父が歯科医だったため、高校生までは歯科医になろうと漠然と考えていました。しかし父の助言もあり、全身を診る医師を志すことにしました。外科を志望していたのですが、自身の特性や性格を考え内科系に進むことを決め、中でも特に小児科に関心を持つようになり大学病院の小児科に入局しました。
医師になって2年目に千葉市立海浜病院の新生児科に半年間研修に来て、日々の診療の中で純粋に新生児科診療に面白さを感じたのを覚えています。
さらに、その後赴任した地方の病院で当直医として救急医療に携わったことをきっかけに、救急医療ができる医師を目指すようになりました。小児科医としてのバックグラウンドもあったことから、医師7年目に新生児科医としてのキャリアをスタートしました。以後30年弱、新生児科医として千葉市立海浜病院に勤務しています。
新生児科医としてやはり一番うれしいのは、重症だった赤ちゃんが元気になって退院していく姿を見る瞬間です。また、いわゆるNRFS(胎児機能不全)の状態で生まれ、呼吸がなく心臓も止まりそうになっていた赤ちゃんが、救急処置によってあっという間に良好な状態になるときにも、新生児科医になってよかったと感じます。
急性期の救急医療の後には、その患者さんの発達のフォローアップという重大な仕事が長期にわたって続きます。うれしいことばかりではなく、頭を抱える局面が多いことも現実です。そのようななかで、新生児科に進む前に小児神経学を専門としていたことが役立っていると思う場面があります。たとえば患者さんがリハビリテーションを始めるタイミングについて、小児神経学の観点から判断する場面です。その結果治療が功を奏し、基礎疾患として染色体の病気を持っている患者さんが元気に成長して、5歳を過ぎて歩けるようになったことがありました。そのときに患者さんの保護者の方からいただいた感謝の言葉は今でも印象に残っています。これまで学んできたことや経験を生かして患者さんを支えられることは、医師として非常にやりがいを感じる瞬間の1つです。
私はこれまで30年弱、新生児科医として小さな命と向き合ってきました。もともとNICU(新生児集中治療室)は、とにかく仕事が大変というイメージを持っており、周りからも「長くは続かないのでは」と思われていたほどです。私自身こんなに長く新生児科医を続けるとは最初は考えてもみませんでしたが、いざ振り返ってみると、医師が少ないなかでも“地域を支えなくては”という使命感を原動力としてここまでやってきたように思います。
最近はメディアの影響もあり、周産期医療や新生児科の認知度も上がってきているようで、興味を持ってくれる医学生や新生児科を希望する研修医も増えてきました。それでも全国的に見ると千葉県はまだまだ新生児科医が少ない状況ですので、安心して後進に任せられるようになるまで、これからも新生児科医を続けていきたいと思っています。
当院は風通しのよい雰囲気があり、他科の先生方と相談しやすく連携が取りやすい環境です。診療科間の垣根が低いところも当院の魅力の1つでしょう。
新生児科の場合、やはり小児科の先生方と深く関わります。新生児科で長期の入院を必要とする患者さんでは、診療を小児科の先生にバトンタッチし、NICUから小児病棟に移っていただくケースもあります。当院では小児科の先生による強力なバックアップ体制があるため、入院が長期になりそうな方や人工呼吸器や胃チューブを日常的に必要とする方の退院後のフォローまで、院内でスムーズに対応することができています。医療的ケア児へのサポートは転院を伴うケースもあるため、院内で一貫してサポートできることは当院の大きな特色の1つといえます。
また小児科だけでなく病理診断を専門とする医師や臨床心理士*、理学療法士との連携のほか、地域連携室のソーシャルワーカーとも連携しています。退院後も療育が必要な場合は地域の支援施設などにつなぐことができるため、継続的にサポートを受けられることも当院の強みです。
そして何より、地域周産期母子医療センターとして近隣病院と連携しながら千葉市と近隣の市の患者さんをしっかりと受け入れる地域医療を支えることが、当院の大きな役割であると考えています。
*日本臨床心理士資格認定協会 認定
新生児科診療の基本は“適切な処置を速やかに行うこと”だと考えています。退院後のさまざまな連携やフォローももちろん大切ですが、命を助けて初めてその後がありますから、生まれた直後、入院してきた直後に適切な処置を速やかに行うことこそが新生児科医に求められていることといえるでしょう。
また、いくら医療が進歩しているとはいえ何でもできるわけではないことを医療者はもちろん、出産されるお母さんやご家族にも認識していただくことが必要なのではと考えています。周産期医療は赤ちゃんが生まれてからではなく、妊娠して命が宿る瞬間から始まります。社会の流れとして高齢出産の方が増えたことに伴い、ハイリスク妊娠の要素が増えている現実もありますので、まずはきちんと妊婦健診を受け、胎児の段階から赤ちゃんの状況を定期的に把握することも欠かせないでしょう。
これまで新生児医療は“後遺症なき生存”を目指すことに重きを置いてきましたが、医療の進歩に伴い、何をもってどの程度を後遺症とするのか、数字だけで判断するのが難しい段階にきていると感じています。後遺症なき生存を目指すことだけに固執せず、処置後の経過観察のなかでお子さんやご家族に寄り添いながらどのようにフォローしていくかを大切にしたいと思っています。
当院は2026年度に新病院を開設することになっており、完成すると千葉県内で一番新しい周産期施設になります。新しい病院では診療科も今よりも増えますので、当院への入職を志望する方が増えてくれたらと願っています。
若い先生方にはあまり気負わずに、まずは楽しく研修を受けていただきたいです。必要な知識は専門としてそれぞれの道を選んだ後に十分身につけることができます。研修を振り返って「新生児科診療もちょっといいかもしれないな」と周産期や新生児の医療に興味を持ってもらえたらうれしいです。
また最近当院には、新生児科の研修後も当直業務を手伝ってくれたり、ずっと新生児医療に関わってくれたりする小児科の先生方がいらっしゃいます。専門性を突き詰めるのも素晴らしいことですが、小児科、新生児科、救急とさまざまな分野を幅広く診療できることも、もっと高く評価されてもよいのではないかと感じています。キャリアの選択肢は広がってきていますので、時には先輩医師に相談しながら、ぜひ広い視野を持って研修に来ていただけたらと思います。
この記事を見て受診される場合、
是非メディカルノートを見たとお伝えください!
千葉市立海浜病院
うさぴょんこどもクリニック 院長、千葉市立海浜病院 小児科 非常勤医師
橋本 祐至 先生
千葉市立海浜病院 小児科 、千葉市病院 前事業管理者
寺井 勝 先生
千葉市立海浜病院 循環器内科
丹羽 公一郎 先生
千葉市立海浜病院 副院長、救急科統括部長
織田 成人 先生
千葉市立海浜病院 診療局長(外科)
吉岡 茂 先生
千葉大学医学部 臨床教授、千葉市立海浜病院 診療局長
齋藤 博文 先生
千葉市立海浜病院 小児科 成人先天性心疾患診療部 部長
立野 滋 先生
千葉市立海浜病院 産科・婦人科 統括部長
飯塚 美徳 先生
千葉市立海浜病院 小児外科 統括部長
光永 哲也 先生
千葉市立海浜病院 乳腺外科 乳腺外科統括部長
三好 哲太郎 先生
千葉市立海浜病院 循環器内科 統括部長
宮原 啓史 先生
千葉市立海浜病院 耳鼻いんこう科 統括部長
大塚 雄一郎 先生
千葉市立海浜病院 脳神経外科 科長
吉田 陽一 先生
千葉市立海浜病院 小児科 部長
小野 真 先生
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現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。