研修医の頃は診療の場で使えるような耳鼻咽喉科の教科書がほとんどなく、調べても答えが見つからないような時代でした。そもそも耳、鼻、のどを見ること自体に技術が必要で、見ることのできる人間にしか分からないという世界でありました。だからこそ“実際にはどうなっているのだろう”と分からないことを追求していくことに魅力を感じました。

耳鼻咽喉科を専門に経験を積んでいくうちに、CTなどの画像情報から“実際はこうなっているのではないか”、“手術ではここが問題になるのではないか”というような画像の見方や先読みのスキルが身についていきました。私としてはそういったところもこの領域の面白さや、スキルアップを実感できる瞬間の1つであると感じています。

日々の積み重ねから耳鼻咽喉科診療の発展を目指して

臨床では、基本に則ってコツコツと経験を積み重ねていくことが大切だと考えています。同じ病気でも症例はさまざまあり、日々の診療の中で分からなかったことや疑問に思ったことはとどめておいて、後で振り返ることができるようにしています。

実際に1年に1例ほど首が動かず、のどの後ろが上から下まで腫れている患者さんを診察することがありました。なんという病気か分からず疑問に思っていたのですが、たまたま参加した学会で、その病気は石灰(せっかい)沈着性(ちんちゃくせい)頸長(けいちょう)筋腱炎(きんけんえん)という整形外科領域の病気であることが分かりました。症例が8例集まり、論文を投稿するまでに至りました。

日々の診療の中で疑問に思うことを解決していくと、それが思いもよらず大事な発見につながることもあります。経験の蓄積を当院だけでとどめるのはもったいないので、学会などでほかの先生方に共有したり、啓蒙を図ったりしています。そういったアクションが日々の診療技術の向上だけでなく、日本の耳鼻咽喉科診療全体が発展していくためのステップアップにつながればいいなと思っています。

手術は一つ一つの手技の積み重ねが大切です。過去には十分な治療効果を得られなかった病気が月日とともに納得のいく結果を得られるようになったのは、手術実績をコツコツと積み上げてきた結果だと考えています。近年の医療水準の向上、特に手術機器の進歩には目を見張るものがあります。その結果、現在行われている手術は過去に比べて、術後の患者さんのQOL(生活の質)や手術成績が大きく向上している実感があります。

一方で、手術設備の有無が患者さんのQOLに影響するケースもあります。当院に必要な設備や技術が欠けている場合は、“患者さんにとってよりよい医療を提供する”というポリシーのもと、設備や技術を有するほかの病院に治療をお願いすることを厭わないようにしています。

千葉市立海浜病院 耳鼻いんこう科の役割と特徴

当科では市民の皆さんの健康をお守りする病院として、耳、鼻、のど、頸部の病気や手術に幅広く対応しています。その中でも顎下腺唾石症(がっかせんだせきしょう)(あごの下にある唾液をつくる組織にできる石によってあごの下が腫れる病気)には、患者さんの体への負担が少ない低侵襲(ていしんしゅう)手術を積極的に行っています。一般的に顎下腺唾石症に対しては頸部を切開する顎下腺全摘術が行われています。しかし数mmの石を摘出するのに頸部を約5~6cmも切開するというのは、傷が残るほか体への負担も大きくなります。当院では唾液腺内視鏡手術と口の中から唾石を摘出する口内法を組み合わせて低侵襲手術を行っています。

当院は産科・婦人科、新生児科、小児科に特に注力している病院です。また、小児の救急搬送を受け入れています。そのため、耳鼻咽喉科でも小児疾患が多いのが特徴で、小児難聴やいろいろな合併症のある赤ちゃんを診ることが非常に多いです。

学生のときには小児科の先生から、“子どもは大人を小さくした存在ではない”という言葉を聞かされました。大人と子どもでは生理機能が大きく異なるという意味ですが、体が小さいというだけでも大人と同じ理屈が通用しないこともあります。

たとえば大人では指で手術操作ができる場面でも子どもでは指が入らないこともあります。また、体の体積に比して気道の面積が小さいので少し気道が狭くなるだけでも呼吸に影響が出やすいということもあります。子どもの耳鼻咽喉科領域の病気については情報が少ないこともあって、医師がイメージしている以上のリスクが潜んでいる可能性もあります。ちょっとしたことから取り返しのつかない結果になることもあるため、体が小さければ小さいほど慎重な対応を心がけています。

現場の環境整備と安全管理に尽力

手術が成功しなければ、患者さんはもちろん医師も救われません。ですので、安全に手術ができる環境を整備することが大切だと考えています。後進の医師たちに対しては手術の手技をどこまで理解し習得しているのかをきっちり確認して進めるなど、安全管理に努めながら指導しています。それが患者さんのためでもあり、未来ある医師のためでもあると思っています。

また、手術を行うには手技を向上させるだけでは不十分です。症例を集めるために開業医の先生方との信頼関係を築き、手術の進歩に合わせて必要な知識や機器をそろえる必要があります。そのためには自身でも学会で学ぶなどして、手術の勉強ができる環境を整えています。

診療や手術の環境を整えるのは家事と同じだと思います。“こちらのまな板のほうが使いやすいので変えよう”、“食洗機には入らないからこれは買い替えよう”というように、状況に応じて対応します。そういったことを繰り返すことで、手術環境の整備に努めています。

一人ひとりがスキルアップできる職場に――後進に向けたメッセージ

先述のとおり、当院は産科・婦人科、新生児科、小児科に注力していますので、さまざまな新生児、小児の症例を経験することができます。また、小児の救急疾患について経験を積むことができるという点も当院の特徴の1つかと思います。

私はこれまでイタリアやオーストラリアなどの施設で解剖実習や手術見学をさせていただきました。解剖実習は通常の手術では見ることができない危険領域を体験することができます。また海外のゴッドハンドといわれる先生の手術は大変刺激になりました。とはいえ現在は1人のゴッドハンドによって全ての手術が成立する時代ではありませんから、一人ひとりが実力をつけてスキルアップできるよう、この先海外での勉強なども視野に入れることをおすすめします。

最近の学生さんや若い先生はもともと優秀ということにも加えて、教育環境が良好なこともあり非常にスキルが高い印象です。スキルアップを目指す先生たちがより勉強できるような環境、一生懸命働けるような環境を整備することで、多くの知識を吸収して経験を積んでいっていただきたいと期待しています。

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  • 千葉市立海浜病院 耳鼻いんこう科 統括部長

    大塚 雄一郎 先生の所属医療機関

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