連載そこが知りたい!「インターバル速歩」

もう「1万歩」は数えない!? 体力向上には1日15分の早歩きで十分

公開日

2019年09月05日

更新日

2019年09月05日

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2019年09月05日

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信州大学 学術研究院医学系 特任教授

能勢 博 先生

この連載1回目で「体力向上、血圧低下効果を得るためには、個人が『ややきつい』と感じる速歩を1日15分以上、週4日以上実施することが必要で、『楽な』普通歩行をたとえ毎日1万歩実施してもその効果はほとんど期待できない」と述べました。でも、読者の中には「ウソー、そんなの信じられない! “1日1万歩”を信じてこれまで真面目に日々ウオーキングをやってきたのに……」とおっしゃる方もおられるかもしれません。1万歩を歩こうとすると1時間では足りません。それよりも「15分の速歩」が効果的とは、にわかには信じがたいという方々のために、今回はこの8月30日、米国の医学雑誌「メイヨー・クリニック紀要」オンライン版(Mayo Clinic Proceedings doi: 10.1016/j.mayocp.2019.04.039)に掲載された信州大学医学系研究科、増木静江教授らのグループによる論文の内容を紹介しましょう。誰もが納得の最新情報です。

週末にまとめて歩いてもOK! 続けやすいから脱落者はわずか

増木さんたちは679人の中高年者(男性196人、女性483人、平均年齢65歳)を対象にインターバル速歩を5カ月間続けてもらい、その前後に体力(最高(大)酸素摂取量)と生活習慣病の症状を評価しました。

インターバル速歩とは個人の最大体力の70%以上に相当する本人が「ややきつい」と感じる早歩きと、40%程度の「楽な」普通歩きを3分間ずつ交互に繰り返すウオーキング方法です。これを1日30分、週4日以上繰り返すよう対象者に指導しました。その際、平日忙しくて実施する時間がない方は週末にまとめてやってもよく、早歩きの週合計が60分以上になるようにと説明しました。

5カ月間のトレーニング中、指導どおり早歩きと普通歩きを半々やった方、ほとんど普通歩きをせずに早歩きばかりやった方、そして、その逆の方もおられました。でも、興味深いことに途中で脱落した方はほとんどおらず、95%以上がプログラムを完遂したのです(その詳細は後日、別の機会にお話しします)。

週平均50分の早歩きまでは運動に応じて体力向上

増木さんたちは、まず、参加者を、各個人の5カ月間の週平均早歩き時間(A)、週平均普通歩き時間(B)、週平均総歩行時間(C)に基づいて小グループに分けました。そして、各グループについてトレーニング前からの体力の変化量を求めました。その結果、図1-Aからわかるように週平均早歩き時間が50分まではそれに比例して体力が向上しましたが、それ以上早歩きをしても効果はありませんでした。すなわち、頭打ちになるのです。

図1
図1:5カ月間の週平均早歩き時間(A)、週平均普通歩き時間(B)、週平均総歩行時間(C)と、最高酸素摂取量(体力)との関係。
週平均早歩き時間については、60分までは6分間ずつ、180分までは約30分間ずつ、240分までは60分間ずつ、それ以上は1つの小グループに分けた。同様に、週平均普通歩き時間については、180分までは週平均早歩き時間と同様だが、400分までは約60分間ずつ、それ以上は1つの小グループに分けた。週平均総歩行時間については、200分までは10分間ずつ、500分までは50分間ずつ、600分までは100分間ずつ、それ以上は1つの小グループに分けた。●とバーは各小グループにおける最高酸素摂取量(体力)変化のそれぞれ平均値と標準誤差(平均値の変動範囲)を表す。○は各小グループの人数を表す。グラフ中の*がついたグループの値は最高酸素摂取量がトレーニング前の値に比べ5%以下の危険率で統計的に有意差があることを示す。Masuki et al. Mayo Clinic Proceedings doi: 10.1016/j.mayocp.2019.04.039より引用改変。


ただ、週平均早歩き時間が10分まではマイナスの値になっています。これは、そのレベル以下の早歩きでは「加齢による体力の低下」を食い止められないことを意味します。一方、図1-Bをみると、いくら長時間普通歩きをしても体力が向上しません。図1-Cの週平均総歩行時間も同様です。また、図1-B、Cで、週平均普通歩き時間、週平均総歩行時間がほぼゼロでも体力が向上している理由は、そのグループに属する方のほとんどが普通歩きをせず早歩きだけをやっていたからです。

このことから、体力を向上させるのは「早歩きを何分やったか」に依存し、いくら長時間普通歩きをやっても(何歩歩いても)ほとんど効果がない、ということになります。さらに、「早歩きも週合計50分で十分だ」ということもわかりました。

早歩きで体力向上することのメリット

では、このように早歩きを実施し体力が向上したら、どんなメリットがあるのでしょうか。図2は、図1と同様、週平均早歩き時間(A)、週平均普通歩き時間(B)、週平均総歩行時間(C)に対する生活習慣病指標をトレーニング前の値からの変化量で示したものです。生活習慣病指標とは

――のいずれかの診断基準を満たせば1点加算します。したがって4点で満点(点数が少ないほど生活習慣病の症状が低減)です。その結果、週平均早歩き時間が50分まではそれに比例して生活習慣病の症状が改善しましたが、それ以上やっても底打ちになることがわかりました。一方、週平均普通歩き時間、週平均総歩行時間がいくら長くても生活習慣病の症状はほとんど改善しません。すなわち、生活習慣病を改善するのは「早歩きを何分間やったか」「その結果、体力がどれほど向上したか」に依存し、いくら長時間普通歩きをやってもほとんど効果がない、ということになります。

図2
図2:5カ月間の週平均早歩き時間(A)、週平均普通歩き時間(B)、週平均総歩行時間(C)と、生活習慣病指標との関係。小グループの分け方、それぞれの小グループの被験者数、各シンボルの意味は図1と同じ。Masuki et al. Mayo Clinic Proceedings doi: 10.1016/j.mayocp.2019.04.039より引用改変。

“1日1万歩神話”誕生の背景

ではなぜ、今まで「1日1万歩を目標に」という“神話”が信じられてきたのでしょうか。その理由はこれまで、

1)現場で個人の体力を「精度よく」測定できる簡便なプロトコル(標準化された約束事)がなかった

2)現場で運動中の強度が個人の目標値に達していることを「簡単に」測定できる測定器がなかった

3) 1)、2)の課題を克服して、現場で「大勢の」中高年者を対象に各個人の最大体力の70%以上に相当する「ややきつい」と感じる運動の効果を実証した研究がなかった

――ことの3つです。インターバル速歩は、それらの課題を解決するのに持って来いのツールだったのです。

次回から、私たちが課題解決に至った経緯や、読者の皆さんが「今すぐ始められる」具体的なやり方についてわかりやすく解説していきましょう。

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信州大学 学術研究院医学系 特任教授

能勢 博 先生

画期的な効果で、これまでのウォーキングの常識を変えたといわれるインターバル速歩を提唱。趣味は登山。長野県の常念診療所長などを歴任し、1981年には中国・天山山脈の未踏峰・ボゴダオーラ峰(5445m)に医師として同行、自らも登頂した。