連載「働く心臓」の医学 早期診断と早期治療!

健康診断で“心電図異常”の指摘が…どうしたらいい?

公開日

2019年09月24日

更新日

2019年09月24日

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2019年09月24日

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東邦大学医学部内科学講座循環器内科学分野 教授

池田 隆徳 先生

秋は春と並んで、多くの企業などで定期健康診断が行われる“集中期”。一般的な健診では、血液・尿検査、心電図検査、胸部エックス線検査などが行われます。その結果に「異常」「経過観察」などの文字があったら驚き、戸惑ってしまうのではないでしょうか。医師から「大丈夫ですよ」「様子をみましょう」といったコメントをもらえれば安心できますが、そうしたものがない場合には、不安に陥ってしまいます。今回は、心電図から何が分かるのか、そして“異常”とされた場合にはどのように対処すべきかを説明します。

元気だと思っていたのに心電図異常があると言われた

59歳の男性Aさん。会社では毎年秋に定期健診がありますが、忙しさにかまけて過去2回、受診をさぼってしまいました。特に自覚症状はなく、営業職の仕事を十分こなせていたため、健康に問題はないと思っていたそうです。ただ、喫煙をしています。

人事担当者から厳しく言われて3年ぶりに受けた健診で「心電図異常」を指摘されましたが、結果説明の際に医師からは特にコメントはなく、Aさんはどうしたらいいか不安に思っているそうです。

心電図検査

「異常」には多くのバリエーション

実のところ、心電図の「異常」にはたくさんのバリエーションがあります。症状がない場合は問題とならないことが多いのですが、放置しておくとまれに重篤な心臓病を患ってしまうことがあります。そのため、心電図異常の種類と重症度をある程度知っておくことは大事です。

心電図異常には、大きく分けて「波形の異常」と「リズムの異常」の2つがあります。

心電図の「波の形」が表すもの

まずは「波形の異常」について説明しましょう。

心電図とは、心臓が収縮する際に発する電気的な刺激をとらえて波形として表したものです。波は心臓のどの部分がどのように動いているかを示し、1回の拍動をいくつかに分割し、それぞれに「P波」「Q波」などの名前が付けられています。波形の異常は、これらの波が正常な場合と比べて高すぎたり低すぎたり、違う形になっていたりすることを指し「P波異常」「異常Q波」「R波増高」「R波減高」「ST上昇」「ST低下」「T波減高」「T波平低化」「陰性T波(T波陰転化)」――など、多くの所見が含まれます。それらが認められると、発症から30日以上が経過した「陳旧性心筋梗塞(こうそく)」▽高血圧症(心肥大)▽狭心症▽何らかの心筋障害――といったような心臓疾患の存在が疑われます。

しかしながら、心電図には「ノーマルバリエーション」というものがあり、実際には心臓疾患がないにもかかわらず、自動診断でそのような所見が記載されることがあります。健診を担当した医師が「大丈夫ですよ」「様子をみましょう」といったコメントをしているのであれば、問診で症状がまったくないことを確認し、十分に仕事をこなせていることなどから、「ノーマルバリエーションであろう」と判断していると思ってください。

一方、胸痛、動悸(どうき)、息切れなどの自覚症状や、(医師が診て判断する)他覚症状がある場合は、一歩踏み込んだ検査が必要になります。まずは簡便な心エコー(心臓超音波検査)を行い、心臓疾患の存在を探ります。異常がさらに疑われた場合は、特殊循環器検査で精査することになります。

リズム異常―自覚症状があったら精査を

もう1つの「リズムの異常」とは何でしょう。これはよく言う「不整脈」のことです。前出の波形異常は心臓に何らかの病気があることを示すのに対し、リズム異常は心臓が規則正しく拍動しないことを示しています。不整脈には「洞(機能)不全症候群」「房室ブロック」といった脈が遅くなる「徐脈性不整脈」、「(心房または心室)期外収縮」「心房細動」「心房粗動」「(発作性)上室頻拍」「心室頻拍」「心室細動」など脈が速くなる「頻脈性不整脈」が含まれます。ただ、通常の心電図検査では、記録時間が10~20秒程度と短いので、しっかりと診断するには限界があります。

