世界の脳卒中診療の発展を見据え、地域の医療課題の解消を

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世界の脳卒中診療の発展を見据え、地域の医療課題の解消を

“垣根の低い脳神経外科診療”を目指す吉田 陽一先生のストーリー

千葉市立海浜病院 脳神経外科 科長
吉田 陽一 先生

脳神経外科の新設により地域の課題へ取り組む

千葉市立海浜病院は2023年4月に脳神経外科を新設しました。当院は2026年に新病院を開院することになっており、これまでの周産期・小児医療中心の病院から、より幅広い患者さん受け入れる病院へと変化すべく診療内容の拡充が求められていました。

また、全国的に高齢の方の人口増加に伴い脳卒中を発症する方も増加傾向にあります。千葉市周辺の医療圏では、搬送困難症例が多発していることが地域の課題となっており、軽症・中等症の脳卒中患者さんや脳卒中が疑われる患者さんはその対象でした。そこで、脳卒中診療の中核施設である大学病院と連携して対応できる病院の存在が求められていました。

この2つの背景が重なり、脳神経外科を新設することになりました。

“救急を土台にした脳神経外科診療”を掲げて

私は2022年に当院に入職し、脳神経外科の開設準備に携わりました。“救急を土台にした脳神経外科診療”を目標に掲げ、新設に至るまでの約1年間はまさにゼロからのスタートでした。この準備期間では、脳卒中患者さんを中心に脳外科手術を必要としない保存的治療で入院が必要な患者さんへの診療体制を整えることを目標に準備を進めました。

私自身は救急科に所属し、脳神経疾患で救急搬送される患者さんの受け入れを開始し、千葉市の課題に対する取り組みを進めました。2022年は新型コロナウイルス感染症が蔓延を繰り返す時期でしたが、当院では救急科の先生方によって新型コロナウイルス感染症の診断をスムーズに行うことができる流れが確立されていました。そのおかげで、発熱があり脳卒中の疑いがある患者さんでも、新型コロナウイルス感染症であることを否定さえできれば即座に脳卒中患者さんとして診療することができ、積極的に患者さんを受け入れることができました。また「当院は今、脳神経外科医もいますので脳神経疾患の救急対応が必要な患者さんがいたら搬送してください」と救急隊の方へ直接声がけするなど、院内外で少しずつ脳神経外科の存在を広めることに尽力しました。

一緒に診療にあたる看護部のスタッフには、外来、病棟、手術部門それぞれと打ち合わせや研修を行ったほか、放射線科、リハビリテーション科との事前打ち合わせや勉強会も行いました。また、脳卒中の患者さんのほとんどが転院を必要とするため地域連携室との協力も欠かせません。準備段階から転院先の相談などにも乗っていただくなど、医療ソーシャルワーカー*の親身な対応もありスムーズに準備を進めることができました。

*日本医療ソーシャルワーカー協会 認定

手術機器を充実させ、技術力・機動力の高いチームを目指す

治療においては、大型画面に映し出された立体映像を見ながら執刀できる外視鏡を導入し、手術機器を充実させることにより大学病院との連携を見据えた準備も進めました。これまで顕微鏡下で行っていた手術を術者の肩や腰に負担がかかりにくい体勢で行うことができ、術者だけでなく周りのスタッフ皆で術者と同じ画面を見ることができるため、教育的な側面からもメリットがあると感じています。

実際に診療がスタートした今年度からは、よりよいチーム作りのために脳神経外科診療に関係する全ての職種で毎週ミーティングを行い、術前術後に具体的な症例の提示や振り返りを重ね、密に情報共有しています。迅速な対応が求められることが多い脳神経外科診療ですが、その場面の一例として脳梗塞(のうこうそく)の血栓回収療法があります。救急隊の一報を受けてどう動き始めるか、誰がどこに連絡しどう準備するかを繰り返し相談しながら、1つのワークフローを設定しました。また患者さんを受け入れるたびにミーティングを開き、対応や治療についての振り返りを重ねています。2023年12月現在の治療実績は6件(2023年6月~12月)と、まだ1年目ですから件数は多くありませんが、機動力の高い医療体制が構築できてきていることを実感する日々です。

