連載脱「白い巨塔」―変革続ける医局の“自画像”

100の改善で目指す「誰もが働きやすい医局」―近畿大学医学部皮膚科学教室

公開日

2021年07月06日

更新日

2021年07月06日

更新履歴
閉じる

2021年07月06日

掲載しました。
10889d12fd

脱「白い巨塔」―変革続ける医局の“自画像”【1】 大塚篤司先生

何度もドラマ化されている山崎豊子さんの小説「白い巨塔」で、「大学医局」は絶大な権力を握る教授が頂点に君臨する医学研究と教育の象徴と描かれていました。医学部を卒業した“医師の卵”はほぼ全員が大学の医局に所属して研究・勉学にいそしむだけでなく、教授の“鶴の一声”で僻地を含む関連病院などに派遣されました。

時は流れ、そうした医局制度は「封建的」などの批判を受けるようにもなり、2004年の「新医師臨床研修制度」によって影響力は大きく低下しました。この制度は国家試験合格後2年間で、内科、外科、救急、小児科、産婦人科、精神科、地域医療の臨床研修を短期間経験させる「スーパーローテート」方式を導入したものです。研修先の病院を自由に選べるようになったため、研修医が都市部の施設に集中。その影響で大学病院からの医師派遣機能が低下し、地域医療崩壊の一因になったともいわれています。そうした曲折を経て、医局は今、変革の時を迎えています。新たな医局像づくりに挑むリーダーに、目指す方向性などをお聞きします。

シリーズのトップバッターは、2021年4月に近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授に着任し、「1年で100の改善」を目指しているという大塚篤司先生のお話です。

「所属してよかった」と思える医局に

若い人にとって、医局に所属するメリットは何かという議論がいまだにあり、属する意味はないという論調が増えてきています。それに対して、特に若い世代の教授は医局のいいところも悪いところも知っているので、あり方を変えようと取り組んでいる人も少なくないでしょう。

基本的に、医局は巷間でいわれているほど悪いものとは思っていません。国家試験に受かったばかりのとき、多くの人は何がやりたいか分かっていません。医学は幅が広く、自分に向いていることが何かも分からない中では、まずは何でもできる医局に属していろいろと勉強し、多くの先生を見ることでやりたいことを見つけられ、勉強もできると思っています。

とはいえ、医局というのは不思議な制度です。契約も法的なしばりもない集団でありながら、そこにしばられ、所属、団結している。それで何ができていたかというと、一番大きな役割は教育に加えて地域医療の安定でした。地域の病院にくまなく医師を紹介でき、それによって地域の医療を守るという最初の目的が果たされてきたわけです。

ところが、スーパーローテート制度ができた途端に大学で人が不足し、そのために紹介先の病院から医師を引き上げざるを得なくなりました。これまでは医局の力が強いこともあって、「行ってください」と言えば人事が成り立っていました。ところが、医局の弱体化で、もし嫌な人事を提案されると、医局を辞めて自分で研修先の病院を探すということが日常的に起こるようになってしまったのです。「地域医療を守る」はずだったスーパーローテート制度のせいで、逆に地域医療が苦しくなったと思っています。

こうした問題を何とかできないかと前々から考えていました。制度の問題なので改善策は見つけにくいのですが、少なくとも医局で働く人たちが「医局に属していてよかった」と思える、何らかのメリットがあったり楽しく働けたりすることが必要です。

医局を、そういった働き方ができる場所にしていくことが、今の目標です。

次々繰り出す「改善」

自分のテーマとして、「近大皮膚科100の改善」をやろうと思っています。小さなことでもいいから改善できることを探して1年間で100の改善を目指しています。今すでに20~30項目を書き出してあります。

すでにやったこととしては、たとえば「教授回診」をやめました。これまで教授が中心で看護師長がいて、医局員がぞろぞろ付き従う“白い巨塔”みたいなことが実際に行われていました。多分、昔は若手が教授の回診を見て技術を盗むというような意味があったのだと思います。しかし、今は電子カルテになっていて、診療情報は全部データ化されています。儀式的に続いていますが、本当に意味があるのか疑問に思っていました。

