外科医に終わりはない

「外科医に終わりはない」

常にスキルを磨き続ける佐田尚宏先生のストーリー

自治医科大学病院長 消化器・一般外科

佐田 尚宏 先生

手に職をつけるか、頭脳に職をつけるか……、で外科医を選んだ。

私が外科医の道を選んだのは、手に職をつけようと思ったからです。外科医とは手技を磨いて手に職をつける職種で、内科医とは診察眼を養い頭脳に職をつける職種だと私は考えています。このどちらを選ぶかと考えたとき、私は自身の手技を磨き、その技術で人を救っていきたいと思いました。これが、外科医を選んだ理由です。

また、医師を志す人は、「診断」が好きな人と、「治療」が好きな人に大きく分けられると思います。私は治療が好きで、外科とはまさに治療がすべての領域だと思っています。手術によって患者さんを治せるか否か、外科とは結果がすべての世界なのです。そうした治療に没頭できるところが、私は好きでした。

しかし、外科医は手術をこなすことがゴールではありません。いかにMortality(死亡)をゼロにできるか、いかにMorbidity(合併症発生率)をゼロにできるかを考えなくてはいけません。そうした目標を持つのであれば、おのずと色々なことを考えて日々の手術に立ち向かわなくてはなりません。

つまり外科医とは終わりがなく、常に挑戦し続ける職業なのです。しかし、このように高い意識を持ち続けることができる点は、外科医の大きな魅力でもあると感じています。

手術の成績を向上させたい、そうして選んだ「肝胆膵」の道

外科医のなかでも胆膵の領域を選んだのは、2つの理由があります。

1つ目の理由は、当時、手術成績が優れず、また長期成績もよくない膵臓がんの治療を何としても向上させたいと思ったからです。

そしてもう1つの理由は、肝胆膵分野は、消化器グループのなかでも難易度の高い手技が求められる分野であったためです。たとえば膵頭十二指腸切除術(PD)は非常に高度な技術が求められ、消化器外科手術のなかでは最も難易度が高いとされています。また、膵臓・胆道は体の奥深くに位置しているので、内視鏡を使った検査や手術は特に難しいのです。

せっかく外科医の道を進むのだから、こうした高いスキルを身につけ、一人でも多くの患者さんを救っていきたい。こうして私は、肝胆膵分野の道を選んだのです。

ドイツで触れた「医療者と一般生活者の感覚のズレ」

研修を終え、学位を取得し、卒後10年の節目を迎えた私は、ドイツのデュッセルドルフ大学へ留学することになりました。

デュッセルドルフは日本人が数多く住んでいることで有名な街です。現地では日本人のコミュニティがつくられ、日本人同士が交流していました。デュッセルドルフに住む日本人の多くは海外転勤などで滞在しているサラリーマンがほとんどで、医療従事者は非常に少なかったのです。私もそこに加わっていたのですが、そのコミュニティで過ごすうちに「医療者と一般生活者との感覚のズレ」を大きく感じるようになっていきました。それは、日本のエリートといえる一流会社の海外駐在員の方々ですら、抱いている医療に対するイメージが私達医療従事者とは大きく異なっていること、多くの場合は非常に基本的なことさえも実はよく知られていないことに気がつきました。大学病院では、「大学病院なので高度で難易度の高い手術でも、積極的に挑戦していいんだ」というような風潮がありました。しかし患者さんからすると、手術とは医師に命を預け、自分の人生を左右するかもしれない、非常に重要な出来事です。難易度の高い手術であればなおさらのことです。このギャップを埋めるために、公正な医療情報を流通させること、医療者と患者・家族の方が十分にわかり合うことの重要性を再認識しました。

「医師と一般の方ではこんなにも意識が違うのか。」

私にとってこの感覚を抱いたことは大きな経験でした。このことこそ、私がいかにMortalityをゼロにできるか、Morbidityをゼロにできるかというポリシーを貫く原動力になっているように思います。

大学病院から一般病院、ジェネラリストからスペシャリスト。様々な道を経て得たものとは。

留学を終えた私は様々なめぐりあわせによって、様々な経験を積むことになります。

帰国後は150床ほどの一般病院で4年ほど特定の領域を決めない外科のジェネラリストとしてキャリアを積みました。その後は自治医科大学 消化器・一般外科学講座の当時の教授よりお話をいただき、現在の教室にて膵臓外科・腫瘍外科のスペシャリストとしての道を歩みました。

こうして大学病院から一般病院、そして再び大学病院へとつとめ、その間ジェネラリスト、スペシャリストとしてのキャリアを積む経験しました。それぞれの経験が私にとっては非常に貴重であり、こうした様々なベースがあってこそ、いまのスペシャリストとしての道が開けていると思っています。

こうした経験を通じて思ったことは、「外科学は治療学である」に尽きます。

つまり、外科学とは治療学という「学問」なのです。外科学が学問である以上、外科診療ではMortalityゼロ、Morbidityゼロを実現するためのエビデンスを積み上げる必要があります。エビデンスに基づきながら、最高の成績を目指すことが外科学であり、そうした姿勢をもつことが外科医のあるべき姿だと考えています。

私はこれからも、最高の手術をめざして日々追求し続ける姿勢を忘れずにいたいと思います。繰り返しになりますが、そうして意識を高く持ち続けられることが、外科医の魅力であり、私の最高のやりがいになっているといえるでしょう。

 

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