連載そこが知りたい!「インターバル速歩」

「暑さに強い体」とは生活習慣病のない体だった!

公開日

2019年07月25日

更新日

2019年07月25日

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2019年07月25日

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信州大学 学術研究院医学系 特任教授

能勢 博 先生

うっとうしい梅雨の季節が過ぎると、本格的な夏の到来です。さあ、夏休み、海だ、山だ、と浮かれたのも昔のこと。最近は何よりも「熱中症」を避けることが最優先になってしまいました。特に真夏日や酷暑日が連続することが常態化した昨今の日本で真夏に野外で遊ぶことは、命の危険が伴うといってもよいでしょう。しかし「夏に野外で遊べなくなった」のは、単に昔より気温が高くなったことだけではなく、私たちの「体力」にも問題があるようなのです。前回、インターバル速歩の体力向上と生活習慣病改善効果についてお話しました。それに加えて、生活習慣病と体温調節能との間に密接な関係があり、生活習慣病を患っている方は熱中症にもかかりやすいらしいということが、最近の研究で分かってきました。今回はその理由について、私たちの最近の研究結果をお見せしながらお話ししていきましょう。

ヒトの体温調節能は血液量に依存する

「血の気が多い」という言い回しは、「興奮しやすい」など、どちらかというとマイナスイメージの表現です。しかし、文字通り「血が多い」ことは、ヒトとして優れた能力を生み出してくれます。どういうことでしょうか。

諸説ありますが、ヒトが地球上に広く生息できた原因として、2本足で運動(移動)すること、皮膚の下に張り巡らされたたくさんの血管に多くの血液が流れて汗によって体の熱を放散する優れた体温調節能力を持っている――ことが挙げられます。私たちは2本足で移動することで、両手(前足)を使い狩猟の獲物などを持ち運べるようになりました。そして、運動で発生した大量の熱を素早く放散できる優れた体温調節能力のおかげで、広い大地を長時間歩いたり走り回ったりできるようになりました。

この2足歩行と体温調節能力という2つの機能を維持するために「血液量」が重要なのです。簡単に説明すると、心臓に還ってくる血液が多ければ多いほど、心臓は下肢を含めた筋肉に多くの酸素を供給できますし、皮膚表面にも多くの血液を送り、熱を体外に放散することができます。事実、マラソンなど長距離のトップアスリートは、普通の人に比べて体重あたり「2倍」近い血液量を持っています。

運動後の乳製品摂取は血液量増加に効果

では、血液量を増加させるためにはどうすればよいのでしょうか。答えは「運動後の乳製品」です。インターバル速歩で疲れた体に、糖質や乳たんぱく質を含む乳製品を与えてあげましょう。例えば牛乳ならコップ1~2杯、牛乳の苦手な人はヨーグルトやチーズでも効果があります(乳製品は一般に糖分の含有量が少ないので、一緒にクラッカー、蜂蜜、ジャムなどを摂取しましょう)。

ここで、過去に私たちが行った研究を紹介します。生活習慣病がある中高年の方を対象に、糖質・たんぱく質補助食品(乳製品)が体温調節能に及ぼす効果を検証しました。その結果、乳製品摂取群では、血液中のたんぱく質の一種で血管内の水分保持の役割を果たす「血漿(けっしょう)アルブミン」量や、血液の液体成分「血漿」量が増加しました。一方の対照群はいずれも増加しませんでした(図1)。また、トレーニング前後の体温調節反応を調べてみると、乳製品摂取群では発汗、皮膚血管拡張反応がそれぞれ20%、40%改善しましたが、対照群ではいずれも目立った差がみられませんでした(図2)。

図1

図1:高齢男性(平均年齢69歳)にブドウ糖25gを摂取させる対照群12人と、ブドウ糖15g+乳たんぱく質10gを摂取させる糖質・乳たんぱく質群11人にわけ、最大酸素摂取量の60~75%の強度の自転車運動を60分/日、3日/週の頻度で8週間実施し、それぞれの運動日の運動直後に、それぞれの補助食品を摂取させた。その結果、糖質・乳たんぱく質補助食品(乳製品)を摂取させると、血漿量、血漿アルブミン量の増加が促進した。対照群、糖質・乳たんぱく質群、それぞれ12人と11人の平均値と標準誤差(平均値のばらつきの指標)で表す。#は、トレーニング前値に比べ統計学的にP<0.05の危険率で有意差があることを表す。また、繰り返しを許す2元配列[群 x トレーニング]分散分析法で有意な交互作用を認めた。すなわち、トレーニング前後の変化量に群間で差があることを意味する。Kataoka Y et al., J Appl Physiol, 121: 1021-1031, 2016 より引用。