今は新型コロナもありますし、多人数が1つの部屋に押し掛けると密になることもあり、やめました。僕と看護師と病棟医の3人で回診しますが何も問題はなく、むしろ患者さんもプレッシャーを感じず、ゆっくり話すことができます。

それから、カンファレンス(治療方針などを報告する会議)の時間も変え、午後3時スタートにしました。以前は開始が午後5時とか8時とか勤務時間外にやっていたのですが、ワークライフバランスを考えると勤務時間内に終わらせるべきです。家庭の事情で午後5時には帰らないといけない先生が、男女問わず増えています。そういった人たちが勉強できなくなるのは問題ですから。

合わせて、インターネットを介したウェブカンファレンスも始めました。産休や育休で数カ月離れていた先生が戻ってくるときに、ブランクで不安にならないようにできないかという思いがありました。セキュリティーの問題に気を付けながらではありますが、休職中でもいつでものぞけて発言もできます。

さらに、細かい改善点としてはSNSでの発信を始めました。医局ホームページに力を入れて、すごくかっこいいページになる予定です。ペーパーレス化も進めていて、紙での回覧をやめオンラインで文書の共有をするようにしました。

ダイバーシティー(多様性)にも力を入れています。皮膚科は女性医師比率が高く、うちの医局では8割程度が女性です。いろいろな背景を持つ人たちが働けるように気を付けています。その一環でもありますが、医局スタッフはどうしても男性が多くなっていたのですが、その構成比も変えようと思っています。

教育、診療にも変革を

教育、診療内容でも細かいことを変えていくことを計画しています。

その1つとしてアトピー性皮膚炎の教育プログラムをしっかりと作ろうと思っています。

そのプログラムとは、1週間程度入院してもらったら、アトピーの治療に関して患者さんが一通り自分でできるようになるというものです。クリニックの先生たちから「難しい症例」として紹介されて近大皮膚科に入院を経験する。患者さんから自身でケアできるようになりましたといってもらえるように、ステロイドの使い方といった基本的なことから、アレルゲンについての知識などいろいろと分かってもらう。そうすることで、難しい症例であってもクリニックでまたフォローアップできる可能性が出てくると思っています。

もう1つ、専門にしているメラノーマ(悪性黒色腫)について、従来の治療は皮膚科で手術をして、免疫チェックポイント阻害薬のような化学療法は腫瘍内科にお願いをしてきました。これを、皮膚科の中だけでできるように準備を整えています。これまで扱ったことがない先生が多かったので、まずは僕自身が先頭に立って治療しています。そうしながら、後進が育ってきたらバトンタッチすることで、技術と知識を伝授してくということを考えています。

駆け足で、さわりを紹介しました。こうしたことを3日に1つずつ変えないと目標にたどり着けないのですが、達成できれば医局がまたよくなるのではないかと期待しています。

「医療の前進」目指して

医局のモットーは「仕事は楽しく」「人にやさしく」「医療を前進させよう」の3つです。3番目を「医学」ではなく「医療」としているのには訳があります。医学の発展は、研究をしたり論文を書いたりするところにとどまります。一方医療は、患者さんのQOL(生活や生命の質)が上がることにつながるシステムの改善や、患者さんとのコミュニケーションなど、より広いものを含んでいます。研究が苦手な先生もいますが、「医療」と枠を広げればみんなに貢献できること、発展させられることがあるはずで、そこに取り組んでもらいたいという思いを込めています。

大学病院にいるのだから、みんなができること、それぞれが得意なことで前に進めるよう頑張ってほしいと願っています。

そして、外の病院やクリニックに行ったとしても「近大皮膚科で医局に所属していた先生はしっかりしている」「あそこで教育を受けているんだったら大丈夫」と言われるように、教育をしていきたいと思っています。
 

取材依頼は、お問い合わせフォームからお願いします。