不整脈を有する方のなかには、以下のような症状を自覚することがあります。

軽度の症状

  • 脈の欠滞感(脈が跳ぶ感じ)
  • 脈の乱れ感
  • 胸部の違和感
    ――など

中等度の症状

動悸

  • 動悸
  • 胸痛
  • めまい
    ――など

重度の症状

  • 失神(一過性の意識消失)

自覚症状と不整脈にはある程度の関連性があります。例えば▽脈の欠滞感なら期外収縮▽胸痛なら狭心症▽脈の乱れ感なら心房細動▽動悸発作なら発作性の上室頻拍や心房細動▽めまい・失神なら洞不全症候群や房室ブロック、心室頻拍や一過性心室細動――を生じている可能性があります。

心電図で不整脈が認められた方で、上で述べたような自覚症状がある場合は、携帯式の心電図計を装着して記録を取る24時間ホルター心電図や、長時間イベント心電図、場合によっては植込み型心電計や不整脈のカテーテル検査を行い、重症度や危険性を精査することになります。

症状がなくても精査が必要な人

一般に、症状がまったくない場合、「心電図異常」はあくまでも“心電図上の所見”として放置してよいことが多いです。ただし、症状がなくても、心臓疾患の危険因子である喫煙、糖尿病、高血圧、脂質異常症(高コレステロール血症)、肥満などを有する方や血液検査で何らかの異常が指摘された方は、念のため循環器科を受診し、精査しておくことをお勧めします。心電図の異常から疑われる狭心症、心筋梗塞、心筋症、心室不整脈(心室頻拍など)はきわめて重篤な疾患であり、前回説明した「予期せぬ心臓突然死」を引き起こすことが知られています。

循環器を専門とする病院では、外来で行える検査によってほとんどの患者さんはある程度の判断がつけられます。心臓疾患にかかったことがある家族がいる方などを含めて、心配な方は循環器専門病院を受診することを勧めます。

冒頭でご紹介したAさんは、59歳で特に症状はなく、他に異常は指摘されませんでしたが、喫煙をしています。喫煙は心臓疾患の重要な危険因子ですので、循環器系の検査が必要な方だといえます。検査を行った結果、狭心症や心筋症などの存在が明らかとなった方が数多くいます。

治療を必要としない不整脈も

不整脈にはさまざまな種類があることを述べましたが、健診時の心電図で認められることが多いのは、(心房または心室)期外収縮と徐脈です。

期外収縮については、症状(脈の欠滞感)を有する方もいますが、むしろ症状がない方のほうが多いといえます。1日に期外収縮を数千拍認める方でも、症状がないことがよくあります。その場合、心エコーで心機能が正常と判断され、ホルター心電図でそれ以外の不整脈が検出されなければ、治療は行われません。タイプによって異なりますが、1~3年ごとの経過観察で十分です。また、徐脈については心拍数が50拍/分以下と定義されていますが、40~50拍/分は境界域で、ほとんどは治療を要しません。この程度であれば経過観察で十分です。40拍/分未満の場合は、ホルター心電図で重症度を探ることになります。

このように、不整脈にも治療が必要でないタイプがあることを知っておきましょう。健診で「心電図異常」を指摘され、心配な方は、1度は専門病院で循環器系の検査を受けておくとよいでしょう。

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東邦大学医学部内科学講座循環器内科学分野 教授

池田 隆徳 先生

現在、東邦大学医学部内科学講座循環器内科学分野教授であり、東邦大学医療センター大森病院循環器センター長を兼任している。循環器内科を専門とし、なかでも不整脈の診療を得意としている。国内外の専門領域の学会で理事などの要職を務めるかたわら、医師のみならずコメディカルや学生向けにも、循環器、不整脈、心電図、薬物治療、カテーテル・デバイス治療に関する書籍を数多く執筆しており、難解なテーマに対する平易で的確な解説にも定評がある。