“垣根の低い脳神経外科”でありたい

当科は“垣根の低い脳神経外科”を目指し、日々診療にあたっています。救急隊、患者さんともに軽症・重症にかかわらず、脳卒中を疑ったらまず相談してほしいと思います。脳神経外科というと、いったん構える患者さんもいらっしゃるかもしれませんが、気軽に相談してもらえる脳神経外科医でありたいと思っています。

脳卒中を発症しないに越したことはありません。生活習慣を見直して病気を予防することはもちろん、1分1秒を争う病気ですから、すぐに救急車を呼ぶ意識を持ってもらうことも大切です。啓蒙活動による交流を通じて地域の皆さんとの距離を縮め、相談しやすい関係を作ることが理想です。当院のスタッフにも協力してもらいながら、さらにその輪を広げていきたいと考えています。

私は脳神経外科医として千葉市周辺で働くことが多かったこともあり、これまでも千葉市の救急体制や脳卒中診療体制をよりよくしていきたいという強い思いがありました。救急隊の搬送先として当院が定着し、ほかの施設ともうまく役割分担しながら搬送困難症例を減らしていくことができればうれしいです。

“憧れないこと”で自分の土俵を作り、医療の発展につなげていきたい

私の医療者としてのモットーは、ひと言で言うと“憧れないこと”です。医療の世界には素晴らしい実績を持つ優秀な方がたくさんいますが、彼らに憧れてしまっては単に縮小コピーになるばかりで、彼らを越えることはできないでしょう。それぞれの素晴らしい点を見て取り入れつつも自分のよさや目標を持ち、それぞれが違う土俵を作って取り組んでいくことが自分自身の成長だけでなく、ひいては医療全体の進化につながると考えています。

また、今できることに甘んじることなく常に状況に応じて変化する力も、人として、医師として大事な力だと思います。私が脳外科医になってから今日までの十数年間で脳梗塞の治療はめまぐるしく変化しました。以前はなかった治療法が徐々に確立され、のちに必要不可欠な治療になる、そういったブレイクスルーは今後も起こってくることでしょう。今日の当たり前が明日の非常識になることもあり得ます。受け身になることなく、変化の中でよりよい形を求めながら順応できれば、またその先に世界が開けて充実感につながっていくのではないでしょうか。

現在日本では全国的な脳卒中診療の標準化に取り組んでおり、これを達成できたなら世界のモデルとなるのではないかともいわれているそうです。都市型の医療圏といえる千葉市から、それぞれに課題を抱えた千葉県全体に目を向けると、日本全体の脳卒中診療の縮図と捉えることができます。目の前の課題を一つひとつ解決していくことで、千葉市の取り組みが千葉県に、全国に、そして将来的には世界中に広がり、脳卒中診療の標準化が進んでいくかもしれません。その流れに自分が関わり、今後の変化を経験できるとすれば素晴らしいことだと思います。

一人ひとりの特性に合わせた指導を大切に

後進医師への指導においては、まずは外科医として常に手を動かす機会を持てるよう意識して指導しています。手技の向上のためには、たくさんの経験を積むことが欠かせません。それと同時に3ステップ(まずは見て、上級医と一緒に行い、1人で行えるようにすること)を意識した指導を行うことで、安全性の担保にも十分配慮しています。

また“これ”という決まりきった指導法を行うのではなく、一人ひとりの特性を見ながら指導するよう心がけています。言葉で理解するタイプなのか、実際に経験したほうがよいタイプなのか、慎重なタイプなのか、積極的なタイプなのか、それぞれの特性に合わせてどのように指導していくかが大事だと考えています。

症例、診療、手術手技全ての分野でどんどん経験を積んでほしいと思っていますが、一方で負担が大きくならないよう、当直や受け持ち患者数の割り振りがなるべく平等になるようにも努めています。

新病院の完成も間近に迫るなかで新しい設備機器もそろい、当科は脳神経外科としての体制が整いつつあります。さらに人数が集まれば、より大勢の患者さんを診療できるようになり、症例も増え、よりよい医療を提供できるようになっていくことでしょう。進化しつつある病院の雰囲気を体感しながら、ぜひ一緒に脳神経外科を盛り上げてほしいです。

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  • 千葉市立海浜病院 脳神経外科 科長

    吉田 陽一 先生の所属医療機関

    千葉市立海浜病院

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