図2

図2:図1の8週間の介入前後において、被験者に気温30℃、相対湿度50%の部屋で自転車運動を行わせた際の、食道温に対する発汗速度、皮膚血管拡張度を、対照群、糖質・乳たんぱく質群それぞれ12人と11人の平均値と標準誤差で表す。トレーニング前(○)に比べ、トレーニング後(●)では両群で反応が亢進しているが、糖質・乳たんぱく質群では対照群に比べ、その亢進の程度が高い。#は、トレーニング前値に比べ統計学的にP<0.05の危険率で有意差があることを表す。Kataoka Y et al., J Appl Physiol, 121: 1021-1031, 2016 より引用。

この理由について簡単にご説明しましょう。ヒトの体では運動直後に肝臓でのアルブミンの合成能力が高まっています。そのタイミングで、アルブミンの原料になる乳製品(アミノ酸)を摂取すると、合成反応が促進され、より多くのアルブミンが血液中に放出されます。血管内のアルブミンは血管外から水分を吸い込み、血液量を増加させます。それによって体温調節能力が向上していくのです。

生活習慣病の症状改善が体温調節能を向上させる

私たちが生活習慣病と体温調節能力との関係に気付いたのは、上述の研究結果に対する臨床医からの指摘がきっかけでした。臨床医は「血漿量の増加によって高血圧の症状が悪化したり、乳製品に含まれる乳糖によって糖尿病の症状が悪化したりするのではないか」と危惧(きぐ)していました。

しかし、乳製品摂取群、対照群の両方で、トレーニング後・安静時・運動時のいずれでも平均血圧が大きく低下しました(図3)。さらに、頸動脈コンプライアンス(やわらかさ)は、乳製品摂取群でむしろ増加していたのです(図4)。このことから、運動と乳製品摂取の併用によって循環調節機能が大きく改善し、血漿量が増加しても血圧上昇を抑制することが明らかとなりました。

図3
図3:図1の8週間の介入前後において、被験者に気温30℃、相対湿度50%の部屋で自転車運動を行わせた際の、平均血圧(=拡張期血圧+(収縮期血圧-拡張期血圧)/3)をそれぞれ12人と11人の平均値と標準誤差で表す。トレーニング後、糖質・乳たんぱく質群では血漿量が増加したにもかかわらず対照群と同様、安静時、運動時の平均血圧が低下した。Kataoka Y et al., J Appl Physiol, 121: 1021-1031, 2016 より引用。
図4

図4:図1の8週間の介入前後において、被験者に25℃の部屋で、仰臥位姿勢で、頸動脈径を超音波ドップラーイメージング法で、動脈血圧をフィノメータで連続測定し、頸動脈コンプライアンス(やわらかさ)を求めた。その結果、対照群では変化しなかったが、糖質・乳たんぱく質群では有意に増加した。それぞれ12人と11人の平均値と標準誤差で表す。#は、トレーニング前値に比べ統計学的にP<0.05の危険率で有意差があることを表す。Kataoka Y et al., J Appl Physiol, 121: 1021-1031, 2016 より引用。

今回はデータをお見せすることができませんが、運動と乳製品摂取を併用することで血糖調節機能も改善を確認しています。そして、血糖調節機能のすぐれた人ほど、血液量が増加しやすいことも明らかになってきました。これらの研究結果の詳細については、また別の機会にお話ししましょう。

中高年者の体温調節能力は血液量が増えると高まり、この2つと高血圧症や糖尿病などの生活習慣病とは相互に密接に関係しています。このことから、生活習慣病の人は体温調節能力が低下する、つまり熱中症にかかりやすいという結論が導かれます。

生活習慣病に悩む方にとって、運動と乳製品摂取の因果関係を知り実践することは、健康な体を手に入れる第1歩です。この夏は暑いからといって冷房の効いた部屋に閉じこもらず、毎日30分程度のインターバル速歩にチャレンジしてみてはいかがでしょう。そのあとにコップ1~2杯の牛乳、またはそれに相当する乳製品を摂取してください。そうすることで、最初の1~2週間で暑さに強い体になり、2~3カ月がたって秋風の吹くころには高血圧症、糖尿病などの生活習慣病の症状もぐっとよくなるはずです。インターバル速歩は比較的涼しい朝夕の時間帯に行うのがオススメです。

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信州大学 学術研究院医学系 特任教授

能勢 博 先生

画期的な効果で、これまでのウォーキングの常識を変えたといわれるインターバル速歩を提唱。趣味は登山。長野県の常念診療所長などを歴任し、1981年には中国・天山山脈の未踏峰・ボゴダオーラ峰(5445m)に医師として同行、自らも登頂した。